2005年 06月 10日 ( 2 )
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2005年 06月 10日
一卵性双生児間の臓器移植
臓器移植の成功を支配する「組織適合抗原」と呼ばれるタンパク質はその数が複数あり、しかも遺伝子の種類がたくさんあります。ABO血液型も組織適合抗原のひとつですが、遺伝子は1つでその種類も3つしかありませんので、ABO血液型はヒトによってA(AA、AO)、B(BB、BO)、AB(AB)、O(OO)の4種類の型しかありません。カッコ内は持っている遺伝子の型で、同じA型の血液を持つヒトでも遺伝子の組み合わせは2種類あるのです。
しかし、ヒトの臓器移植に関連するHLAと呼ばれる主要な組織適合抗原遺伝子は、大きく分けてHLA-A、B、C、DR、DQ、DPの6種類があり、それぞれにたくさんの種類の遺伝子があります。仮にそれぞれの遺伝子に10種類の型があるとしたらどうでしょう。HLAの場合は、ABO血液型と違って遺伝子の型が違うと移植の適合性が違ってきますので、1人のヒトは10種類の遺伝子を持てる可能性があります。
遺伝子は親から子へ受け渡されますので、実際にはランダムということはないのですが、もしもヒトがランダムにHLA遺伝子を持っているとすると、その組み合わせは10の10乗通り(つまり100億)の種類があることになります。
すべてのHLAが一致することはほとんど期待できないということがわかると思いますが、多少の違いがあっても今は免疫抑制剤というものがありますので、10万人に1人くらい移植可能な組み合わせの相手がいると言われています。
そのくらい移植可能な相手を見つけることは難しいのですが、唯一の例外が一卵性双生児のケースです。一卵性双生児は、お互いが持っているすべての遺伝子が同じですから、HLAも100%一致しており基本的には免疫抑制剤なしにあらゆる臓器の移植が成功するはずです。理論的にはそうであっても、一卵性双生児間の移植手術が、それほどたくさん行われているとも聞きません。今回は、一卵性双生児間の移植というだけではなく、移植された卵巣で赤ちゃんができたというニュースです。
朝日では「米国で不妊治療として一卵性双生児の姉妹間で卵巣移植を受けた25歳の女性が自然に妊娠、今月健康な女児を出産したことが分かった」と報道されています。CNN/APによると、「卵巣移植の手術を受けたアラバマ州在住の女性(25)が6日夜、女児を無事出産した。卵巣移植後の出産は米国では初めて」、しかも「女性は2004年4月、一卵性双生児の姉から卵巣組織の一部の移植手術を受け、術後5カ月で妊娠した 」そうです。
朝日によると「卵巣移植による出産例では、自分の卵巣をがん治療前に凍結保存していたベルギーの女性が、治療後に移植し、昨年9月に女児を出産したケースが報告されている」とのことで、こちらのケースは自分の臓器を自分に移植していますが、今度の一卵性双生児間の移植も生物学的に見ると自分の臓器を自分に移植するのと変わらないことになります。
こういう成功の話を聞くといつも考えてしまうのがクローン人間です。クローン人間は一卵性双生児と同じ存在ですので、免疫抑制剤なしにあらゆる臓器の移植が可能になります。深い欲望を持つ人間が、自分の命を救うためなら臓器提供用のクローン人間を作ろうという気持ちになってもそれほど不思議ではありませんが、多くの人は反対だと思います。
しかし、クローン人間ではなくクローン臓器ならいいかもしれないということで、今世界ではES細胞から移植医療に使える臓器を作る研究が盛んに行われています。自分の細胞核を持ったES細胞からできた臓器がクローン臓器です。まあ、臓器ならヒトを殺してその臓器を自分に移植するわけではないからいいのでは、と思われるかも知れませんがES細胞をつくるためには、最初にクローン人間に育つ可能性のあるクローン胚を作る必要があるのです。
胚がクローン人間になる前に壊してしまえば、クローン人間を殺したことにはならないという論理がありますが、胚はいつから、人間になるのか考えてみましょう。とても、難しい質問だと思います。この件については、患者・医者・科学者だけではなく、人類全体の問題として全員がかかわって議論を深める必要があると思います。
しかし、ヒトの臓器移植に関連するHLAと呼ばれる主要な組織適合抗原遺伝子は、大きく分けてHLA-A、B、C、DR、DQ、DPの6種類があり、それぞれにたくさんの種類の遺伝子があります。仮にそれぞれの遺伝子に10種類の型があるとしたらどうでしょう。HLAの場合は、ABO血液型と違って遺伝子の型が違うと移植の適合性が違ってきますので、1人のヒトは10種類の遺伝子を持てる可能性があります。
遺伝子は親から子へ受け渡されますので、実際にはランダムということはないのですが、もしもヒトがランダムにHLA遺伝子を持っているとすると、その組み合わせは10の10乗通り(つまり100億)の種類があることになります。
すべてのHLAが一致することはほとんど期待できないということがわかると思いますが、多少の違いがあっても今は免疫抑制剤というものがありますので、10万人に1人くらい移植可能な組み合わせの相手がいると言われています。
そのくらい移植可能な相手を見つけることは難しいのですが、唯一の例外が一卵性双生児のケースです。一卵性双生児は、お互いが持っているすべての遺伝子が同じですから、HLAも100%一致しており基本的には免疫抑制剤なしにあらゆる臓器の移植が成功するはずです。理論的にはそうであっても、一卵性双生児間の移植手術が、それほどたくさん行われているとも聞きません。今回は、一卵性双生児間の移植というだけではなく、移植された卵巣で赤ちゃんができたというニュースです。
朝日では「米国で不妊治療として一卵性双生児の姉妹間で卵巣移植を受けた25歳の女性が自然に妊娠、今月健康な女児を出産したことが分かった」と報道されています。CNN/APによると、「卵巣移植の手術を受けたアラバマ州在住の女性(25)が6日夜、女児を無事出産した。卵巣移植後の出産は米国では初めて」、しかも「女性は2004年4月、一卵性双生児の姉から卵巣組織の一部の移植手術を受け、術後5カ月で妊娠した 」そうです。
朝日によると「卵巣移植による出産例では、自分の卵巣をがん治療前に凍結保存していたベルギーの女性が、治療後に移植し、昨年9月に女児を出産したケースが報告されている」とのことで、こちらのケースは自分の臓器を自分に移植していますが、今度の一卵性双生児間の移植も生物学的に見ると自分の臓器を自分に移植するのと変わらないことになります。
こういう成功の話を聞くといつも考えてしまうのがクローン人間です。クローン人間は一卵性双生児と同じ存在ですので、免疫抑制剤なしにあらゆる臓器の移植が可能になります。深い欲望を持つ人間が、自分の命を救うためなら臓器提供用のクローン人間を作ろうという気持ちになってもそれほど不思議ではありませんが、多くの人は反対だと思います。
しかし、クローン人間ではなくクローン臓器ならいいかもしれないということで、今世界ではES細胞から移植医療に使える臓器を作る研究が盛んに行われています。自分の細胞核を持ったES細胞からできた臓器がクローン臓器です。まあ、臓器ならヒトを殺してその臓器を自分に移植するわけではないからいいのでは、と思われるかも知れませんがES細胞をつくるためには、最初にクローン人間に育つ可能性のあるクローン胚を作る必要があるのです。
胚がクローン人間になる前に壊してしまえば、クローン人間を殺したことにはならないという論理がありますが、胚はいつから、人間になるのか考えてみましょう。とても、難しい質問だと思います。この件については、患者・医者・科学者だけではなく、人類全体の問題として全員がかかわって議論を深める必要があると思います。
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by stochinai
| 2005-06-10 21:39
| 生物学
|
Comments(7)
2005年 06月 10日
謎の生物?
毎年、梅雨の季節になると「怪しげな生物が出た」と話題になる生き物がいます。昨日、私のところにTさんという方から、写真付きのメールが舞い込みました。(写真は東京町田に住むTさんが自宅の庭で撮影したものだそうです。)

右側が頭で、拡大するとイカの耳のようにも見えます。

普段は目に付くところにいる生き物ではないので、たまに遭遇すると私でもドキっとすることがあります。今の時期だと、石や植木鉢をひっくり返すと案外見つかるかもしれません。
この動物の正体はコウガイビル(これはおそらくクロコウガイビル)という生き物で、再生力が強いことで有名な(と言っても実は見たことのない人が多い)プラナリアに近い扁形動物と呼ばれるグループの動物です。
コウガイというのは広辞苑によると、髪掻(カミガキ)の音便変化したものだそうで、頭を掻いたり、髪をかき上げたり、かんざしのように髪に挿したりするものがそのように呼ばれていたそうで、形が似ているということなのでしょう。古くから認識されていた由緒正しい動物なのです。またヒルと言っても、もちろんヒルの仲間ではありませんから血を吸ったりはしないのですが、肉食動物なのでカタツムリやナメクジ、ミミズを食べるので、食事中の姿をみ見るとショックを受けるかもしれません。
数年前にはロンドンの街中で宇宙からの生物が発見されたということで「新聞」記事になったという話もあったような気がします。意外と身近にすんでいながら、めったに人と遭遇することのない動物の代表のようなものだと思います。
コウガイビル、名前くらいは覚えてやってください。


普段は目に付くところにいる生き物ではないので、たまに遭遇すると私でもドキっとすることがあります。今の時期だと、石や植木鉢をひっくり返すと案外見つかるかもしれません。
この動物の正体はコウガイビル(これはおそらくクロコウガイビル)という生き物で、再生力が強いことで有名な(と言っても実は見たことのない人が多い)プラナリアに近い扁形動物と呼ばれるグループの動物です。
コウガイというのは広辞苑によると、髪掻(カミガキ)の音便変化したものだそうで、頭を掻いたり、髪をかき上げたり、かんざしのように髪に挿したりするものがそのように呼ばれていたそうで、形が似ているということなのでしょう。古くから認識されていた由緒正しい動物なのです。またヒルと言っても、もちろんヒルの仲間ではありませんから血を吸ったりはしないのですが、肉食動物なのでカタツムリやナメクジ、ミミズを食べるので、食事中の姿をみ見るとショックを受けるかもしれません。
数年前にはロンドンの街中で宇宙からの生物が発見されたということで「新聞」記事になったという話もあったような気がします。意外と身近にすんでいながら、めったに人と遭遇することのない動物の代表のようなものだと思います。
コウガイビル、名前くらいは覚えてやってください。
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by stochinai
| 2005-06-10 20:31
| 生物学
|
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