5号館を出て

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2009年 02月 16日 ( 2 )

 朝日ドットコムより

 薬効かぬアタマジラミ急増 2年で倍、全体の1割超に

 私が生まれる前は、子どもの頭にはシラミがいるのが普通だったと聞いていますが、日本を占領したアメリカの進駐軍が持ち込んだDDTで、ほぼ撲滅されてしまったという話で、ノミはたくさんいましたがシラミは見たことがありません。

 それが、最近は子ども達の間で意外にシラミが多く見られるようになっていると聞いたことがあります(いまだにほんものは見たことがありません)。そして、国立感染症研究所(東京都新宿区)の調査によるとそのシラミに薬が効かないものが増えているというのです。
 感染研昆虫医科学部は、06年から全国の保健所などを通じて集めたアタマジラミの遺伝子を解析した。駆除薬が効かない抵抗性のタイプは06年は4.76%だったが、07年6.18%、08年11.49%と倍以上に増えていた。3年間に届いた28都道府県分のうち13都道県分で抵抗性が確認され、広がりが懸念されている。

 国内で製造承認されている駆除薬は、シラミの神経細胞にある特定たんぱく質に作用し殺虫効果を持つ。しかし抵抗性のシラミは、このたんぱく質の構造を決める遺伝子の一部が従来と異なっていた。
 要するに遺伝子の突然変異で、タンパク質の一部の形が変わり殺虫剤が働かなくなったということです。

 そういう個体と変異してない個体がいるところで駆除薬を使うと、変異のない個体は死に、変異のある個体は生き残りますので、生き残った個体およびその子孫は薬が効かないということになります。つまり、駆除薬による「人為選択」で起こる進化と考えることができるわけで、なんとアメリカでは「米国では抵抗性が全体の90%近くに上」ってしまっているのです。

 そうです。これこそ、まさにダーウィン医学(進化医学)のもっとも得意とするストーリーのひとつです。

 では、昔のシラミはなぜDDTで撲滅されてしまった(ように見えた)のでしょうか。おそらく、DDTに耐性のものも出現していたのではないかと思われますが、それ以と同時に良く髪を洗うようになったなどという生活の変化もあって、目にとまらなくなったのではないかと思われます。そして、DDTは使用禁止になってしまいましたので、DDT耐性の人為選択は働かなくなったことも関係あるかもしれません。

 いずれにせよ、ウイルス、細菌、害虫などを薬剤で駆除しようとすると、必ず耐性個体が出現し、薬によって選択されて増えてくるというのは、ダーウィン医学お得意のストーリーです。

 では、どうすれば良いのかというと、殺すならアルコールやアルカリといった「物理的手段」で確実に殺すか、そうした生物の「天敵」になりそうな生物と戦わせる、感染経路を断つなど、耐性個体の進化を許さない方法が望まれます。

 それこそがダーウィン医学のお得意分野なのです。もちろんコマーシャルです(笑)。

ダーウィン医学のお気に入り_c0025115_2125364.jpg
進化から見た病気 (ブルーバックス)

by stochinai | 2009-02-16 21:47 | 生物学 | Comments(2)
 立て続けに世界的ニュースになっていると思います。

 カッコ悪い日本人は、もちろんG7の記者会見で記者団の質問に対してもうろうとした対応を見せた中川昭一財務・金融相です。本人は風邪薬の飲み過ぎと弁解しているようですが、あれは誰が見てもアルコールによる酩酊状態に見えるのではないでしょうか。もちろん、本当のことはわからないとは言え、諸外国に報道される時にはそうなってしまうのは仕方がないような「姿」だったと思います。

 しかも、中川氏は今までにも何度も酒のからんだ失敗談の多い人です。

 あれを見て思い出したのが、ロシアのエリツィン元大統領です。彼の場合は、同じような状況のフィルムを日本では「酩酊」と断定的に報道していましたから、今回は逆に外国のメディアでは「酩酊」と報道されても仕方がないと思います。

 これは「単なる酒の席」の笑い話になると思ったら大きな間違いで、この世界同時大不況という時に開かれたG7を、日本政府が酒席程度にしか捉えていないということになるわけで、とてつもなく日本の国益を損なう行為であることが、今の政府にはおわかりにならないのでしょうか。

 ロイターによれば、「中川財務・金融相の発言を受けて、16日の欧州外為市場で円円は一時1ドル=92.08円まで下落」と報道されています。

 そんな状況をであるにもかかわらず、総理大臣が財務・金融相に言ったのは、中川氏の言葉によれば「首相から『体調管理をしっかりして、職務に専念してほしい』と言われた」なのだそうです。となると、世界が日本を見る目はさらに厳しくなることが予想されます。

 内閣が国益を損なったら、国民には退陣を要求する権利があります。

 さて、一方でものすごくカッコいいことをした人もいました。

 村上春樹さん、エルサレム賞記念講演でガザ攻撃を批判

 イスラエルの文学賞である、エルサレム賞を受賞するというニュースが、しばらく前から流れていて、タイミング的にもあのテロ国家であるイスラエルから賞をもらうのはいかがなものかという論調の意見もあちこちで見聞きしましたが、当の村上春樹さんが沈黙を守っていたのには、ちょっと違和感を感じていました。すばらしい賞なので受けるのは栄誉なことだと思いますが、私としては、それをもらうならばイスラエルという国に対してもなんらかのコメントがあり、その上でそれはそれこれはこれとしてありがたく賞をいただく、というあたりのものを期待していたような記憶があります。ところが、今日の授賞式の記念講演の内容を聞いてぶっ飛んでしまいました。

 浅はかなことを考えていた私がバカだったのね~、という感じです。
 村上さんは、授賞式への出席について迷ったと述べ、エルサレムに来たのは「メッセージを伝えるためだ」と説明。体制を壁に、個人を卵に例えて、「高い壁に挟まれ、壁にぶつかって壊れる卵」を思い浮かべた時、「どんなに壁が正しく、どんなに卵が間違っていても、私は卵の側に立つ」と強調した。
 朝日の記事では、村上さんが具体的にどう言ったのかが今ひとつはっきりしませんでしたが、こちら中国新聞に共同通信社が配信した講演要旨がありました。
 一、イスラエルの(パレスチナ自治区)ガザ攻撃では多くの非武装市民を含む1000人以上が命を落とした。受賞に来ることで、圧倒的な軍事力を使う政策を支持する印象を与えかねないと思ったが、欠席して何も言わないより話すことを選んだ。

 一、わたしが小説を書くとき常に心に留めているのは、高くて固い壁と、それにぶつかって壊れる卵のことだ。どちらが正しいか歴史が決めるにしても、わたしは常に卵の側に立つ。壁の側に立つ小説家に何の価値があるだろうか。

 一、高い壁とは戦車だったりロケット弾、白リン弾だったりする。卵は非武装の民間人で、押しつぶされ、撃たれる。

 一、さらに深い意味がある。わたしたち一人一人は卵であり、壊れやすい殻に入った独自の精神を持ち、壁に直面している。壁の名前は、制度である。制度はわたしたちを守るはずのものだが、時に自己増殖してわたしたちを殺し、わたしたちに他者を冷酷かつ効果的、組織的に殺させる。

 一、壁はあまりに高く、強大に見えてわたしたちは希望を失いがちだ。しかし、わたしたち一人一人は、制度にはない、生きた精神を持っている。制度がわたしたちを利用し、増殖するのを許してはならない。制度がわたしたちをつくったのでなく、わたしたちが制度をつくったのだ。
 さすがに、文学者だけあって言葉に命が吹き込まれています。日夜、どこぞの大臣達の言葉の軽さにさらされている私達の感性が、いかに痛めつけられているかがよくわかりました。

 「欠席して何も言わないより話すことを選んだ」「どちらが正しいか歴史が決めるにしても、わたしは常に卵の側に立つ」。受賞を拒否することでも、イスラエルのやっていることを非難することはできます。しかし、イスラエルの懐にまで入り込んだ上で、これだけ強い言葉で相手を批判するということに、どれだけの勇気がいることでしょう。そして、その分だけ相手に与える効果も大きいはずです。

 ものすごくカッコいいとは思いますが、自分ができるかというとかなりビビリます。

 もちろん、賞を贈られると聞いた時に彼も悩んだと思いますが、その状況の中で平和に対してもっとも自分の力を発揮できるやり方を、村上さんは選び取ったのだと思います。逆に、賞を与えられるなどという立場に立った時、人が取るべき行動を彼は義務として果たしたように思えます。

 ノーベル賞も取るかもしれないと言われていますけれども、ノーベル賞の受賞者講演の何百倍も大きなインパクトのある役を演じたと思います。ノーベル賞も取るかもしれませんが、そんなことはどうでもよい小さなことに思えてきます。

 つまらないニュースの後でしたからなおのこと、「まだまだ日本・日本人も捨てたもんじゃない」ところを見せてもらった、すがすがしいニュースでした。

【追記】
 村上さんの講演の要旨の英語版が、池田信夫さんのところにあります。英語に堪能な方はこちらで読まれた方が、ニュアンスがわかるかもしれません。

【再追記】
 こちらに本人の書いた原稿があります。

 Always on the side of the egg By Haruki Murakami
by stochinai | 2009-02-16 20:58 | つぶやき | Comments(7)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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