5号館を出て

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2005年 11月 22日 ( 1 )

 東京都などのマンションで発覚した構造計算書の偽造問題は、今後もまだまだ様々な方面へ影響を及ぼすものと思われ、そう簡単に幕引きができるとは思えない状況です。

 私には建築関係の専門的な話はさっぱりわかりませんので、どこをどう偽造したのかという件に関してはまったく理解していないのですが、さきほどのNHKテレビのクローズアップ現代によると、耐震強度計算には国土交通省認定の耐震強度構造計算ソフトウェアが使われていたということです。

 信じられないのは、そういうソフトを使っていながら結果は印刷物で提出するだけというその形式です。番組によると、地震の力の大きさの設定を変えることができるようになっていたということですが、弱い構造仕様ではエラーが出るのでこの地震の大きさのパラメーターを変え、エラーが出ないようにして計算したと言っていました。

 せっかくの政府認定のソフトウェアがあり、そこへデータを打ち込んで計算をするようなステップがあるのに、そのデータファイルをデジタルファイルのままで提出させるようになっていないのは不思議でなりません。旧来の審査システムがIT技術に対応していないと言うことだと思います。

 プリントアウトした膨大な書類を人力でチェックするというシステムでエラーが出ないことを前提に審査が行われていることこそが不思議だ、というのが庶民感覚というものではないでしょうか。テレビに出てきた専門家が「設計図面と計算書を対照して見ればわかるはず」と言っていましたが、それができるとしたらかなり優秀な審査員だと思いますが、私の知る限り日本の公務員はそのような仕事をするために存在しており、事実そのような仕事をこなしてきたと思います。(ここではひとまず、その仕事の非効率性や非合理性は置いておきます。)

 今回の検査を請け負ったのは、民間の審査機関イーホームズというところだそうですが、問題の一級建築士はイーホームズ以外のところが審査する場合にはデータの偽造を見抜かれるので数字の操作はやっていない、と言っているようです。イーホームズの審査員は優秀ではなかったのでしょう。

 一方、計算書の偽造はイーホームズ自身の内部監査によって明らかになったものですので、イーホームズ自体が意図的に審査の手抜きをしたということでもなさそうです。国土交通省の担当者は「認定書や図書省略の範囲の確認など、法令通りの審査をしていれば偽造は防げたはずだ」と指摘しているそうです。

 さて、いろいろなことを考え合わせると今回の事件の大きな原因のひとつになったのが建築確認審査の民間開放だと言わざるを得ないと思います。建築確認審査は、1998年の建築基準法改正で国交相や知事などが指定した民間の検査機関にも開放されたそうですが、今回の事件はなんでもかんでも「民間でできることは民間に」という方針で行われている行政改革に警鐘を鳴らしているものだと言えそうです。この件に関しては、11月10日のエントリー「次は大学だと思います」へのコメントとして、alchemistさん、azarashi_saladさんから、同趣旨の指摘がされております。

 なぜ「民間でできることは民間に」という方針が正しいとは限らないかというと、日本の公務員それも(言葉は悪いですが窓口などで働く)「下級公務員」が非常に優秀であるからです。同じ仕事を同じ値段(給料)で民間ができるとはとても思えないほどの優秀さです。

 我々も法人化されてしまったので正式には公務員ではなくなったのかもしれませんが、大学の事務職員の有能さを見ているとそのことが良くわかります。例えば、我々が提出する科学研究費の申請書類などを隅から隅までチェックして、計算が合っているかどうかなどは言うに及ばず、そんなところまで(!)と思うような些細なことまで確実にチェックされて訂正を要求されます。逆に言うと、「官」へ提出する書類はこの入り口で優秀な事務官によって徹底的にチェックされますので、その先はほとんど素通りで上へ上へと上がっていくのではないかと想像しています。

 私の知っている事務職員ならば、プリントアウトした膨大な書類を人力でチェックしてそのミスを発見できる力があると確信します。「法令通りの審査をする」は誰にでもできるということではありません。それなりの能力を持った人が適切な訓練を受けた後でなければとてもできないことでしょう。

 「民間でできることは民間で」というかけ声でスリム化されているのは、上に書いたような「下級公務員」の仕事が多いのではないでしょうか。つまり「行政改革」によって、もっとも優秀な公務員が大量に削減されて、その上にいる今まで書類を右から左へ流すだけの高級官僚は温存されているということになっているのではないかと危惧しています。

 もしもそうだとすると、超優秀な下級公務員のやっていた仕事を、それほど優秀でもなくしかもコスト意識の高い民間が行ってそこで頻繁にミスが起こったとしても、その先でそれがチェックされるしくみは最初からなかったというにのが現状だったのではないでしょうか。

 「民間でできることは民間で」というのは、政府の財政改革のかけ声としてはわかりやすいスローガンではありますが、何十年(それ以上?)もかけて作られてきた日本の官僚機構を改革するのであれば、その一部だけを削って民間に委譲するということではなく全体の見直しをしなければいけないのだと思います。

 少なくとも、今回の件に関しては仕事を民間に委託するようにシステムを変えた責任者にも釈明を求めたいところです。

 #今回のニュースソースは、主に「◆構造計算書偽造が制度問題へ波及/チェック体制の甘さ露呈」と「耐震強度偽装、イーホームズ『通常の審査で発見は無理』」です。
by stochinai | 2005-11-22 21:36 | つぶやき | Comments(16)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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