5号館を出て

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2004年 12月 29日 ( 1 )

 いよいよ歳も押し迫ってきました。

 遅れに遅れたのですが、年明けまで持ち越すこともできないので、書評を書きました。インターネット新聞JANJANに載る前に、こちらで発表します。

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『食べものと農業はおカネだけでは測れない』書評

 農業の危機を我々のいのちの危機と認識しよう

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 力作である。日本における食糧政策の歴史と、我々が置かれている食べ物を巡る状況が良く整理されている。読み終わってみると、自ずと我々のとるべき道が見えてくる。ただし、政府や巨大資本も同じ意見を持つかどうかは保証の限りではない。

 タイトルを見るだけで、おおよその内容が推測できる本ではあるが、9ページという比較的長めのプロローグがとても良く書かれていて、ある意味でこの本のすべてがその中に凝縮されている。そのため、プロローグを読むことで、敢えてこの本を買って読まなくても良いと思う人と、本を手に入れてより詳しくその解析と提案を読んでみたいと思う人に分かれるのではないかと思った。

 私は後者であった。

 本というものは、普通は書店へ出かけて手に取り、装丁を鑑賞し、前書きと後書きを中心にパラパラと拾い読みした後に、購入するかどうかを決める。しかし、今はネット時代。わざわざ書店に赴かなくても気に入った本を見つけることができれば、購入したいという人も多いと思う。

 そこでちょっと思ったのだが、こういうプロローグは全文をネットで公開してみてはどうだろう。それを読むだけで満足して買わないと言う人もいるだろうが、そういう人は書店でこの本を手にしても買わないだろう。逆に、ネット上でそのプロローグに出会い、購入してくれる人も多いのではないだろうか。すでに詳しい目次は公開されているのだが、目次では著者の文体などは伝わってこないので、購入の決め手にはなりにくいだろう。商売を離れても、著者の主張が世界に公開される意義も大きい。

 農業研究者である著者は「人間は他の生き物(のいのちの産物)を食べることによって、自らのいのちを継続してきた」という生物学的視点を見失わない。ヒトの命の危険に直結する高病原性トリインフルエンザ、BSE(狂牛病)、O-157、抗生物質耐性菌問題などが次々と起こっている現状を、科学技術による食べものの人工改造によって、食べもの自体が危険なものになるという人類未曾有の「食の危機・第三ステージ」に入ったと、著者は警告する。

 そうした状況を引き起こしたのが、農産物の商品化、グローバリゼーション、大規模農業などであり、それをを推進してきた日本のそして世界の農業政策の歴史を振り返り、絶望する前にその状態から脱するために我々にもできることがまだあることも教えてくれる。

 その解決策として、現代市民社会を農村市民社会へと再構築するという提案を、我々は受け入れることができるだろうか。さらには、それを受け入れる政府を、そして世界を作ることができるのだろうか。問いかけの意味は重い。
by stochinai | 2004-12-29 00:00 | つぶやき | Comments(0)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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