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[ 2008-10 -10 22:05 ]
2008年 10月 10日 ( 1 )
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2008年 10月 10日
母親の血清中にあるDNA断片で胎児のダウン症診断
21番目の染色体が3本ある胎児が発症するダウン症候群は、母親の年齢に強く相関することが知られており、Wikipediaによると「20歳未満の母親による出産ではおよそ1/2000なのに対し、いわゆる35歳以上の高齢出産での発生率は、35歳でおよそ1/400、40歳でおよそ1/100、45歳でおよそ1/30」だそうです。晩婚化社会で少子化が進む原因のひとつに、このダウン症候群があるのではないかとも言われています。
ダウン症は、胎児の染色体検査をすることで比較的簡単に診断できるようですが、そのためには母胎に針をさして羊水や胎盤絨毛を採取して調べるという方法をとるので、どうしても胎児を傷つけたり、流産を誘発したりというリスク(0.5%くらい)がともないます。というわけで、ダウン症が心配で検査はしたいものの、検査が原因による流産も心配ということで、妊婦さんにとって大きなジレンマとなってきました。
それが、10月6日の Proceedings of the National Academy of Sciences, Early edition で画期的な方法が発表されました。
Noninvasive diagnosis of fetal aneuploidy by shotgun sequencing DNA from maternal blood
abstract
この論文はオープンアクセスになっていますので、どなたでも全文PDFがダウンロードできます。
新しい方法は、驚くほど簡単です。妊婦さんの血液中にある25-30塩基対くらいの短いDNAの断片をすべてランダムに増幅させて配列を調べ、それがどの染色体由来の断片であるかということを決めるだけです。もちろん、DNA断片の中には胎児のものだけではなく母親由来のものもありますが、ダウン症の胎児を妊娠している妊婦さんの血液中には、正常の胎児を妊娠している妊婦さんよりも、明らかに大量の21番染色体由来のDNA断片があることがわかります。
この図をごらんください。

横軸が染色体の番号です、ちょうど中央部くらいのところに21番染色体があります。赤●がダウン症胎児を持つ母親、青△が正常の胎児を持つ母親の血液中のDNA断片の量です。赤●が青△よりも10%くらい多くなっています。
同じ方法で18番と13番染色体が3本の胎児も検出できそうなことがわかります。不思議なことに、右端のほうの染色体では変なデータになってしまっていますが、3本になると病気の原因になることが知られている染色体のデータ(13,18,21)を見る限りはばらつきは驚くほど小さいです。症例が増えると、もっとはっきりしたことが言えることが期待されます。
もうひとつの利点は、この方法は妊娠14週間という早期から使えるということです。もちろん、早期にわかったからといって、人工妊娠中絶を推奨するものではありませんが、母胎の負担が少ない時に結果がわかるのは、「心の準備ができることが大きなメリットだ」と研究者は言っています。
最新のDNA塩基配列決定技術の高速化によるところが大きい技術ですが、難しい技術ではありませんんで、これから広く使われるようになると確信しました。ただし、残念なことにスタンフォード大学ではこの方法の特許を出願しているとのことです。安価に世界に公開して欲しいものです。
この結果は、母親の血液中に胎児のDNAがあるということも示してもいます。私は知らなかったのですが、妊婦の血液中には胎児の赤血球があることは、ずいぶん前(1979年)から知られていたことのようです。もちろん、教科書に書いているように胎児の血液と妊婦の血液が混ざることはないとされておりますので、胎児の細胞やDNAがどんな経路で母親の血液中に入るのかは、今でも謎だそうです。
ヒトの身体についても、まだまだ知らないことがたくさんありますね。
ダウン症は、胎児の染色体検査をすることで比較的簡単に診断できるようですが、そのためには母胎に針をさして羊水や胎盤絨毛を採取して調べるという方法をとるので、どうしても胎児を傷つけたり、流産を誘発したりというリスク(0.5%くらい)がともないます。というわけで、ダウン症が心配で検査はしたいものの、検査が原因による流産も心配ということで、妊婦さんにとって大きなジレンマとなってきました。
それが、10月6日の Proceedings of the National Academy of Sciences, Early edition で画期的な方法が発表されました。
Noninvasive diagnosis of fetal aneuploidy by shotgun sequencing DNA from maternal blood
abstract
この論文はオープンアクセスになっていますので、どなたでも全文PDFがダウンロードできます。
新しい方法は、驚くほど簡単です。妊婦さんの血液中にある25-30塩基対くらいの短いDNAの断片をすべてランダムに増幅させて配列を調べ、それがどの染色体由来の断片であるかということを決めるだけです。もちろん、DNA断片の中には胎児のものだけではなく母親由来のものもありますが、ダウン症の胎児を妊娠している妊婦さんの血液中には、正常の胎児を妊娠している妊婦さんよりも、明らかに大量の21番染色体由来のDNA断片があることがわかります。
この図をごらんください。

同じ方法で18番と13番染色体が3本の胎児も検出できそうなことがわかります。不思議なことに、右端のほうの染色体では変なデータになってしまっていますが、3本になると病気の原因になることが知られている染色体のデータ(13,18,21)を見る限りはばらつきは驚くほど小さいです。症例が増えると、もっとはっきりしたことが言えることが期待されます。
もうひとつの利点は、この方法は妊娠14週間という早期から使えるということです。もちろん、早期にわかったからといって、人工妊娠中絶を推奨するものではありませんが、母胎の負担が少ない時に結果がわかるのは、「心の準備ができることが大きなメリットだ」と研究者は言っています。
最新のDNA塩基配列決定技術の高速化によるところが大きい技術ですが、難しい技術ではありませんんで、これから広く使われるようになると確信しました。ただし、残念なことにスタンフォード大学ではこの方法の特許を出願しているとのことです。安価に世界に公開して欲しいものです。
この結果は、母親の血液中に胎児のDNAがあるということも示してもいます。私は知らなかったのですが、妊婦の血液中には胎児の赤血球があることは、ずいぶん前(1979年)から知られていたことのようです。もちろん、教科書に書いているように胎児の血液と妊婦の血液が混ざることはないとされておりますので、胎児の細胞やDNAがどんな経路で母親の血液中に入るのかは、今でも謎だそうです。
ヒトの身体についても、まだまだ知らないことがたくさんありますね。
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by stochinai
| 2008-10-10 22:05
| 医療・健康
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