5号館を出て

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2007年 04月 11日 ( 1 )

 NHKのクローズアップ現代で科学オリンピックのことが取り上げられていました。国際科学オリンピックとは、中学生や高校生の科学知識やセンスを競う国際コンテストで、もともとは数学だけだったようですが、今は物理・化学・情報・生物もあるようです。

 番組では、日本にも諸外国と同じくらいの比率で、科学における天才は出現しているらしいということはわかりました。当然のことだとは思いますが、同じ日本人としてなんとなく安心しました。

 しかし、科学オリンピックでの成績は振るわず、さらに悲劇的なことに科学オリンピックに出るような人材が、その後科学者になることはそれほど多くなく、医者になるか、金融などの企業にいわゆる「文系就職」しているというデータが出ていました。番組では、驚くべきことにというようなニュアンスで、医者や金儲けに走る科学オリンピック経験者のことを取り上げていましたが、私からみるとあまりにも当然な結果で、それを驚いたり、悲観したりしている「大人」たちのほうが異様に見えました。

 そもそも、日本ではもともと科学などは「道楽」のひとつくらいにしかとらえられない風潮があり、私が大学にはいった頃もまさにそうで、高度成長期だったこともあって、優秀な人材は医者になるか、大学院などへも進学せずにさっさと銀行や巨大企業の経営部門へと就職していったものでした。

 おかげで、我々のような天才とは言えないけれども科学が大好きな人間が大学へ残ることができて、高収入を得ることはできませんでしたが、世の中からそれほど気にもされることなく研究や教育に打ち込めたものです。(それで、日本の科学の程度が低いのだ、とおっしゃるならばそうなのかも知れませんが、それは科学者だけの責任ではなく、国の政策の誤りもあったと言えるのではないでしょうか。)

 そもそももし、国や社会が本当に優秀な人材を科学者にしたいと思っているのであれば、それなりの好待遇を提示すべきであり、それなしに人材を確保しようとしても無理というものです。今でも、大学教員の給料は医師や金融、マスコミと比べると半分くらいなものだと思いますが、大学院をバブル的に膨らませ、その程度の待遇の研究職であるにもかかわらず異常な競争が生じた結果、大量の博士難民と醜悪な論文ねつ造問題が多発しており、こんな状況を放置したまま「科学オリンピックで発掘された人材をなんとか科学者にしたい」などと言ったところで、なんの現実性も感じられません。

 科学者を育てたいと思うのならば、穏やかで安定した場を提供することが大事だと思いますが、これだけ日本中に拝金主義が蔓延してしまっている現状をみると、「科学が好きだから低賃金でも良い」というような発想を持った人は、ほとんどいなくなっているかもしれず、そうなるとこの国ではもはや科学者を育てる環境はなくなってしまったと見るべきかもしれません。

 科学者を育てるということは、小さい頃からの教育の問題として考えなければならないことだと考えられますから、他の教育問題と同じく即効性のある対処はあり得ないと思います。教育再生会議とか臨時中央教育審議会とかを早々に解散して、50年100年先を見据えた教育・科学政策を作り直さなければダメだと思います。

 しかし、この点についてきちんと認識している人が政府および野党を含めた政治家に少ない現状を見ると、希望は持てそうもないというのが正直な感想です。

 滑稽な番組でした。
by stochinai | 2007-04-11 21:28 | 科学一般 | Comments(6)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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