5号館を出て

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2006年 06月 24日 ( 1 )

泥棒に縄をなわせる

 不正を行う可能性のある人間に、不正の取り締まりをやらせるようなことを「泥棒に縄をなわせる」と言います。

 ここ数日、報道が続いている早稲田大学理工学部教授による研究費の不正受給問題の渦中の人、松本和子さんは今年の3月17日現在の名簿によると文部科学省の「科学技術・学術審議会研究活動の不正行為に関する特別委員会委員」で、主査代理という重職に任命されていたようです。ちなみに、以下のような方々がメンバーとして名簿に載っています。
 東京大学名誉教授 (主査)
 奈良先端科学技術大学院大学理事・副学長
 国立精神・神経センター総長
 情報・システム研究機構国立情報学研究所長
 慶応義塾大学医学部教授
 一橋大学経済研究所教授
 東京大学大学院農学生命科学研究科教授
 早稲田大学理工学術院教授 (主査代理)
 東京大学大学院人文・社会系研究科教授
 東北大学大学院法学研究科教授
 独立行政法人科学技術振興機構研究開発戦略センター上席フェロー
 独立行政法人理化学研究所主任研究員
 この名簿を見ていて、不思議に感じられるのは、ほとんどが現役の研究者あるいはその人達とともに仕事をなさっておられると思われる方であり、どちらかというと問題になっている不正行為をする可能性がある側に属すると思われることです。

 研究者の不正行為を問題にするのであれば、そのメンバーの多くは利害関係のない第3者であるべきで、事情を聞いたりする時に現場の研究者を呼ぶというのが筋ではないでしょうか。たとえば、警察の不正行為を防止するための議論を警察にやってもらって出てきた結論などを信用する気になるものでしょうか。

 タイミングが良すぎる感じもするのですが、松本さんが委員をしていた特別委員会が昨23日に第6回の委員会を開いて、不正の調査や罰則などの対策を盛り込んだ指針案を発表しました。やはりというべきか、そこでは松本さんが告発されたような研究費の不正使用などは議論されていなかったようです。
 指針案の対象となるのは、国の研究費のうち、研究者が応募して、国の審査を経て支給される競争的資金による研究で起きた、論文の捏造(ねつぞう)、改ざん、盗用。
 研究費の不正使用というような、もっとも起こりやすいことが議論されなかったのは、まさか委員の中にその疑いのある人がいたからというようなことはないと思いますが(笑)、研究者の行う不正の中ではもっともポピュラーなものでしょうから、是非とも議論しておいて欲しいと思います。

 逆にそのような議論をする中で、現在の「研究費」というものが、研究遂行にとってかなり使いにくいものであることが明らかになってくることも期待したいところです。すでにあちこちで指摘されていることですが、純粋に研究目的にのみ使われるものでありながら、制度的には「不適切な方法」で支出されているものが現実にはかなりあると思います。そうして、その件については、研究者側にあまり罪悪感がないことも事実です。

 ところが、そうした「正しい不適切支出」とまったく同じやり方で、今回松本さんが疑惑を持たれているような私的流用となる「間違った不適切支出」は、テクニカルには見分けることができないものです。しかし、「正しい不適切支出」の存在が許されるような制度がある限り、その隙をついて「不正な不適切支出」をやろうとする連中が出てくることを阻止することはできません。

 つまり、この問題の解決にはまず「正しい不適切支出」の存在が必要なくなるような、研究費の運用制度の変更が必要なのです。そこに手をつけずに、罰則だけを強化することは、必要な研究費の支出もできなくなるというというような波及効果が起こることも考えられ、研究活動が低下する危惧もあります。

 今回の不正行為に関する特別委員会の議論が「泥棒に縄をなわせる」ようなものであることを象徴していると思われる文言が指針の中に盛り込まれています。次の文を読んでみてください。
 一方、根拠の薄い告発で研究活動が妨げられないよう、悪意に基づく告発と判断した場合は、研究機関は告発者名を公表し、刑事告発や懲戒処分などを検討する。
 こんなことは、敢えて指針の中に入れるべきことでしょうか。本当に不当な告発だった場合には、名誉毀損や地位保全ということが現行の法律の下でも可能です。それなのに、敢えて指針の中にこうした一文を入れるということは、「内部告発者への牽制」と思われても仕方がないと思います。こんなところにも、研究者に研究者監視のルール作りをさせることのマイナス面が出ていると思いました。

 こういう「事件」における内部告発者は、関係者ならばなんとなくわかる場合が多いもので、多くの場合は弱い立場にいる人ではないかと思われます。そういう人の名前を公表するということは、その人を社会的に葬り去るということになるでしょう。そのような脅し文句をちらつかせているような研究機関に、自分の身を危険にさらしてまで告発しようという気に誰がなるでしょうか。

 結局、この指針も「内部告発抑止のための指針」になってしまいそうな気がします。

 だから、泥棒に縄をなわせてはいけないのです。

【追記】
 投稿後、お二人からトラックバックをいただきましたが、あちこちで関連記事を見つけましたので、ここにまとめておきたいと思います。

 ポスドクのひとりごと
  研究費流用問題
 marginBlog
  研究上の不正行為と研究費の不正流用
 地獄のハイウェイ
  身上調査はされていたの?
 中年哲学徒の備忘録
  研究費不正使用
 ある大学研究者の悩み
  研究費で投資信託?
 ladylakeの時間
  不正の爆弾
 科学コミュニケーションブログ
  改めて文科省のナノテク関連サイトから,松本和子教授のインタビュー記事を読み直す

 さらに、コメントをいただいたアマクナさんと、そこからたどってchem@uさんのところ。こちらは研究費の「不適切な」使われ方が生々しく(というか、きわめて正確に)記述されていると思います。

 けんきゅうせいかつ りそうろん
  研究費不正疑惑
  ケミストの日常
  研究費の流用
by stochinai | 2006-06-24 16:50 | 科学一般 | Comments(28)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


by stochinai