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カテゴリ:医療・健康( 103 )

BSE熟議場 in 北大

 前にここで広報させていただいたBSE問題を考える「BSE熟議場 in 北大」が本日行われました。

 午前中から日没までというハードなスケジュールでしたが、会場からあふれるほどの人とその熱気が最後まで持続したことが印象に残りました。
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 今日はほとんど一日中曇り一時雨という天気だったのですが、開会直前には農学部に日が差していました。聞くところによると、午前中の講演会の演者のお二人は「晴れ男と晴れ女」なのだそうです。

 午前中の講演会は会場がゆったりと満員という雰囲気で、ちょうど良い混みようでした。
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 吉川さんと門平さんが話された世界と日本のBSEの過去・現在の状況と対策がとても良くわかるお話でした。
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 日本では適切な対策の結果、2002年以降に生まれたウシからはBSEの感染・発症牛は出ていないそうです。このグラフをみると、2002年以降に感染・発症が確認されたウシはすべて2002年以前に生まれたものであることがはっきりとわかります。

 というわけで、講演が終わるころには、現在全国各地で行われている「全頭検査」を続ける科学的あるいは政策的意義について、もはやその役割を終えているのではないかという演者の方々の意見に会場には大きな反対意見は出てこない雰囲気になっていました。

 午後からはゲストの方々(研究者、行政側担当者、報道関係者)にも加わっていただき、10人ほどのグループを3つにわけて、少人数で討論です。午前中の講演、午後の座談会に触発された参加者からは引きも切らずに意見が出続けて、時間制限がなければなかなか終わりそうもない感じだったのですが、無理矢理途中でポストイットを使ったKJ法でまとめにはいっていただきました。
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 参加者が時間不足の悲鳴を上げていたにもかかわらず、各グループはそれぞれ意外なほど幅広い視点から冷静なまとめが上がったきて、吉川さんからは「やはり議論はボトムアップがいいですね」との賞賛の言葉をいただいたほどです。

 このまま経過すると、2013年に日本はBSE清浄国(あまり良い言葉だとは思えないですが)と認定してもらうことを申請する権利を得るそうですが、日本の政府・畜産関係者のみならず我々国民すべてが過去に起こったBSE「騒動」の経験を踏まえてしっかりとした科学的な姿勢を持ち、今後同様の家畜病疫に対して冷静な対応ができるようになっているかどうかの方が、単なる清浄国認定というステータスよりもはるかに重要であることを学ばせてもらった一日になりました。
 
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 疲れた頭で外に出ると、雨に濡れた農学部がひときわ美しくそびえ立っていました。

 参加された皆さま、一日お疲れさまでした。

【追記】 こちらに参加された畜産農家の方からのレポートがあります。

 女性農業者ほっかいどう 「BSE~これから」
by stochinai | 2010-12-11 22:12 | 医療・健康 | Comments(0)
 最近はBSE(牛海綿状脳症)そのものが報道に取り上げられることがほとんどなくなってきています。では、もう安全性は確保されているのでしょうか。これは昨年3月10日の毎日新聞の記事の一部です。

<BSE>全頭検査、全自治体が来年度も継続
 牛肉のBSE(牛海綿状脳症)対策で、国が不必要とする生後20カ月以下の牛の検査を、食肉検査施設を持つ全自治体が今年4月以後も独自予算で続けることが、毎日新聞の調査で分かった。国は今年度途中で年約2億円に上る補助を打ち切ったが、自治体側では全頭検査の既定路線化が進んでいる。【清水健二、奥山智己】
 牛の全頭検査をしているのは世界で日本しかない。厚生労働省は05年8月、(1)02年1月生まれ以降の感染例はない(2)仮に感染しても検査で見つかる可能性は低い--などの理由で、対象を21カ月以上に限定。20カ月以下の検査も続ける自治体には3年間の限定で補助金を出していたが、昨年7月で打ち切った。
 現在は施設を持つ都道府県や政令市など全77自治体が全頭検査を続けており、各担当者に今後の対応を聞いたところ、すべて「継続する」と答えた。消費者の要望や地元産牛肉のブランド維持、流通の混乱回避が主な理由だが、「改めて議論したか」との問いには、約4割の30自治体が「していない」と回答した。
 国はもういらないといって予算を打ち切った「全頭検査」を、様々な自治体が地方の少ない税金を使って継続しているということを、皆さんは知っていたでしょうか。

 こうした状況の中で酪農王国北海道の住民として、もういちどBSEのことを考えてみようというイベントを行います。
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 第1部はどなたでもご自由に聴講できる講演会ですが、第2部は少人数で討論をする企画で定員が30名と制限されているために申し込みが必要です。ご希望の方は電子メール(riric@agr.hokudai.ac.jp)、電話またはファクシミリ(TEL/FAX 011-706-4129)で申し込んでください。

 北海道大学のホームページ(BSE熟議場 in 北大)にも案内がありますが、こちらにも再掲しておきます。先着30名と少ないので申し訳ありませんが、お早めにご連絡ください。

BSE熟議場 in 北大
-昔と今を結ぶ:もう一度BSE問題を考えよう-
 2013年に日本が「BSEのない国」の仲間入りができる可能性があります。その時に、BSE全頭検査はどうなるのでしょうか?お上に任せますか?それとも、未来の意見作りに私たち市民が参加しますか?でも、どうやって?先ず、そのような気運作りが最初の一歩です。「BSE熟議場 in 北大」は、主婦や高校生から獣医師や研究者まで社会の色々な人たちが集まって意見を述べ合い、議論を重ねる場です。その先に共感できる点や対立点などを見出して、未来の議論につなげます。

■日時
2010年12月11日(土)10:30~16:30

■会場
北海道大学農学部4階大講堂(札幌市北区北9西9)
札幌駅北口より徒歩10分

■参加対象
どなたでも(生徒、学生の参加も歓迎)

■募集人数
第2部のみ要申込30名

■参加費
無料

■お申し込み方法
氏名と連絡先を明記し、電子メール(riric@agr.hokudai.ac.jp)、電話またはファクシミリ(TEL/FAX 011-706-4129)のいずれかにて12月10日(金)までにお申し込み下さい。

■プログラム
第1部 「BSEって何だったの?」 10:30~12:30
吉川泰弘(食品安全委員会元プリオン専門調査会座長)・門平睦代(帯広畜産大学)
    ◇BSEってどんな病気?
    ◇日本で行われているBSE対策
    ◇食品安全委員会でBSEリスク評価に関わった立場より
    ◇吉川先生の考えるリスク分析
    ◇会場参加者との意見交換

第2部 「まるくなって語り合おう」 13:30~16:30
吉川泰弘・ 相澤宏(北海道新聞)・ 桑名真人(北海道庁)
    ◇3人の語り合いを聞いてみよう!
     BSE発生当時を振り返り、当時の状況や今後について語り合う
    ◇みんなで語り合おう!
     参加者全員でBSE問題について共有できること、できないことをみつける

TEL/FAX:011-706-4129(電話は平日9:30~17:00)
E-mail:riric@agr.hokudai.ac.jp
ホームページ:http://www.agr.hokudai.ac.jp/riric/
(北海道大学農学研究院 吉田省子、大原眞紀、平川全機)

by stochinai | 2010-11-26 21:18 | 医療・健康 | Comments(2)
 今日発表された、今年のノーベル医学・生理学賞は1978年に世界初の体外受精児を誕生させたイギリスのロバート・エドワーズ(85)に贈られることになりました。日本の報道では、iPS細胞を作り出した山中伸弥さんという声が高かったとされているかもしれませんが、30年以上も前に開発されて現在では世界中で普通に使われている体外受精と、まだ臨床的には何も生み出していないiPS細胞とでは、ノーベル賞授賞という観点から見ると比べものにはならなかっただろうと思います。

 多くの報道で、授賞理由は「体外受精技術の開発」となっていますが、世界初の体外受精児が誕生した時には世界中で「試験管ベビー誕生」と報道されていたと思います。試験管ベビーという呼び方は、確かにこの写真((C)photoXpress)のように誤った印象を与えるということであまり使われなくなったのかもしれません。
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 体外受精は英語ではIVF(in vitro fertilisation)と呼ばれ、文字通り「ガラス器の中で受精」を行わせる技術です。カエルやサカナなど、自然の状態でも卵と精子を体外に放出して受精する動物は、成熟した卵と精子を混ぜ合わせるだけで簡単に「体外受精」を行わせることができるのですが、ヒトを含むほ乳類など体内で受精が起こる動物では、卵と精子を体外に取り出してただ混ぜ合わせるだけでは受精が起こらず、まずはその「体外受精」を成功させるまでに何十年もの努力が必要でした。

 その原因のひとつが、ほ乳類の精子は体外に出てから卵に侵入して受精可能になるまでに時間をかけて一定の刺激を与えられる必要があるということでした。わかってみれば簡単なことだったのですが、それからようやく体外で受精できるようになったのです。さらに次の段階として、受精卵を子宮に戻して着床させなければなりませんが、そのために卵を受け入れる女性の体内環境を整えるためのホルモン処理などの技法が開発されて初めて体外受精から出産へと至ることができるようになったというわけです。

 その一連の作業ができるようになって成功して生まれた最初の例がルイーズちゃんであり、それを成功させたのがエドワーズさんと故人である産婦人科医のパトリック・ステプトーさんという方でした。本来ならばノーベル賞はその二人に与えられるところだったのでしょうが、ノーベル賞は故人には贈られないというルールがあるので、単独授賞となったのだと思います。

 この体外受精技術によってすでに世界でこれまでに計400万人が誕生し、日本国内でも年間約2万人もが生まれているとのことで、もはや後戻りできない通常の不妊治療の一方法となってしまっておりますが、今やこの方法は子どもが欲しい普通のカップルの不妊治療という範疇を越えたものになりつつあり、新たな問題の種になっているので、そういう意味ではノーベル賞はちょっと危ないかもしれないと感じております。

 つまり、この方法を使うと任意の男女の精子と卵を使って受精卵を作ることができ、承諾さえ得られれば任意の女性の子宮でそれを育てることが可能です。ということは、生物学的親子関係といったものをすべて乗り越えた遺伝子の提供者としての父母の組み合わせと、それとはまったく関係のない第3者の代理母という存在の妊婦から新たなヒトを作り出すことができるのです。

 もちろん、日本などは法律的に禁止されているのですが、アメリカなど比較的自由にそうしたことが許されている国で、好きな組み合わせの卵と精子と代理母による子どもを作り出すことが事実上野放しになっています。

 そうしたことに対する、倫理的・法律的なコンセンサスが世界的に得られていない現状では、国境を越えたとたんに合法と違法・脱法行為がコロコロと変わってしまうという、ダークな世界が形成されていることが想像されます。

 というわけで、エドワーズさんのノーベル賞受賞は素直にお祝いしたいと思うのですが、それが生み出した新たな問題の解決に向かってのきっかけになって欲しいという気持ちもある、今回の授賞です。
by stochinai | 2010-10-04 23:40 | 医療・健康 | Comments(3)
 今日、北大病院でも脳死男性からの肝臓移植手術が行われたようです。
脳死と判定されたのは、関東甲信越地方の病院に入院していた男性です。
男性の臓器提供の意思は不明でしたが、家族の承諾で摘出されました。
・・・
家族の承諾だけで提供された臓器の移植手術は、道内では初めてです。             《HBC NEWS1
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 今年の7月に改正臓器移植法が施行されてから、本人の意思が書面に残されておらず、家族の承諾だけで臓器が提供されるのはこれで7例目になります。(朝日コム) 1997年に施行された臓器移植法から10数年で80数例しか臓器の提供がなかったので、改正法施行後の2ヶ月で過去の1年分くらいの臓器提供がされている状況をみる限り、今まで臓器提供が少なかったのはドナーカードによる本人の意思確認とその後の家族の同意という二重の壁があったせいであり、家族の同意だけで臓器が提供できるようになれば臓器提供は劇的に増えるだろうという移植法改正賛成派の方々の議論が証明された結果と言えるのかもしれません。

 現在は本人の臓器提供の拒否の意志がドナーカードなどの形で残されていない限り、本人は臓器提供を否認していないと推定する制度になっており、あとは家族の意向がすべてを決めることになります。

 もちろん、日本臓器移植ネットワークという組織が臓器提供者となる可能性のある患者さんの家族に働きかけをすることがあって初めて臓器提供を考えるということになるケースが多いのだと思いますが、交通事故などの不慮の死にいきなり出会うことになり動揺しているご家族のうち、意外と多くの方が臓器提供に同意なさっているというのが私の率直な印象です。

 上の朝日コムの記事の中に書かれているご家族のコメントがわりと一般的な感慨なのかもしれないと思われました。
「本人が亡くなるという状況の中で、最後に臓器提供をするということで、家族の中では整理が出来た。本人と別れるが、本人の臓器は移植を受けられた方のものとなり、その方にとっての新たなスタートであると思う」
 当然、ご本人は意識もなく脳死状態にあるわけですので、そのご遺体をどうするかというのはご遺族の気持ちの問題だと思うのですが、おそらくほとんどの脳死患者さんはまさかそんなに早く死が訪れるとは思ってもいない状況でいきなり死と対面することになったと思われますので、本人もご家族も脳死になった時には臓器提供をどうするかなどということについて、それまでに話し合ったことなどないというケースがほとんどだと思います。

 逆に言うと、そういう心の準備がされていない状況で家族の脳死に直面し、ネットワークの方からご遺体の臓器で救われる命があります、と言われてしまったら思わず同意してしまう気持ちは理解できるような気がします。

 そのような混乱の場で臓器提供が行われたとしても、後々ご家族の方が「後悔」するようなことがなければ問題はないのですが、今までにないスピードでどんどんと臓器提供が行われているように思われる現状をちょっと心配しているのは私の老婆心です。

 私個人の意見としては、脳死患者さんの臓器で救われる命があることは素晴らしいことだとは思いますが、臓器を提供したご家族はその方が「生き続けている」などというふうには思わずに、臓器を提供した時点ですべてを忘れるというふうにされるのが良いのではないかと考えています。

 たとえ部分でも「生き続けている」などと考えると、将来なんらかのきっかけでその臓器を持っている人に会いたいなどと思い始めることがないともいえず、そうなってくると想像もつかないトラブルが生じる可能性も出てくるのではないかという危惧も覚えます。

 いずれにしても、人間の命と気持ちの問題はどんなに科学や医療が発展しても単純な解決へと向かうようなものではなさそうです。
by stochinai | 2010-09-07 20:42 | 医療・健康 | Comments(4)
 宮崎の口蹄疫もようやく非常事態宣言が解除されるところまできました。殺された大量の家畜の損害もさることながら、今後家畜を育てている農家が感染症爆発以前のようにウシやブタの畜産を軌道に乗せるところまでは、どのくらいのお金と労力と時間がかかるのか想像もつきません。

 畜肉が世界的に流通している現状を考えると「世界標準」の対応を迫られるということもわからないわけではないのですが、たとえ今はそれが常識でも間違っているのであれば新しい常識を世界に提案していくという外交をできるくらいの、科学的・経済的・政治的位置に日本がいてもおかしくないと思うのは私だけなのでしょうか。

 5月にも書きましたが、普通の風邪をひいたからといって感染の拡大を防止するためにヒトを殺したりはしないのに、風邪ウイルスと近縁のウイルスによる口蹄疫感染に対しては感染している個体だけではなく、その周辺にいる個体を皆殺しにしてしまうというヒステリックな対処になるのは、たとえ理学部とはいえ大学で「免疫学」も教えている私としてはまったく理解に苦しむことです。

 膨大な被害を出しながらも、今回はなんとか封じ込めに成功したかのように報道されていますが、今回の口蹄疫騒ぎになった地域にいる偶蹄類の動物は、畜産農家が飼育しているウシや水牛、ブタだけではないはずです。野生のシカやイノシシはどうなっているのでしょうか。
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  シカのイメージ (C) photoXpress

 飼育しているブタやウシに関してはあれだけの大騒ぎをしていながら、野生のシカやイノシシを捕獲して調べたという報道はまったく見聞きしておりません。どこかで、そのような調査があったのだとしたら、結果とともに是非ともお教えください。
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 イノシシのイメージ (C) photoXpress

 さて、池田香代子さんの7月19日のブログ(「オランダは二度と口蹄疫で家畜を殺さない」 第二の官製パニック)の中で、「木村(盛世)さんによると、オランダはこのたびの宮崎の惨状を見て、今後一切、口蹄疫に罹った家畜は殺処分しない、と宣言したそうです」と書いてあったので、私は「我が意を得たり」とtwitterに転載したところ、情報の確かさに対して多くの方からいろいろとご注意をいただきました。確かに、その時点では情報ソースが見つからなかったので、この件に関しては保留にしておいたのですが、今日その木村盛世さんのブログにソースリンク付きで同じ情報が載っていました。

 第2の官制パニック、口蹄疫-(4) -公衆衛生の概念無きFMD対策-
オランダ政府は、6月28日にFMD流行時の殺処分は今後一切行わない事を明言し、その代わりに緊急のワクチン接種を提案しています。
http://www.warmwell.com/euwpmay112010.html
 喜び勇んでソースサイトをクリックしてみたのですが、そこにはワクチン使用の勧めはたくさん書いてありましたが、どうもオランダのことは見つかりません。しかも木村さんのブログでは6月28日に発表したとなっているのですが、こちらのページは5月(Brussels, May/2010)に書かれたもののようです。

 というわけで、またしてもオランダ政府の公式見解の記事にはたどり着けなかったのですが、そこに書かれた「殆どの牛は回復し、肉を食べても問題ない、人には罹らない病気に対して何故、どうして殺処分に固執するのか、そして、10年前に様々な研究や意見がなされてきたこの問題に関して、何の議論も起こらないのか、とても不思議に思います」には、私も大いに共感します。また、「ワクチンに関してもその有効性は未だ確立されていません。しかし、殺して埋める、という現場の労力と、それに伴う経済的被害、畜産農家の精神的苦痛等を考えると、ワクチンというのは大きな選択肢であるといえます」にも賛成です。

【追記29日】コメント欄で「ごんべ」さんという方が、木村ブログの元ネタになったと思われる記事のソースを教えてくださいました。
Commented by ごんべ at 2010-07-29 10:28 x
http://www.warmwell.com/fmd0809.html
のJune 28thに書いてあります。
が、そのソースはやはり見つかりません。
 しかし、このサイトには6月28日付けで、宮崎のことと並んで、次のような記事があります。
June 28th 2010 ~ In the Netherlands, mass culling is never going to take place, again

It is interesting and encouraging that the Dutch Ministry - not waiting for the change in regulations about the resumption of trade that must inevitably come sooner or later - has officially written in their Contingency Plan that mass culling is never going to take place, again and that immediate emergency vaccination to live will start (both for FMD and CSF) in the event of an outbreak.
 これは、まさに木村ブログに書いてあることに符合していると思います。


 さらに厚生労働省の医系技官である木村さんの口から「日本には欧米並みのレベルを持った公衆衛生大学院がないというのが実情」であり、その結果として客観的に政府に政策を提言する「シンクタンク、すなわち公衆衛生専門家集団が不在だ」ということが語られているのですから、驚きです。要するに、日本の公衆衛生政策は「思いつきや、思い込みで」決定されているというのは、どうやら事実のようです。

 このようなブレイン不在の行政が今、研究の中心を担っている大学も含めた全国の大学をスリム化しようとしているのですから、日本の将来は危険きわまりないと感じます。

 木村さんに言われるまでもなく、口蹄疫に限らずこれからも繰り返しパンデミックのおそれのある感染症の流行が必ずやってくるでしょう。その時になってまた、今回および昨年のブタインフルエンザ騒ぎのようなパニックを繰り返すのではあまりにも愚かです。

 口蹄疫が一段落した今だからこそ本気で対策のための教育機関・研究機関・検討機関・政策決定機関を立ち上げておいてほしいと思います。

 のんきに大学を兵糧攻めにしている時ではないでしょう。

【追記2 beachmollusc さんからの情報】
 (社)予防衛生協会理事・東京大学名誉教授・山内一也先生による解説「口蹄疫の正しい知識1~11」
http://www.primate.or.jp/rensai/zakki/index.htm

口蹄疫の正しい知識
 1.はじめに
 2.ウイルス学の出発点になった口蹄疫
 3.口蹄疫はもっとも重要な家畜伝染病
 4.殺処分方式の歴史
 5.どのようにして口蹄疫は広がるか
 6.口蹄疫ウイルスの特徴と研究の背景
 7.過去の日本における口蹄疫の発生と対策
 8.日本からのワクチンが感染源となった米国の口蹄疫
 9.メキシコで起きた口蹄疫の大発生
 10.マーカーワクチン:殺すためのワクチンから生かすためのワクチンへ
 11.口蹄疫対策の転換をもたらした英国での口蹄疫の大発生

by stochinai | 2010-07-28 20:26 | 医療・健康 | Comments(48)
 日本で未公開だった映画のようですが、DVDを借りてきて見ました。感想を一言で言うと、見て損はない映画だと思いました。

 原作の小説がアメリカで大ヒットして映画化されたもののようですが、劇場用の映画ではなくテレビ映画として放送されたものらしく、ほぼぴったり1時間半に収まっています。

 原作はこちらです。
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 メモリー・キーパーの娘

 英語を直訳したタイトルは全然ダメだという第一印象はさておき、私は寡聞にしてこの小説のことも映画のこともまったく知りませんでしたが、内容はそこそこ裕福な医師の家庭に訪れたあざなえる縄のような幸福と不幸を描いたもので、ある意味非常に「陳腐」な内容です。しかしそれでも、先天性疾患、生き別れた双子、夫婦や親子の複雑な関係などを非常に手際よく、わかりやすく描いたシリアス・ホームドラマとしては、それなりに良くできていると思いました。

 特に、主演のエミリー・ワトソンとおそらく本物の先天性疾患を持ったボランティア俳優の演技が、この映画のすべてを支えていると言っても良く、こうした問題をタブー視することなくそれもテレビ映画という膨大な視聴者を抱えるメディアで映画化したアメリカという国の、ある意味での「懐の深さ」・「健全さ」を感じさせられました。

 同時に、この映画が日本で公開されなかったということも、ある意味での日本の事情(「不健全さ」)を示しているようにも感じました。

 とりあえず短編ですし、見て損のない映画だと思いますのでレンタルビデオ屋さんで借りてごらんになることをお勧めします。映画の冒頭にも出てきますし、ネタバレと言うほどのこともないので書いても良いと思うのですが、テーマになっている先天性疾患はダウン症です。(そういう意味では、やはり一昔前のお話になっていることは意識しておくべきかもしれません。)

 映画そのものは、アメリカの iTunes store でも売っているということでチェックしてみましたが、その値段にびっくりしてしまいました。
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 ご覧になりにくいかもしれませんが、$3.99なのです。今なら300円ちょっとということでしょうか。レンタル料金とほとんど差がない値段で全編が販売されているということは、レンタルビデオに未来がないことの証明のようにも思えます。一方、ガラパゴス日本での状況はどうかということをチェックしてみると、これまた愕然とさせられてしまいました。
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  なんと日本のアマゾンでDVDを買おうとすると、3990円という値段がついています。

 昔、1ドルが200円くらいのレートだった頃に大手代理店を通じて洋書を買ったときに、1ドル450円くらい取られたような記憶があり、大いに憤慨しまた日本の輸入障壁の大きさを感じたものですが、iTuresとDVDの値段の差が10倍もあるという現実を前に、状況はさらに悪化しているのかと衝撃を受けております。

 私、何かとんでもない計算間違いをしていますか?
by stochinai | 2010-07-18 23:04 | 医療・健康 | Comments(0)

胃カメラなう

 どうやら私には胃潰瘍という持病があるようで、前に人間ドックで発見されて胃カメラを飲んだのを最初に、その後もドックで「潰瘍の跡」があるとたびたび言われています。しかし、最初の胃カメラ以降は幸いにして胃カメラ再検査を申し渡されたことがなく、やれやれと思っておりました。

 しかし、人間ドックでひっかからなくても、胃潰瘍あるいは十二指腸潰瘍を思わせる腹部の不快感はしばしば感じることがあり、そういう時には潰瘍ができているに違いないと勝手に判断しておりましたが、ほとんどの場合数日から1-2週間で症状は軽快するのが常です。

 この「持病」の胃潰瘍は、歯科などで処方される解熱鎮痛剤でも顕著に目を覚ますという自覚がありますので、解熱鎮痛系の薬は苦手です。さらに、よく言われるように、精神的ストレスも発症の引き金になるのは私の場合も例外ではなさそうで、それを避けるためにも人一倍「楽天的」で「怠惰」な生活を送ることを心がけているのですが、この夏はちょっとやられてしまったかもしれません。

 今週の火曜日がおそらく不調のピークでした。普通の場合だと胃潰瘍・十二指腸潰瘍は胃部付近の不快感が主な症状で全身症状になることはめったにないので、逆に今回の全身症状が胃潰瘍が原因であるという風に気づくまでにちょっと時間がかかったのかもしれません。火曜日はそれまで寒かった数日から急に暑くなったせいもあっって、自分では「熱中症」かもしれないと思ったりもしながら、早めに帰宅して寝ておりました。

 翌朝には、体調はかなりマシになっており、おそらくこのまま軽快へと向かうと思われたのですが、月曜日の夕方頃に感じた胃部の不快感を思い出したことや、その夜は濡れネズミになって帰ったことなどを思い出し、ひょっとすると火曜日のものは胃潰瘍からきた全身症状ではないかとも感じ始めました。前に、ネズミを使った実験で、ネズミを強制的に水攻めにすると、胃壁からプツプツと出血するという実験の動画を見たことを思い出し、ヒトも濡れるストレスで胃潰瘍が悪化するということもあり得るなと思ったこともひとつあります。

 今朝は、昨日よりもさらに体調が良くなっていることはわかったのですが、特別講義のおかげで講義がないという日に当たっていたので、思い立って消化器科の病院に行ってみました。(体調が回復気味のところで病院に行くというのは、意外と気軽なものだと気がつきました。これが、逆なら・・・。)
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 前に胃カメラを飲んだ経験があったので、今日は急に行っても胃カメラということになるかどうかわからないまま、とりあえず朝食抜きで行きましたところ、すぐに胃カメラをやりましょうということで、ほぼこちらの予想通りにことが運びました。

 もちろん、他の病気も疑われないわけではありませんので、一般的血液検査をしたあと、シロップによる喉麻酔、スプレーによる喉麻酔の後、とんとんと胃カメラ検査室のベッドに載り、静脈注射による鎮静剤投与のあとさくさくと胃カメラ検査が行われました。
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 実は、前回の胃カメラの時はものすごい嘔吐感の中でゲーゲー言いながらやったものですから、胃カメラに関しては若干の恐怖感もあったのですが、麻酔方法も進歩していますし、カメラも少しは細くなっているみたいで、前の時のように涙をぼろぼろ流しながらということはまったくなく、まあこのくらいは検査だから仕方がないか、という感じで終了しました。

 その結果、やはり予想通り出血があったと思われる潰瘍が胃の底の方に見つかり、潰瘍のまわりや十二指腸や食道の方にも若干の炎症が認められたということで、とりあえずこの先は薬で治しましょうということになりました。

 前に胃カメラを飲んだ時にはしなかったのですが、今日はピロリ菌の検査もしました。結果は、予想通り陽性。私の胃潰瘍が持病化しているのもピロリ菌のせいかもしれず、再発を繰り返すことと、胃がん発生を阻止するという意味でもピロリ菌を除去したほうがよいということなので、そうしていただくことにしました。

 とりあえずは、潰瘍が完治するであろう2週間後くらいから、ピロリ菌除去の投薬を開始し、その1ヶ月後くらいに除去ができたかどうかを、「胃カメラで検体を採取して確認しましょう」ということになりました。ゲゲッ、胃カメラ予約なう、までしてしまいました。

 自分はなんの病気かわからないからとりあえず内科へ行って調べてもらうというのが、多くの患者さんの行動パターンではないかと思いますが、そうなると検査検査で時間もかかりそうですし、患者さんの身体的負担も多くなります。「賢い患者」になるためには、自分である程度病気に「あたり」をつけて、その専門病院から始めるというのもありではないかと思った1日でした。(もちろん、グーグル症候群は困りますが・・・。)
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 お世話になった北海道消化器科病院は私の家から比較的近いこともあり選んだのですが、雰囲気も良く待ち時間も思ったほど長くなく、てきぱきと患者さんをさばいてくれて非常に好感が持てました。

 おそらく、病院のシステムもどんどん進歩しているんですよね。医療崩壊と騒いでいる人も、まずは現場の病院を見るところから始めなければ、と感じた「胃カメラなう」の日でした。

【余計なひとこと】胃潰瘍はストレスによっても悪化することがあるらしいので、私に過度のストレスをかけることはご遠慮願えると幸いです(^^;)。
by stochinai | 2010-07-15 19:31 | 医療・健康 | Comments(6)
 先日、私の部屋の窓から見た市立札幌病院救急搬送ヘリをレポートしましたが、ほとんど点のようにしか写っていないヘリの映像に、ドクターヘリのことにはかなり詳しい理学部事務部の畑中さんから、コメントとともにたくさんのドクターヘリ関連の写真をお借りすることができました。

 というわけで、今日はゲストの畑中さん提供の写真の一部を使って「ズームイン・ドクターヘリ写真集」をお送りします。

 畑中さんは、以前北大病院の事務部にいらっしゃって、北大病院でのドクターヘリ本格運用の立ち上げを担っていらしたとのことで、写真も「かぶりつき」の位置で撮っておられるので迫力満点です。

 まずは、実際の患者さんが搬入された時の写真をごらんください。着陸寸前の様子です。
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 病院の屋上にはヘリポートがないようで、北大をご存じの方ならすぐにわかると思いますが、病院の南側にある駐車場と歯学部の間にある芝生が着陸地点になっています。

 本番ですので、ちょっと遠慮して遠くから撮っていますが、エンジンが止まってから患者さんを運び出しています。
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 H中さんご指摘のとおり、市立病院に来るヘリコプターは消防局のものでもっともっと大型で、エンジンを停止せずに離発着しています。北大に来る機種と違って、あちらはエンジンを切ると再起動するまでに冷却などのプロセスを必要とするらしく、その騒音を考えると研究機関が密集する北大構内の平地に着陸することは難しいのだそうです。

 こちらの機種は、短時間でエンジンを再始動できるということで、ヘリコプターの運用法ひとつとってもなかなかおもしろい情報があります。

 ここからは、本格運用に向けて行われた模擬訓練(2003.6.25)の時の映像です。撮影はもちろん畑中さんです。

 まずは、遠くからやってくる機影を確認するところからです。病院の北東側でしょうか。
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 こんどは模擬患者さんの搬出ですから、グッと寄れます。報道のカメラマンも数人いるようです。ヘリコプターはカッコいいですね。
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 この位置から見るヘリコプターもなかなかカッコいいですね。
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 訓練とはいっても、きちんと病院内にまで搬入します。ぶれているところも迫真力満点。
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 「患者さん」が運び出されたあとの機内を撮影。
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 基本的には救急車の中と同じような感じだと思います。雑然としていますが、何でも揃っています。
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 こちらがベッドスペース。意外と狭いです。

 そして訓練も終わり、ヘリが飛び立つところです。
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 あっという間に上昇し、
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 あっという間に飛び去っていきます。
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 この手軽さは、自家用車の感じですね。

 写真と情報提供は畑中昌夫さんでした。ありがとうございました。
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理学・生命科学事務部
研究協力担当 畑中昌夫
内線2611 (直通011-706-2611)
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by stochinai | 2010-07-07 19:25 | 医療・健康 | Comments(0)
 あちこちでニュースになっています。

 Bitter Melon Extract Decreased Breast Cancer Cell Growth (苦いメロンの抽出物が乳がん細胞の増殖を抑える)

 ビターメロン(苦いメロン)というのが良くわからなかったのですが、調べてみるとなるほど「苦いウリ」、ニガウリ、苦瓜、ゴーヤーのことでした。
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 (C)photoXpress

 ゴーヤーは健康食品としていろいろな効能があることが知られています。血糖値を下げたり、血中の脂肪分を下げる働きは実証されているようですが、ここを見ると、解熱、解毒、下痢治療、糖尿病の血糖値降下、創傷の治癒の促進など、古くからさまざまな用途に使われているようです。

 というわけで、また「民間療法」に近いの話かと思ったのですが、研究者がきちんとした実験をして論文を書いて、がん研究では大御所の雑誌である Cancer Research に載っている論文の話でした。

Published online first on February 23, 2010
[Cancer Research, 10.1158/0008-5472.CAN-09-3438]

Bitter Melon (Momordica charantia) Extract Inhibits Breast Cancer Cell Proliferation by Modulating Cell Cycle Regulatory Genes and Promotes Apoptosis

Ratna B. Ray, Amit Raychoudhuri, Robert Steele and Pratibha Nerurkar


 セントルイス大学の科学者による研究です。ゴーヤーを患者さんに摂取してもらうというようなことではなく、ゴーヤーの抽出物を乳がんと正常乳腺上皮の培養細胞に与えて、その遺伝子発現の変化やアポトーシスと呼ばれる細胞死をチェックするという、オーソドックスなものです。

 その結果、ゴーヤーのエキスで処理された乳がん細胞は細胞分裂の周期が停止して細胞死を起こすとともに、がん細胞を生かし続けるタンパク質の合成を止めたり、細胞分裂を促進する遺伝子を働かなくすることなどを明らかにしました。

 細かいデータに興味のある方は、オンラインでpdfファイルも入手可能ですので、論文に当たっていただくとして、ここでは彼らの結論を示した図を引用しておきます。
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 BMEというのがビター・メロン・エクストラクトで、その効果により細胞分裂が止まり、細胞死が誘導されるという仮説です。

 ただし、このBMEの中のどのような成分がこれらの効果を引き起こすのかということや、さらに大事なことなのですが、身体の中にある乳がんの細胞にも効くのかどうかなどについてはまだまだ研究途上ですので、この結果からすぐにゴーヤーが乳がん治療に適応されるということにはならないと思います。

 でも、ゴーヤーはもともといろいろと身体に良いと言われているものなので、積極的に摂る理由が増えることにはなると思います。いわゆる「希少健康食品」と違って安いところもいいですね。
by stochinai | 2010-02-24 19:41 | 医療・健康 | Comments(2)
 今朝の新聞に、法務省が目を疑うような差別をしているという記事が出ていました。

 性別変えた夫の子、妻出産でも婚外子扱い 法務省見解 (朝日ドットコム)
 心と体の性別が一致しない性同一性障害との診断を受け、女性から男性に戸籍上の性別を変更した夫が、第三者の精子を使って妻との間に人工授精でもうけた子を、法務省は「嫡出子(ちゃくしゅつし)とは認めない」との見解を示した。
 法務省と言えば、「日本の最高頭脳」が集まると言われている某大法学部出身者の巣窟とも言われているところであり、当然頭の良い人がたくさんいると思われるのですが、この判断を見る限り「頭が悪すぎる」と言わざるを得ません。あちこちで、論理が破綻しまくっていると思います。

 今の日本には、性同一障害の人の基本的人権を守るために、2003年に成立し2004年から施行された「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」というものがあります。この法律によって、「性同一性障害者のうち特定の要件を満たす者につき、家庭裁判所の審判により、法令上の性別の取扱いと、戸籍上の性別記載を変更できる」ようになり、「昨年3月までに戸籍上の性別を変更した男女は1468人」いるそうです。

 戸籍の変更を認められたということは、たとえ変更されたものだとしても法律上の性別として日本におけるその性を持つ個人としてのあらゆる権利を認められなければならないはずですが、朝日の記事が書いているように今回、法務省が示した見解は、法に基づいて性別変更した人をなお『別扱い』にする」という、官制差別として断固として糾弾されるべきものだと思います。

 私は、個人的にも法務省を問い詰めたいあるいは担当者と議論したいと思っていますが、朝日が行ってくれた良い取材があります。
 嫡出子と認めない理由について、法務省は朝日新聞の取材に「特例法は生物学的な性まで変更するものではなく、生物学的な親子関係の形成まで想定していない」と文書で回答。出生届を出す窓口で、戸籍から元は女性だったとわかるため、「遺伝的な父子関係がないのは明らか」(民事1課)と説明している。
 変更した後まで変更前の性別を引きずって差別されるのであれば、なんのための戸籍変更かわかりません。法務省は法律の意味を理解していないのでしょうか、あるいは法律があっても「そんなの関係ない」と、法律よりも法務省の運用のほうが優位だとでもいいたいのでしょうか。

 法について強くもない私ですので、法解釈の議論をするつもりはありませんが、ここでは朝日の取材に法務省が答えた「遺伝的な父子関係がないのが明らかならば、法的な嫡出子として認めない」というところを問題にしてみたいと思います。

 法務省が、今までもこのことを時代時代の最高水準の科学的判定技術を援用して徹底してきており、かつこれからも例外なくそうするということならば、生物学者としては引き下がらざるを得ないところなのですが、残念ながらそれは現実とはかけ離れた「建前論」と言わざるを得ません。遺伝子解析が進んだ今日では、遺伝子をちょっと調べるだけで、遺伝的な父湖関係があるかどうかは簡単に明らかにすることが可能です。

 お暇なら調べていただければ良いと思うのですが、たとえ法的に結婚している妻が出産した子だとしても、法的な夫の精子によって妊娠したものではない例は数え切れないほどあるはずです。もちろん、そのことを夫だけが知らない場合には今でも法的に嫡出子であることを拒否することはできますが、夫も承知して行われた第3者からの精子提供による人工授精は、公認された医療行為として日本では何十年も前から行われています。

 されに最近では、法的に結婚した妻が産んだことが確認された子ですら、その子が夫以外の第3者に由来する精子ばかりではなく、妻以外の第3者に由来する卵(卵子)による妊娠すらも可能になっているのです。そして、これらすべての場合には夫の不同意がない限り、すべて「夫と妻の子」として認定されてしまっているという現実があります。こうした状況を踏まえると、前時代的な民法の既定「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する」(772条)自体が破綻ししていることを認めるべきだと思います。

 そもそも「嫡出子」などという概念が存在すること自体が大問題だと思いますが、せっかく性同一障害者の人権を守るために戸籍を変更することを認めたのであれば、戸籍変更前のすべての個人情報はなかったものとして扱うのが法の精神だと思います。

 私は、「生みの親より育ての親」こそが尊いという立場を取りますので、嫡出子などという遺伝的父子関係を重視する封建制度は一日も早くなくなって欲しいと思うのですが、様々な生殖補助医療技術の発達によって、そうした遺伝的親子関係が実生活の親子関係と一致しない例も増えている今は「遺伝的親子より一緒に生活する親子」をこそ大切にすべきだと思いますし、相続などの法律にしても遺伝的関係ではなく、どのくらい一緒に生活したかを重視するように変えるべきだと強く思います。

 それでもなお法務省は嫡出子制度を守るというのならば、全国民に対して遺伝子による親子鑑定を義務づけてみてほしいと思います。そこまでする気がないのであれば、戸籍変更によって性別を変更した男女についてだけ、簡単にわかるからという理由で普通の男女から差別することをすぐさまやめるべきです。
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(C) photoXpress 写真はイメージであり、本分とは関係ありません。
by stochinai | 2010-01-10 23:45 | 医療・健康 | Comments(6)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


by stochinai