5号館を出て

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2007年 01月 02日 ( 2 )

 私もこのニュースを聞いた時にエッと思ったのですが、Salsaさんがエントリーを立ててくださいましたので、それにトラックバックする形で書いてみます。

 【CNNより】プリオンを持たない牛

 Salsaさんが引用していたニュースはCNN.co.jpの「『プリオン』を持たないウシの飼育に成功、日米研究者」ですが、朝日コムにもあります。「プリオン持たない牛の飼育に成功 BSE解明に有用」です。そして、原著論文の要約はこちら「Production of cattle lacking prion protein」です。

 実は話は簡単で、最近の遺伝子工学と生殖工学の技術を使うと、比較的簡単に目的の遺伝子の機能を失わせた動物や植物を作り出すことができます。ノックアウトとかノックダウンという言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、遺伝子を追い出したり壊したりという意味です。

 プリオンが原因と言われているウシの病気で恐れられているBSE(狂牛病)の原因は、どんな動物でももともと持っているプリオンというタンパク質が、病気の原因になる異常プリオンと接触して異常プリオンに変わってしまうことだという説が現在、もっとも有力です。このプリオンタンパク質というのは酵母でも見つかっており、かなり多くの生物が持っているものなのですが、その機能が良くわかっておりません。

 最近は機能のわからないタンパク質があった場合には、その遺伝子のはたらきを壊してみて何が起こるかを見るということが普通に行われます。もちろんプリオンに関しても、その遺伝子のはたらきをなくしたマウスがすでにたくさん作られているのですが、とりあえず生命に別状がないことは確かなようです。脳のはたらきにちょっと問題があるかもしれないという報告はありますが、重大な変化は見出されていません。

 マウスはなかなかBSEのようなプリオン病にかかりにくいので、比較的容易にプリオン病であるBSEにかかりやすいウシを使って、プリオン遺伝子を壊して(正常な)プリオンタンパク質を持たない動物を作ったというのがニュースになった報告です。このウシは正常プリオンを持っていませんから、異常プリオンを注射してもBSEにはならないことが予想されており、少なくともタンパク質のレベルではそれが証明されています。

 さて、この結果を我々はどう解釈したら良いのでしょうか。もちろん生物学的には、論文に書かれているように、BSEがどのように起こるのかという研究に役立つ結果なのですが、その一方では、たとえ異常プリオンにさらされてもBSEにならないウシを作ったということで、それがBSE問題で悩んでいるウシ畜産業界には光明になるかもしれないという解説がなされています。

 さすが北海道が誇る科学技術コミュニケーターのSalsaさんはここで立ち止まるのです。
 BSE対策というだけで(←この理由が大きいか小さいかはさておき)、牛のプリオンを無くしていいのかしらとも思ってしまう。プリオンに詳しいわけではないが、BSEとしてはやっかいであっても、無くすことで別の病気になったりしないのかと頭をよぎります。

 それにしても人間の都合でどこまでやっていいのか、基準の持ち方が難しいと思う今日この頃ですぅ。

 このニュースを伝えるのに、マスコミはどちらかというと「遺伝子工学・生殖工学によってBSEの心配のないウシが作り出されました」という明るい面を強調するニュアンスで書いているような気がしました。もちろん、そういう可能性もあるのですが酵母から人間までが持っている遺伝子であるならば、それが無用の長物であるわけはないのではないか。そのような、ひょっとすると大切な遺伝子を壊した動物を作っても大丈夫なのか、という感覚はとても健全なものだと思います。特に、科学技術を解説することのできる能力を持ったコミュニケーターとしては、あらゆる科学技術のニュースを批判的に読み解くことが要求されているのだと思います。

 科学技術は人間の生活を豊かにするという目的に沿った結果と裏腹に、時には予測できない副産物として人を不幸にすることもあり得るものです。

 科学技術コミュニケーターは科学技術の素晴らしさを伝えるだけではなく、その危険性も正しく伝える人でなければならないでしょう。さらには、たとえ相手が家畜だからといって、やはりそこにやっていいことと、やってはいけないことがあるのではないかという指摘も大切なポイントだと思います。

 こう考えると科学技術コミュニケーターの大切な役割のひとつが「悩む」ということだということがはっきりしてきます。

 全世界の科学コミュニケーターの皆さん、事実を前にまず悩みましょう!
by stochinai | 2007-01-02 23:55 | 生物学 | Comments(4)

元旦から雨

 暖かい年の明けだと思っていたら、なんと夜には雨が降り始めました。夜半過ぎからはみぞれになってきましたが、元旦の雨は何年ぶりのことでしょうか。メインロードは完全にアスファルト路面が出てしまっています。

 昨日と今日は連続した2日であるにもかかわらず、2006年から2007年へと暦が変わってしまうということは、やはりそれなりの感慨をもたらしてくれるもので、昨日までは来年はどうしようと思っていたものが、今日からは今年はどうしようということで、なんとなく現実感が増した気分になるのが不思議なものです。

 今日と明日は新年会モードなので、あまり真面目に考えて書こうという気分にはなりませんので、早々に切り上げようと思っているのですが、なんとなく今年は「転機モード」の年にしていこうと思っていることだけは今のうちに宣言しておきたいと思います。

 もちろん、まだ準備が整っておりませんので、実際に今年を人生の転機にしようということではなく、転機が来ても対応できる準備を始めようということです。

 そもそも腰が重たい性格で、さらにやるべきことはしっかりやりたいという完璧主義、おまけに他人の期待に応えたいという優等生的性格が災いして、振り返ってみればかなり早い勢いで変化し続ける環境に対応するだけで精一杯という20年くらいを送ってきた気がします。

 今さら遅すぎると言われるのは重々承知しておりますが、最近になってようやくなんとはなしの自信のようなものも芽生え始めてきましたので、自分の生きる場所が変わってもやっていけるかもしれないという気になってきております。そうでなくても、遅かれ早かれ退場を勧告される時期が迫ってきている感覚もありますので、「気が付いたら出ていけと言われてしまいました」ということではなく、「いいですよ。もう、いつでも出ていけます」という状況を作るべく、日々の生活を送っていきたいというのが、それほど深く考えたわけでもない現時点における「気分」です。

 別の言い方をすると、守りから攻めへと姿勢を変えるということかもしれません。すでに攻撃的な性格と思われているかもしれませんが、どちらかというと防御的に生きてきた(つもりの)今までの生き方を、本来の意味で攻撃的あるいは先手を打つ生き方に変えたいと思っています。

 防御なら一人でもなんとかやっていけるものかもしれませんが、攻撃は決して一人ではできないものです。逆に、他人と力を合わせることで、自分一人では決してできないことができることもたくさんありそうです。そういう意味で、今年はこれまで以上に、「仲間」というものの存在を見つめ直していく年にもなりそうな気もしています。

 2007年、意外とおもしろい年になるかもしれません。

 今年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
by stochinai | 2007-01-02 02:19 | 札幌・北海道 | Comments(7)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


by stochinai