5号館を出て

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2004年 11月 15日 ( 1 )

自分で起こす突然変異

 気温はどんどん下がってきています。おそらく、真夜中の外気温は1℃か2℃だと思います。時折、空から降ってきているものは、雨ではなく雪です。風もかなり強くなってきました。

 今日の講義の後は、明日のゼミで紹介する論文を読んでいました。

 9月頃に出た論文なのですが、ウイルスのおもしろい生き方についての研究です。

 百日咳のバクテリア(細菌)に感染して、内部で増殖し百日咳を破壊してしまう、正義の味方(?)ウイルスの話です。

 百日咳は免疫ができやすく、乳幼児期に一度かかるか、そうでなくてもワクチンが非常に効果的に効くので、それほど問題になっていることもないのですが、ヒトに悪さをする細菌を殺してくれるウイルスは、納税者にも説明しやすい研究対象かもしれません。研究が進んでいるようです。

 そのウイルスが、百日咳菌に感染する時には、細菌の表面にある毒素に結合して侵入します。一方、百日咳菌はときどき毒素を作らないタイプに変異してしまうので、その時には毒素を介したウイルスの感染も起こらなくなると思われていました。

 ところが敵もさるもので、毒素を作らなくなった百日咳菌に感染できるようにウイルスも変異することがわかりました。

 それだけなら、自然界に良くある進化競争のひとつとして片づけられるのですが、そのウイルスの変異の仕方がなんと驚くことに、自分で自分の遺伝子を変異させるカセット遺伝子を用意していて、時に応じてそのカセットから遺伝子を呼び出して、それまで使っていた遺伝子の部品を交換して変化させているということがわかりました。

 毒のない百日咳菌に感染できるようになったウイルスは毒のある菌に感染する力はなくなってしまうのですが、百日咳菌が毒性を回復すると、また例のカセット遺伝子を呼び出して自分の遺伝子を組み換えて、毒性菌に感染できるように復帰もできるというのです。

 現代の進化論は、突然変異はランダムにしか起こらず、ランダムな突然変異の中から適応的な遺伝子を持った個体が自然の力で選択させることで進化が起こると説明しています。

 ところが、ウイルスの研究から、特定の場所に特定の突然変異を引き起こすことがあり得ることが示されるようになってきました。つまり、生物に都合の良い突然変異を起こしうるということです。

 しかも、今回ウイルスで発見された突然変異を引き起こすカセット遺伝子が、ウイルスのみならず、もう少し高等なシアノバクテリアという光合成細菌にあることもわかってきました。

 長い間不思議に思われてきた、合目的な進化というものを期待させてくれる発見なのかも知れません。

 生物というものは、本当に底知れない存在です。
by stochinai | 2004-11-15 17:45 | 生物学 | Comments(3)

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