5号館を出て

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2008年 08月 25日 ( 1 )

オカルト特許申請

 医学・生物学情報が豊富なので、流し読みしている「バイオの故里から」という、情報ブログがあります。

 基本的にどこからかの情報をリブログしているだけだと思うのですが、特許情報が多いのが特徴と言えば言えるのかもしれません。その特許情報のソースは、基本的にいつも同じでJ-tokkyoという、一見特許庁のサイトかと思わせるような無機質に特許申請情報だけを載せているサイトです。ただし、このJ-tokkyoとはどういうところなのかということに関する記述がまったく発見できない、かなり怪しげなサイトではあります。

 というわけで、公開された特許の申請情報が載っているようなのですが、それが本当のものなのか、偽物なのかも確かめることはできていないので、それをここにまた再掲することがいいのかどうかは悩んだのですが、グーグルで検索するとヒットしてしまうので問題を感じました。まあ、特許を申請するだけならなんでもありなのかもしれませんが、いくらなんでもこれはダメだろうというものにぶち当たってしまい、自分の心だけにしまっておくのも気持ち悪いので、敢えてここに公開させていただきます。

 「バイオの故里」からのタイトルがあまりにもすごかったのですが、モトネタの【発明の名称】のままなのでした。

 ヒトiPS細胞初期化3遺伝子利用死者復活製法

 「バイオの故里」さんは、ただ単に特許情報を転載しただけなのかもしれませんが、それを「トンデモ」ではなく「細胞生化学」というカテゴリーに入れてしまったら、「バイオの故里」さんも半分共犯になってしまいますよ。

 モトネタはこちら

 【発明の名称】 ヒトiPS細胞初期化3遺伝子利用死者復活製法

 特許の【課題】となっているのが、「死者を墓の中の遺骨のDNAで復活させる」ということで、100歩譲って、その核やゲノムを卵細胞に移植するというのであれば、まあ「理論的には」不可能ではないかもしれないので、特許になるかとか倫理的にはどうなのかというところを飛ばせば、チェックに値するかもしれないと最初はちょっとだけ思いました。

 しかし、本文を読む限りこれは生物学の訓練を受けた人間の書いたものではないということがたちどころにわかるものです。オカルト以外の何物でもありません。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(イ)ヒトiPS細胞技術応用体細胞を初期化するのに必要な3つの遺伝子のうちOct3/4、Sox2で万能性維持とKlf4で体細胞が分化したことで得た情報を消しゴムのように消す働きをするので墓の中の死者の骨のDNAからこれら3つの遺伝子を取り出して増殖させる。
(ロ)増殖したこれら3つの遺伝子を遺骨DNAからできた死者の再生肉体の体全体の細胞に行き渡るように壊れないようにして各細胞の初期化を若い細胞になるまで戻す。
(ハ)その増殖は止まらないので老化はなくなり若返るしレトロウイルス培養とガン遺伝子には紫外線B波かビタミンDでガンになるのを防ぐ。
(ホ)墓の中の頭蓋骨内側のDNAかその少しの脳のDNAあれば上記のように初期化して生まれて死ぬまでの記憶までも時間とは逆に遡り生前の全記憶を取り戻す。
以上の如く論理で導かれるヒトiPS細胞初期化3遺伝子利用死者復活製法。

 「体細胞が分化したことで得た情報を消しゴムのように消す働きをするので墓の中の死者の骨のDNAからこれら3つの遺伝子を取り出して増殖させる」は、純粋に日本文として読んでも意味不明です。さらには、この遺伝子を「遺骨DNAからできた死者の再生肉体の体全体の細胞に行き渡るように壊れないようにして各細胞の初期化を若い細胞になるまで戻す」のだそうです。そもそも「遺骨DNAからできた死者の再生肉体」などというものが手に入るのだったら、この特許も何もいらないことになります。(まさか、もうすでに特許になっているなどということはないでしょうね。)

 これでは、参考文献にしているという「『読売新聞』2008年1月27日、19頁」や、「『ニュートン』2008年2月号、70頁から75頁」すら理解できていないはずです。もちろん、原著論文を読む能力のある生物学者(生物学科の学生ですら)でないことも明らかです。

 さらには、死者の記憶を再生させるために「墓の中の頭蓋骨内側のDNAかその少しの脳のDNA」を用いるところまでくれば、高校生程度の生物学知識でもこれは明らかに科学・技術とは異なる世界の話であることが、たちどころにわかるはずです。

 iPS細胞もとんだ利用のされ方をしているもので気の毒だと思いますが、たとえ申請だけだとしてもこのレベルのものは申請段階ではじくしくみがないと、日本の特許システムそのものの信頼性が大きく傷つくことになるのではないでしょうか。

 最後に書いてある、【産業上の利用可能性】が「人類史で亡くなった偉人や親しい人と再会し同時に不老不死で需要の産業上の利用可能性は高い」などというところまでくると、中学生でも判断可能なレベルです。読んでいるだけでも、気味が悪くなります。

 特許の【公開番号】というものが載っていて、「特2008 - 154596(P2008 - 154596A)」なのだそうです。そして【出願番号】が特願2008 - 60224(P2008 - 60224)とも書いてあります。

 願わくは、これが悪い冗談で、日本の特許庁ではこのような申請を受け付けた事実はないということであって欲しいと思いますが、そうしたことをネットで調べる方法はあるでしょうか。
by stochinai | 2008-08-25 22:10 | つぶやき | Comments(17)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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