5号館を出て

shinka3.exblog.jp
ブログトップ | ログイン

身体の中で硫化水素の血管拡張作用が利用されている

 硫化水素というと、ちょっと前に自殺に使われるガスとして悪名高かったのですが、今日のScienceにはその硫化水素が体内で血管拡張のための信号物質ガスとして働いていることがわかったという論文が出ています。

H2S as a Physiologic Vasorelaxant: Hypertension in Mice with Deletion of Cystathionine {gamma}-Lyase
Science 24 October 2008:
Vol. 322. no. 5901, pp. 587 - 590
DOI: 10.1126/science.1162667


 文字がうまく表現されないので、タイトルの画像も貼っておきます。
身体の中で硫化水素の血管拡張作用が利用されている_c0025115_20595772.jpg
 NO(一酸化窒素)が血管拡張作用をもつガス性の伝達物質として働いていることが示され、バイアグラの働きがNOを作らせることなどから話題になり、ノーベル賞にもつながったのはそれほど古い話ではないと思って調べてみると、もう10年も前の話なのでした。

 今回、発見された硫化水素も一酸化窒素と同じように、血管弛緩作用があり、血圧を下げる働きがあります。

 論文では、身体の中で硫化水素を作る酵素(シスタチアニン・ガンマ・リアーゼ Cystathionine {gamma}-Lyase: CSE)を作る遺伝子を壊したマウスでは、血液中だけではなく心臓・動脈などの組織において硫化水素レベルが大きく低下していることが示されました。そして、このネズミは高血圧症にもなっていました。さらに、血管を弛緩させ血圧を下げる働きのある神経伝達物質であるメタコリン(methacholine)を与えても血圧が下がらなかったことから、メタコリンの血管弛緩作用はそれによって硫化水素が作られることによって間接的に実現されていることがわかったというわけです。

 おそらくマウスと同じメカニズムがヒトでも働いていることが推測されますので、今後は薬品メーカーなどが必死で研究することになるでしょうが、一酸化窒素と硫化水素が同じ働きをしているのはちょっと不思議な気がします。今後、もうちょっと複雑なしくみが発見されるような気もします。

 また、どこまで本当なのかわかりませんが、硫黄泉と呼ばれる硫化水素の臭いのする温泉には、効能として血圧低下作用があると言われることがありますが、意外とその話とこの話がつながってきたりするとおもしろいですね。民間療法が医学によってサポートされる例になるかもしれません。

 英語ですが、こちらに解説記事があります。

Science News
Naturally Produced 'Rotten Egg' Gas Helps Control Blood Pressure In Body, Researchers Find
身体が作る腐った卵の臭いのするガスが血圧をコントロールすることを科学者が発見した

by stochinai | 2008-10-24 21:33 | 医療・健康 | Comments(0)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


by stochinai