5号館を出て

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2009年 07月 31日 ( 1 )

 結構昔から、プラスチックを分解する細菌がいるという話はあったと思うのですが、最近はどちらかというとそういう細菌を探すことよりは、そこらに普通にいる細菌によって分解される生分解性プラスチックの開発に重心が移ってきたように思っていました。

 ところが、GIGAZINEが翻訳したWIRED SCIENCEには、高校生がプラスチックの買い物袋の分解することに成功して、カナダの科学祭で表彰されたという記事が載っています。もし、ほんとうならば大人達があきらめた夢を高校生が実現したことになります。

 16歳の高校生が3ヶ月でプラスチックを分解する方法を発見(GIGAZINE)
 Teen Decomposes Plastic Bag in Three Months (WIRED SCIENCE)

 どうも、これらの要約記事では要領を得ないので、元記事を探したところかなだのウォータールーの新聞社と思われる The Record に詳しい記事が載っていました。

 WCI student isolates microbe that lunches on plastic bags
カナダの高校生がプラスチックを分解する細菌を単離した【追記】1年前のニュースでした【追記2】獲得賞金_c0025115_20225952.jpg
 WCIというのはWaterloo Collegiate Instituteのことのようですが、話題の主は大学生ではなく16歳の11年生のDaniel Burd君です。彼が自力で研究をして、買い物用のプラスチック袋を効率的に分解する細菌を土の中から見つけたということで、オタワで開かれた全カナダ科学祭(Canada-Wide Science Fair in Ottawa)で最優秀賞を獲得したという記事です。

 最初に紹介した2つの要約記事では良くつかめなかったのですが、The Record の記事を読むとDaniel君がかなり優秀な科学的センスの持ち主だということがわかります。土の中にプラスチックを分解する細菌があるに違いないというアイディアくらいは、かなりの人が思いつくことだと思いますが、多くの人が次にやることは土の中にプラスチックを混ぜておくことくらいのことだと思います。

 彼のすごいところは、もしも土の中にプラスチックを分解する細菌がいたとしても、その数はそれほど多くないに違いないので、まずそうした能力を持った細菌を増やすことを狙った実験をしたところです。彼はいきなりプラスチック袋を土に混ぜたりせずに、まずは袋を粉にしたものを酵母や水を入れた土と混ぜて30℃で暖めたのです。

 3ヶ月続けて、中でプラスチックを分解する細菌が増えたと思われる頃、中からプラスチックの粉を除いた「培地」を3つに分けて、それぞれにプラスチック袋を切った短冊をいれました。対照実験としてひとつの培地は加熱して沸騰させ細菌を殺しておいたところも、ぬかりありません。

 そうして6週間置いたところ、もちろん細菌を殺した培地の中のプラスチックには何の変化も見られませんでしたが、他の培地の中のプラスチックは17%軽くなっていたそうです。

 彼のすごいところは、これで満足せずに「培地」の中の細菌の種類を同定しようと試みたことです。寒天培地の上で培養することで4種類の細菌が見いだされ、その中のひとつにプラスチックの分解活性があることも発見しました。さらに、彼のセンスの良さを示したのが、この細菌を他のあまり活性の見られなかった細菌と混ぜて分解実験を繰り返したところです。その結果、この細菌ともう一つの細菌を混ぜた時に最大の32%というプラスチック分解活性がみられたのです。

 彼は、さらに細菌を同定し、Sphingomonasという細菌が強い分解活性を持ち、Pseudomonasという細菌がヘルパーになっていることを発見したのです。過去にアイルランドの研究者がPseudomonasにポリスチレンの分解活性があることを見い出しているのだそうですが、Daniel君と先生の知る限りポリエチレンの買い物袋を分解する細菌の発見はこれが最初だということです。(事実かどうか、私は知りません。)

 ここまでで、彼の研究はもうすでに大学院修士レベルを越えていると思うのですが、次に実用化を目指してこれらの細菌を使ってプラスチック分解の最適条件を探しました。その結果37℃で適切な細菌の濃度を維持し、酢酸ナトリウムをちょっと加えると43%の分解活性が得られることも見つけました。このあたりのセンスも脱帽ものです。

 こうなってくると、お金もかからず設備もいらないプラスチック分解法の開発になるということで、もはや特許ものの仕事になってくるということなのでしょう。カナダの特許局(Canadian Intellectual Properties Office)にも招かれたそうです。

 続報 Young science star stays out of the limelight

 彼はこの受賞で、1万ドルの賞金と2万ドルの奨学金を獲得したそうですが、賞金の一部は彼を育ててくれたコミュニティやお母さんにあげ、残りはこの研究を続けるために使いたいなどと、なかなか素直な良い少年のお返事をしています。

 もちろんカナダでは一躍有名人になっており、ラジオや新聞の取材で追いかけられているようですが、この2万ドルの奨学金を持って、どこの大学にはいってどんな研究をすることになるのかが注目されているはずです。

 いっそのこと、日本の大学で招待したらどうでしょう。国際化も一緒にできる話題作りとしては絶好のタレントだと思いますが・・・。

#日本でも、こういう若者を伸ばすような「しくみ」が必要なんだと思います。現在は、どこかにありますか?

【追記】
 まずは、このニュースが1年前のものであり、ニューではない記事だったことを見逃していたことをお詫びいたします。

 ネットで検索すると1年前にすでに詳細な解説記事が日本語訳されたものがありました。

technobahn カナダの高校生、プラスチックを分解するバクテリアの分離に成功

 すでに、その時いくつかのブログでも取り上げられており、見逃していたのは私のミスでした。たとえ、1年前の記事だとしても、同じことを感じたとは思いますが、古いことをあたかも新しい知見のように書いてしまったことは深く反省しています。

 私のネタ元になっているGIGAZINEさんは、どうしてこのタイミングでこれを取り上げたのか、ちょっと気になりました。とりあえず、そちらにもトラックバックを送っておきます。

【追記2】
 Daniel Burd で検索すると、この研究での受賞をまとめたページが見つかりました。さすがにいろいろな賞や奨学金を総なめにしていたようで、総額は57,825ドルとなっています。
by stochinai | 2009-07-31 20:21 | 科学一般 | Comments(8)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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