5号館を出て

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2009年 05月 16日 ( 1 )

 昨日発行されたPlosPathogensに興味深い論文が載っています。

Avian Influenza Virus Glycoproteins Restrict Virus Replication and Spread through Human Airway Epithelium at Temperatures of the Proximal Airways

 今騒がれているのはブタフルエンザですが、パンデミックが恐れられているトリのインフルエンザ(トリフルエンザ)は、ヒトの鼻の中では温度が低すぎてあまり増殖することができない(ので)、低温に対する適応的な変異が起こらない限り、そんなに恐れることはないという論文に読めました。

 一般的なトリの体温はほ乳類より高く、40℃くらいのものが多いのです。一方、ヒトは36-7℃です。トリのインフルエンザウイルスは高温なトリの体温での増殖に適応していて、ヒトのインフルエンザはヒトやブタの体温での増殖に適応していると考えられています。

 さらに、インフルエンザウイルスはヒトの鼻や喉という上気道で増殖します。実はそこらあたりの温度は、体温よりもかなり低く32℃くらいだそうです。ヒトやブタのインフルエンザはそのくらいの温度で増殖できるように適応しているのですが、トリのインフルエンザウイルスは32℃ではあまり増殖できないので、ヒトの上気道に到達しても発症に至るほどの増殖はしないということのようです。

 ただし、37℃では増殖できますので、肺の奥深くにまで入り込んだら増殖できます。トリのインフルエンザで症状が重くなった患者さんは常に肺の奥の方でウイルスの増殖が見られていたというのは、こういう理由があったということのようです。おまけに、ヒトのインフルエンザウイルスは熱が出て40℃くらいになると増殖が低下するのですが、より高温に適応したトリのインフルエンザウイルスは、40℃くらいの熱だとかえってどんどん増殖するということになるので、始末に負えないということなのでしょう。

 たとえトリのインフルエンザウイルスといえども、普通に呼吸しているヒトにとりつくときにはほとんどが上気道でトラップされますので、増殖は難しいということです。ちょっと安心です。

 おもしろいことに、このトリインフルエンザウイルスの殻にある糖タンパク質を作る遺伝子をヒトインフルエンザウイルスに導入したところ、ヒトのインフルエンザウイルスも低温では増殖できなくなるという変化を示しましたので、トリフルエンザウイルスが低温に弱い理由はそこにあるということも示されています。

 というわけで、我々はまたひとつウイルスの弱点を見つけました。

 こうしたウイルスの性質を次々に明らかにしていくことで、ウイルスとの生態学的闘い方の作戦もいろいろと考え出せるようになりそうです。
by stochinai | 2009-05-16 18:16 | ダーウィン医学 | Comments(0)

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