5号館を出て

shinka3.exblog.jp
ブログトップ | ログイン

2006年 09月 16日 ( 1 )

ようやく札幌へ

 今日の午前中一杯の講演会をもって、今回の国際アフリカツメガエル学会は終了しました。最後の締めくくりの挨拶をしたのは、30年くらい前に核移植によってアフリカツメガエルのクローンをどんどん作りだし、次々と新しい論文を発表して文字通り発生学の世界で一世を風靡していたジョン・ガードンさんです。
c0025115_121115.jpg
 今でこそ、核移植による哺乳類のクローンでも珍しいものではなくなりましたが、当時クローンを作ることができたのは両生類だけでした(サカナも成功していたかもしれません)。世界で最初に核移植によるクローンガエル作成に成功したのは他の人たちなのですが、それまで胚の核を使わなければ成功しないと言われていた核移植を、ガードンさんはオタマジャクシの小腸の核や、カエルの水かきを培養した細胞などといった「分化した」細胞から取った核で成功させたことから、生物個体のからだを構成するすべての細胞の核は受精卵と同じ遺伝子をすべて持っているという発生学の基本原則を証明しました。当時、大学院生だった私などにしてみれば、いわば伝説の科学者です。

 そう言えば、1980年頃にマウスのクローンができたという論文が発表されました。今から考えると「ねつ造論文」ということになるのでしょうが、当時はそのことについて数年間論争が続いた後に、追試不可能という結論になったと思います。調べてはいませんが、論文自体も取り下げられてはいないと思います。もちろん、当人達は研究者生命を絶たれたのだと思いますが、ねつ造論文に対してはこのような解決の仕方も科学の世界のやり方の一つだと思います。まわりさえしっかりしていれば、今でも通用することだとは思うのですが、まわりがしっかりしていないのが現実だと思います。残念ですが。

 さて、証明したことの大きさから見て、ガードンさんはノーベル賞をもらってもまったく不思議のない人なのですが、まだもらっていません。でも、その功績を評価されて女王陛下からSirの称号を与えられています。
c0025115_1225176.jpg
 ノーベル賞と言えば、昨日の懇親会の前には動物の発生の時の核の動きを支配する卵の細胞質の中に核の分裂を進めたり、止めたりする物質があることを発見したカナダ在住の増井禎夫さんの特別講演がありました。増井さんは、ノーベル賞にもっとも近いところに位置する日本人のひとりとして注目されているのですが、ちっとも偉そうなところのない人で、学生であろうが若手であろうが分け隔てなく丁寧に話をしてくれる方です。逆に権威的なものや人などに対しては、小気味よい批判的発言をされるので、私などはずっと大ファンです。15年ほど前に札幌に来られた時に初めてお会いしたのですが、次にお会いした何年か後にも覚えていて頂いた時には、その記憶力に舌をまきました。今回も、あちこちでその記憶力の良さを見せつけられました。すごい人です。

 増井さんのファンは日本中の大学にいるので、あちこちから引っ張りだこで、かなり頻繁に日本に来られています。来週は、私も行くことになっている松江にある島根大学で開催される動物学会大会にも行かれるということなので、またそこでお会いできるのが楽しみです。

 こんな偉い人が、日本の大学で後進の育成にあたっていないというのは、日本の生物学にとってたいへんな損失だったと思います。ご本人がおっしゃるように、「僕は歯に衣を着せずに、何でも言っちゃうからね」ということがその原因の一つなのだとしたら、やはりこの国の研究教育制度に大きな欠陥があるのだと言わざるを得ません。

 今も、たくさんの日本の若手研究者が海外で研究に活躍しています。今回の学会にもたくさん来ていましたが、海外で自分を研いてたくさんの素晴らしい研究成果を挙げても、日本に教育研究職を得ることが非常に困難であるのが普通であるという現状は、増井さんを日本に呼び戻すことのできなかった日本の教育研究制度がちっとも改善されていないことを意味していると思います。それどころか、もっと悪くなっているという気すらします。

 一方ではそんなチグハクなことをしていながら、日本という美しい国を人々が愛するようにさせよう、などと言っていても空しく響くだけです。今度首相になりそうな人は、文教族とか言われている人のようで、教育「改革」にも大鉈を振るうような気配です。しかし、教育や研究に関しては、現場の自主性を大切にしなければ、絶対に良くなりません。素人が口出ししても、どんどん悪くなっていくだけです。できれば、金だけ出して口を出すのはおやめ頂きたいところです。

 と、うれしい気分と暗い気分の両方をおみやげに札幌に帰ってきました。札幌の夜はすでに充分寒くなっていました。
by stochinai | 2006-09-16 23:54 | 札幌・北海道 | Comments(6)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


by stochinai