5号館を出て

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2009年 08月 30日 ( 2 )

 羊土社から新著を送っていただきました。ありがとうございました。
研究もビジネスである: 島岡要著「研究者の仕事術」_c0025115_22503051.jpg

やるべきことが見えてくる研究者の仕事術―プロフェッショナル根性論

 このブログを訪問くださっている方の大多数がすでにご存じではないかと思われる、あの島岡要さんの新刊です。島岡さんは「ハーバード大学医学部留学・独立日記」というブログでもおなじみの方で、もちろんすでにそこでもこの本のことが紹介されています。

 やるべきことが見えてくる研究者の仕事術

 島岡さんは、麻酔科医として勤務されていた方ですが、研究への情熱がさめやらず、アメリカへ渡り研究者として独立する道を選んだ方です。

 非常に残念なことですが、日本政府の高等教育および研究者育成政策のあまりにも明らかな失敗から、今の日本においては、日本の若い研究者やその卵の方の多くは、たとえ研究者になりたいと思っていてもいったいどのように勉強し、どのように研究し、どのようにキャリアを重ねていけば研究者になれるかということが、ほとんど見えないという状況に置かれているのだと思います。

 自分の回りにいる研究者を見渡してみても、その多くが本人すらどうして自分がこの業界で生き残ってこられたのかがわからないという状況の下、多くの若い研究者やその卵が自分の将来に対する自信を無くし、この業界に進むことすらあきらめてしまうという不幸も数多く見聞きします。そんな中で、医師という「安定した身分」を投げ打って、いわば裸一貫でアメリカに乗り込んでいき、研究者として独立していく様子がブログなどを通じて発信されていることが、どんなに日本の若い研究者や卵たちの励ましになっていることでしょうか。

 その島岡さんが自身をモデルとして蓄積してきた、研究者として生き残り成功するためのノウハウのエッセンスを凝縮したのがこの本と言えるでしょう。

 すべてのページに珠玉の言葉がちりばめられていて、読み進むのが惜しくなるほどですが、中身のおもしろさにひかれて、ぐんぐんと読ませられてしまいます。(あっという間に読めてしまうので、この値段はどうなのよ、と思ってしまう程です。笑)研究者を目指している若い人ならば、一日で読んでしまうことでしょうが、あちこちに付箋を付けておいて、時々引っ張り出しては読み直す座右の書にして欲しいと思います。

 私が通して読んでみて受けた感想は、「研究もビジネスなのだ」というきわめてストレートな印象です。世の中では「研究者」というものが、いわゆる「社会人」の対局にいるような存在として捉えられることも多く、その結果研究者は社会性がないとか、研究者はコミュニケーション能力がないとか言われて、いわゆる「社会人」とは別の存在とされてしまうようなことが往々にしてあります。その結果、研究者の卵たちは「研究を選ぶのか、社会を選ぶのか」という理不尽な選択を迫られるということにもなりかねません。

 しかし、島岡さんからのメッセージは、「研究だってビジネスだ」という、目から鱗が落ちるようなものです。そして、この本の中に書かれてあることは「研究というビジネスを成功させるためのノウハウ」です。つまり、この本は研究成功のためのマニュアル本と言ってもいいのかもしれません。

 この本の中に書かれてあることは、過去にもたくさんあったかもしれない「研究者を目指すための精神書」とは大きく隔たったもので、読んでみるとわかりますが、まずは自分が研究者向きなのかそうではないのかを問われます。好きならば自分の人生を賭けてもいいじゃないかというスタンスの類書もあるかと思いますが、本書では研究が得意じゃなかったら研究者になるべきではないと言っているように私は読めました。研究を始めた頃にそういうことをアドバイスしてくれる指導者や友人を見つけることはとても大事だ、と私も思います。
「好きなことを仕事にする」ことを進める意見がありますが、これは「強みがある場合にのみ」推奨されることです。
 自分が研究に強いことがわかったら、次に必要なのは研究ビジネスを成功させるための努力ということになるわけで、そこはビジネスの種類によらず普遍的な戦略・戦術があるのだと思います。

 そういう意味で、書かれていることの多くは驚くほど多くのビジネス書の内容と似ていると私は感じました。実は、私もかつてはビジネスのノウハウ本を読みあさった時期があります。その時に思っていたことは、研究だって社会の中に存在している限り、ビジネスに共通する進め方・攻略法があるに違いないという思いでした。この本の中ではそのことを明快に語ってくれています。
「自分が世界でトップになる」というマイクロマーケティングの手法は、研究者がグローバルは一流研究者となるためのローカルな第一歩を踏み出すキャリア戦略なのです。
 そして、そのビジネスを成功させるためのノウハウとして、「フィードバック力」「物語力」「プレゼンテーション力」「英語力」「発進力」などが次々と語られていきます。

 最後に書かれている「創造性」についての章が、多くの研究者が悩むところの「自分には天才のひらめきがないのではないか」という点に関して、創造などというものは科学の発展の中で必然的に到達する新たな地平にすぎず、きちんとした研究者なら誰だって手にすることのできるものなのだという、力強い励ましで締めくくられるのも、さわやかな読後感の理由のひとつかもしれません。

 ただしちょっと気になるのは、日本には島岡さんの「仕事術」が通じるような成熟した「研究者市場」があるのかどうかということです。島岡さんが自信を持ってこれだけのことを言えるのは、あくまでもアメリカという環境の中だけだとしたら、この本を読んで刺激された後輩達もその活躍する場をそこに求めなければならないということにならないかということが、最後に残った胸のつかえでした。
by stochinai | 2009-08-30 23:56 | 科学一般 | Comments(10)

Sat, Aug 29



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by stochinai | 2009-08-30 09:59 | コンピューター・ネット | Comments(0)

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