5号館を出て

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2005年 11月 01日 ( 1 )

がんばる雪印

 「科学・技術と人間の倫理」という、全学教育科目があります。10月12日のエントリーで少し解説されていますが、今日はその講義の5回目で今までケーススタディをやってきた「雪印乳業低脂肪乳食中毒事件」の最後の仕上げとして、なんと雪印乳業のコンプライアンス部の部長さんをお呼びして、「新生・雪印乳業の取組 ~コンプライアンス経営の確立を目指して~」という講演をしてもらうとともに質疑応答をするという、素晴らしい企画がありました。

 学生達は、自分たちで調べて過去の情報はいろいろと探し出せたものの、今の雪印がどうなっているのか、何をしているのかということについてはほとんど情報を得ることができていませんでした。なぜあのような事件が起こったのか、どうしたら事故の再発を防ぐことができるのか、そしてどうやったら消費者の信頼を回復することができるのか、などについて話し合ってはいたものの、当の雪印が現実に何をやっているかを知る機会を得たことは、今まで、雪印事件をさまざまな角度から調べてケーススタディを行ってきた学生達にとっては、またとない締めくくりになったと思います。

 そして、蓋を開けてみてわかったことは、学生達(そして我々教員)の予想を遙かに越えて、雪印ががんばっていることがわかりました。

 導入から雪印の誠実さが伝わってくる話でした。食中毒事件については、もちろん雪印は反省しなければならないことが無数にあったことは誰でもわかるのですが、彼らは食中毒事件の後に起きた、子会社である雪印食品の牛肉偽装事件の方を自分たちの体質の問題として重要視して、その後の会社の構造改革・体質改善につないでいったということを聞きました。

 食品の牛肉偽装事件は、ある意味では補助金詐欺(税金泥棒)のようなもので、食中毒事件のように、直接市民への健康被害があったわけではありませんし、そのことが原因で雪印食品という会社がつぶれる(解散した)という社会的制裁も受けているのですから、それは別会社のことだし済んだことだからと、いう「企業論理」もあり得るかと思うのですが、雪印はそこを一歩進んでそれをあえて自分たちの重大問題であると踏み込むところから改革に着手したところは大きく評価できると思いました。

 そして、先週までに学生達が提案していた、会社の中での経営・現場間のコミュニケーションの回復、社外監視員の導入、製品の品質保証システムの構築など、学生達が提案したようなことはことごとくクリアされていたばかりではなく、消費者との太いパイプの確立、内部社員全員による企業倫理の共有化、行動基準の定着、毎年行われる事件を風化させない活動の数々など、我々の議論をはるかに上回る努力が行われていることがわかったのです。

 たしかにそういう目で見ると、ホームページもひと味違って見えます。

 これには、聞いていた学生も教員もある種の感銘を受けて、講演の後はなかなか質問もしにくい状態でしたが、CoSTEPの教員の方々や、外部から参加していた民間の人々がいくつかの質問で口火を切ってファシリテーターの役割を果たした後は、学生からもなかなか良い質問が出ていました。

 学生からも質問が出ていたのですが、私も直接営業にかかわらないところでこんなに努力をしていたら、営利企業として競争力が弱くなり、会社の経営が成り立たなくなるのではないかと心配するほどだったのですが、部長さんいわく「なぜ雪印は生き残ることができているのかというと、雪印を必要としてくれるという国民(畜産農家・消費者)の声があるからです」という言葉には、ちょっと胸を打たれました。

 安全性や消費者保護にかかるコストを削ることによって競争力をつけるやり方ではなく、消費者や生産者に安全性や安心してウシを育てることができる環境を与えることを続けていき、それが理解されるならば今の雪印の行き方は、企業にとってもそれ以外の国民にとっても正しい道だと思います。我々も、素直に応援する気分になれます。

 今年の9月まで雪印は、「再建会社」としてコマーシャルなどもできなかったそうなので、現在行われている努力を我々はほとんど知らされていなかったわけですが、これからはどんどん広報し、市民や生産者とのコミュニケーションのパイプを太くする努力を続けていけば、雪印は大丈夫なんじゃないかと思わせられました。

 雪印には、このままの姿勢でがんばって欲しいと思います。そうしたら、日本の社会も変わりそうな気がします。
by stochinai | 2005-11-01 20:05 | 教育 | Comments(5)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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