5号館を出て

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学術雑誌の不採算性


 小林・益川両氏も論文発表、伝統の学術誌が赤字で廃刊危機

 いかにもという感じの、「ノーベル物理学賞の小林誠さん、益川敏英さんが受賞論文を発表した学術誌が、廃刊の危機に直面している」と、例によってノーベル賞効果で補助金を要求する論調の記事です。

 日本発の理論物理学雑誌であり、歴史的意義もあるのだと思いますが、あまりの不採算性に「それはオンライン版にしましょう」と提案したくなりました。
 発行部数は800部と少ないが、購読者は欧米など世界中におり、現在は京都大・湯川記念館内の理論物理学刊行会が年12回発行。

 だが、年間約6000万円かかる出版経費のうち、数年前には約半額を賄っていた日本学術振興会の補助金が年々削減され、現在は1600万円しかない。

 編集長の九後(くご)太一・京都大教授は「購読料や投稿料の収入をやりくりしても1年で約100万円の赤字が出る。積立金で穴埋めしているが、助成費が廃止されたら数年で廃刊に追い込まれてしまう」と危機感を募らせる。

 益川さんも、受賞決定後の記者会見で、「研究成果が海外で客観的な評価を受けるため、日本人が主となって運営し、世界に通用する学術誌を持つことは非常に重要だ」と強調。安定して発行できる助成制度の必要性を訴えた。
 ノーベル賞効果で、このくらいの補助金はすぐに出るのかもしれませんが、たとえ年に12回発行しているとはいえ、たった800部しか刷られなくて、年間6000万円というのはどうみても不経済です。一冊6250円の月刊誌を誰が買うというのでしょうか。

 たとえ1600万円でも無駄な印刷費を税金に投入することは、「無駄遣い」だと思います。印刷をやめてオンライン版だけにしたら数百万円ですむでしょうし、世界中の人に無料で閲覧してもらうことも可能になります。

 すべてをオンライン版にして、印刷費を浮かせましょうと提案しようと思って、雑誌のホームページを見て、またまたビックリしてしまいました。なななな~んと「現在のところ、オンライン版のみの購読はできません」とのことですが、年会費が2008年で19,320円、2009年は19,680円です。

 すぐに、印刷をやめてもらって、オンライン版だけにして欲しいと思います。

 そもそも、たとえノーベル賞の対象になった論文で、「紙と鉛筆」だけで行われたものだとしても、税金で雇われた大学教員の研究であるならば、しかも税金からの補助金で出版しているものであるならば、納税者は無料で閲覧する権利があるはずです。しかも、ほとんどの納税者はたとえ興味があったとしても年間2万円も払って、場所を取るだけの印刷された雑誌を欲しいと思うはずもありません。

 できるだけ早い機会に紙での印刷をやめ、ウェブでの閲覧を無料でできるオープン・アクセスにすることをおすすめします。

 補助金も全廃とまでは思いませんが、この雑誌をオンラインでオープンアクセスできる程度の額にまで減額してもらってかまわないと思います。

 たとえノーベル賞を取ったのだとしても、税金の無駄遣いはいけません。
Commented by nq at 2008-10-14 22:53 x
暴論ですね。
原価内訳をご存じなのでしょうか?
編集者を雇用する人件費のことを考えるだけでも、数百万円でできるはずがないことがわかりそうなものです。
ふだんは共感できることが多いですが、今日はあきれ果てました。
Commented by stochinai at 2008-10-14 23:38
 暴論は覚悟のうえですが、学会誌には不信感があります。そもそも査読も我々研究者が無料でやっています。編集長もボランティアでやっているところが多いのではないでしょうか。原価内訳はまったく知りませんが、学会が発表したものも見たことがありません。公開しているところがあったらお教えいただきたいと思います。動物学会では無料公開はしていないと思いますが、印刷はほぼやめたはずです。
Commented by makoto at 2008-10-15 02:34 x
印刷版をやめてしまうとそもそも補助が出なくなるという噂を聞いたのですが、本当でしょうか?そうだとすると、そのような補助のあり方も考えないといけませんね。
Commented by stochinai at 2008-10-15 07:12
 その話は聞いたことがあります。補助金がこなくなって、出版社に「身売り」をした学術雑誌もあります。出版社に売り渡すということはオープンアクセスには逆行する行き方ですが、来るか来ないかわからない補助金に一喜一憂するよりは「民営化」してしまうというのも潔い解決法のひとつだと思います。ビジネスモデルとしては厳しいものがありますが、研究の自由を守るためには、大学だけではなく学会も補助金行政から脱皮しないとダメなんだと思います。
Commented by nq氏の補足 at 2008-10-15 07:47 x
研究者も編集長も大学などで雇用されていてボランティアでも生活出来るでしょうが、編集の事務に携わる人までボランティアでやるのは普通は無理です。そのような人をひとり雇うだけでも数百万は必要です。当たり前ですが人を雇うためには渡す給料の1.5倍程度は管理費がかかるというのが世の常識です。
動物学会の例が挙げられていますが、そこも現状「無料公開」はしてないわけです。
ただし、複数の学会誌で事務担当者を共有するなどしてコストを抑えることは可能でしょう。
まずは身近な動物学会が無料公開していないことの理由をお調べになっては如何でしょうか。
自分の手の届く範囲でものを語ると直接的な責任が生じるから、遠い世界の批判をするほうが楽ですけれども。
印刷物を無くしたほうが良いというご主張には激しく同意です。
Commented by バイトさん at 2008-10-15 09:21 x
学会誌の編集の事務は、多くの場合フルタイムではなく、週に2回程度で、それも数時間だけのパートさんではないでしょうか。
同じくパートの教授秘書さんが、毎日少しずつ時間を増やして対応している場合もあります。
どちらにせよ、年間300時間か多くて500時間とかでしょうから、せいぜい数十万から百万行かないような保険もなくて済む範囲なので、数百万は言い過ぎです。
Commented by 派遣 at 2008-10-15 10:16 x
そういうやり方をしてるから質の高い学術雑誌が生まれないのではありませんか?
Commented by stochinai at 2008-10-15 13:18
 補助金で細々と命をつないでいた国内学会誌の多くは質を上げるというより、どうやったらつぶれないかという次元の話にしかなっていないと思います。
Commented by ひとこと at 2008-10-15 18:33 x
国内雑誌の状況は、厳しいものがあります。しかし、紙媒体無しのオンライン雑誌は危険だと思います。

私はmovie付の論文を10年前にある雑誌に掲載しましたが、既に、サイトからmovieは削除され見ることができません。論文の重要な部分だったのに。。

過去の論文が、残っているのは紙という媒体で印刷物として配られ、それが図書館に保管されているからです。

オンラインジャーナルはアクセスが簡単で便利ではありますが、サイトの記憶容量には限界があります。私の論文のmovieの様に、消されてしまうかも知れません。そのままで読める紙媒体は大切と思います。
Commented by stochinai at 2008-10-15 18:41
 紙媒体の長所もわからないでもないのですが、値段を考えると今やある種の「贅沢」になってきたのかな、と思います。図書館学や情報学関係者の方がいらっしゃいましたら、デジタル記録と紙媒体記録を今後どのようになっていくのか、またどのようにしていくべきなのかなどというご意見をお聞かせ願えませんでしょうか。
Commented by alchemist at 2008-10-15 18:54 x
歴史だけは在るけど貧乏な学会の関係者です。
年間6000千万も出版経費に掛けられるなんて、やっぱりノーベル賞を輩出している学会は違いますね。それだけあったら、会員数数(a few です)千人のうちの学会の運営費を賄ってたっぷりのおつりが来ます。
stochinaiセンセ、そんな豊かな学会を例に上げてくれたら、這いずるような運営をしている当方は困ります。
Commented by ひで at 2008-10-15 23:51 x
延命がやっとのマイナー学会誌でも歴史的価値以上の存在意義があるのでしょうか?PLoS ONEの登場により、体裁さえ整えていればほぼ確実に科学論文として公表できるようになりました。しかもオープンアクセス。学会のwebページからリンクを貼ってバーチャル学会誌を創ることさえ可能です。有象無象の雑誌、特にオープンアクセスですらない雑誌はもう要らないんじゃないかと思います。
Commented by 鶏肋 at 2008-10-16 07:20 x
学会誌の運営に携わっている方には暴論なのかもしれませんが、私は賛成します。PubMedにも載らないマイナー誌に出したことがありますが、そこは運営費の関係で混乱した結果(学会費自体が乱変しました)、オンライン版のみとなったようです。私としては、運営費自体は学会費で賄い、オープンアクセスにするのが一番いいですね。
オンライン版の保存と公表に関しては、CINIIやJ-Stageに移管してしまうのもいいと思います。
Commented by stochinai at 2008-10-16 07:38
(stochinai です。代理投稿します。)
図書館情報学研究者です。
冊子体雑誌(と日本の図書館では呼びます。jargonです)の
消滅については1980年代から多くの議論があります。
個人的には、冊子体雑誌は印刷配布に加え、図書館での受入
・排架管理、製本・補修、保存場所の確保に関わるコスト維
持に問題があり、何より検索と利用の不便さから消滅へ向か
うと考えています。
Commented by stochinai at 2008-10-16 07:38
(続きです。)
しかし、電子ジャーナルには上記コメントにありました「消
去」への不安、また出版社移行等の雑誌刊行変更に伴う提供
不全問題もあります。
http://wwwsoc.nii.ac.jp/mslis/am2008yoko/04_inokuchi.pdf
主題分野による紙と電子への考え方にも多様さがあり、すぐ
にはこの議論の決着はつかないことでしょう。「雑誌」とい
うタイトル(ブランド)とそれにぶらさがる論文の位置づけ
にも議論は及びます。
Commented by ひとこと at 2008-10-16 19:59 x
私の論文の一部のmovieがwebから消えたのはインパクトファクターが10以上のメジャーな雑誌です。マイナーな雑誌ではないです。

ディストリビューションも当然結構良い雑誌です。主要雑誌でも、消去の不安があります。マイナーな雑誌だと、その危険は増すと思います。

仮にCINIIやJ-Stageに任せても、データ量が少ないうちは良いでしょうが、増えるにつれてコストは増大します。何れは問題になります。

個人的見解ですが、もし、電子化するなら、DVDに雑誌の内容を焼いて、図書館がDVDを購入するようにするのも、一つの方法かも知れません。DVDは多くの場所で保管される事になり、消去の危険性も分散されると思います。
by stochinai | 2008-10-14 21:35 | 科学一般 | Comments(16)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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