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カテゴリ:医療・健康( 103 )

 今朝の朝日新聞では1面に図入りで出ていました。ネットで調べても図入りで報道されているところが何社かあります。比較的、文章が長かった毎日を引用します。

 交通事故死:57年ぶり5000人下回る…ベルト着用増え
09年の全国の交通事故死者数は9年連続で減少し、4914人(08年比241人減)となったと発表した。死者数が4000人台になったのは57年ぶり。事故の発生件数と負傷者数も5年連続で減少。
 事故発生件数と負傷者数が「5年」連続の減少であるにもかかわらず、死者数は「9年」連続で減っているというのはちょっと興味深い現象だと思ったのですが、その理由について明確に書かれている記事はなかったようです。

 そもそもせっかく図入りになっている記事でも、事故件数の推移グラフも入っているのは読売だけで、せっかく図のスペースを割いているのに、朝日・毎日・時事では単なる死者数だけが入っているグラフです。それでは、いくら一所懸命グラフを読み解こうとしても、何も出てきません。

 せめて政府が発表している統計表(平成20年中の交通事故の発生状況pdf)にある、この程度のグラフを提供してもバチは当たらないでしょうし、それを見ながらだと警察庁の発表の信憑性も少しは検証できるというものではないでしょうか。
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 警察庁の発表ということで、毎日は「シートベルトの着用者率の向上や悪質・危険性の高い違反に起因する事故の減少などが要因」と書いていますし、読売は警察庁は、シートベルトの着用者率の向上や悪質・危険性の高い違反に起因する事故の減少などが要因」と書いています。

 興味深いのは、事故発生件数が減り始める前にしばらく発生件数が増えもせず減りもしなかった数年にも、死者数・重傷者数が減少に転じていることです。しかも、その前の事故の発生件数や軽傷者数が増え続けている時期(平成5年くらいから12-13年頃)には、重傷者数はあまり変わっていませんが死者数はほぼ順調に減り続けているということがわかります。

 ところが、その前の10数年は事故発生件数の増加と死者数が平行して変動しているように見えます。

 これは警察庁の言うように、シートベルトを含めた事故が起こった後での乗員を守る車の安全性が高まっていることも大きな要因の一つだと思われますが、救急医療の発展というものも大きいのではないかと感じられました。もし、そうなのだとしたら救急救命医療に携わる医療関係者の士気高揚のためにも、是非とも記して貢献を称えるべきではないでしょうか。

 それとも、他に原因があるのでしたら、そうした分析も是非ともお願いしたいところです。記者さんだけでは大変ということでしたら、そういうことこそ専門に分析している方に登場してもらいましょう。世の中には、政治評論家ばかりではなく、そうしたことを解析している研究者もたくさんいらっしゃるはずです。

 いずれにせよ、交通事故死者数が順調に減り続けていることは喜ばしい限りですが、その一方で高止まりを続けている自殺者数は昨年もやはり3万人を越えたらしく、12年連続で3万人を突破という悲しい記録になっています。
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 交通事故死には交通事故という原因があります。それでも、上に書いたように、事故が起こっても死なないための対策を取ることで事故死を減らすことができた時期もあったように思われます。同じように、自殺にも多くの場合「原因」があるのではないでしょうか。交通事故死の減少に習うならば、死んでしまいたくなるような「原因」があったとしても、交通事故が起こった時に急速にふくらんで乗員の生命を守るセーフティバッグのような「しくみ」を社会が用意することで、とりあえずの緊急避難はできるのではないかというようなことを考えていました。

 いろいろな困難はあるでしょうが、もしも民主党政権が自殺者数を減少に転じさせることができたら、10年くらいは政権を預けてみても良いのではないかと思っています。
by stochinai | 2010-01-03 21:42 | 医療・健康 | Comments(1)
 engadget日本版に面白そうなニュースが載っていました。

 血糖値で色が変わる糖尿病用コンタクトレンズ

 血糖値とは血液の中のグルコース(ブドウ糖)の濃度ですが、それにしたがって涙の中に含まれるグルコースの量も変動します。つまり、血糖値は涙で測ることができるということが出発点です。
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from Wikipedia このファイルはクリエイティブ・コモンズ 表示 3.0 Unportedの下でライセンスされています。

 次に、涙の中のグルコースの量をリアルタイムに表示するためにコンタクトレンズを利用するというのがアイディアです。記事にはカナダ、ウェスタンオンタリオ大学のJin Zhang教授が開発した「グルコースに反応し、色を変化させる」「ナノ粒子を埋め込んだコンタクトを着用することで、血糖値の変化が分かるようになる」と書いてあります。いまいち内容がはっきりとはわかりませんが、糖尿病患者の血糖管理には朗報のようです。

 とりあえず、英語版の元記事にあたってみます。

 Color-Changing Contact Lenses Help Diabetics Keep Tabs on Glucose Levels (ecouterre)

 現在、糖尿病患者は指先に針を突き刺して少量出血させた血液中の糖を測る簡易測定器を使っていますが、わずかとはいえ痛みを伴いますし、傷口からの感染などの危険もないわけではありません。血液の代わりに涙の中の糖をこの機械で測定してもいいようなものですが、コンタクトレンズの色が変わるということは機械を持ち歩かなくても良いですし、誰でもが注意できるという利点があります。

 色の変わるナノ粒子というものがうまくイメージできないので、ウェスタンオンタリオ大学のプレスリリースを見てみました。

 Nanocomposites could change diabetes treatment

 まあ、こういうものは特許などお金がからむことが想像されるので、細かいことは発表しないのかもしれませんが、ここを読んでもグルコースと反応して色の変わるナノ粒子をハイドロゲルに封じ込めて作ったコンタクトレンズが、血糖値のモニターになるということです。

 なぜこれが今ニュースになったかというと、この研究で化学・生化学工学のZhang教授が、カナダ発明財団(Canada Foundation for Innovation: CFI)から、$216,342の研究費を獲得したということが発表されたからのようです。

 ナノ粒子技術の応用は今回の発表にとどまらず、酸素や二酸化炭素や水を透過しない食品パッケージ、病原体を検出できるパッケージ、さらには生分解性のパッケージも作る技術へと発展すると書いてありますが、ますますわからなくなりました。

 ともあれ、ウェスタンオンタリオ大学はCFIから12のプロジェクトに、合わせて$2,659,595の研究費を与えられたということで、ご同慶のいたりです。

 ここに磁界に反応して、色の変わるナノ粒子の話がありますが、関係あるでしょうか?

 Colorful, Magnetic Microspheres Could Make New Kind of Display


by stochinai | 2009-12-25 19:34 | 医療・健康 | Comments(0)
 まさかデマとは思われないような感じで、大手マスコミ、テレビ、ラジオ、ネットに騒ぎが拡がっています。はては長妻厚生労働大臣までもが「漢方薬についても市販の物を買って保険から外しなさいと、こういうようなご指摘もあると聞いているが、そのまま受け入れるというのはなかなか難しい」(長妻 昭 厚労相)」(TBS Newsi)というコメントを出すなど、誰もが今回の事業仕分けで漢方薬を保険適用から除外すべきという結論が出たと思っていたと思います。上のコメントが出たニュースにもこう書いてあります。
 事業仕分けでは、薬局で類似薬などが市販されている漢方薬は、医師が処方する保険適用から除外するべきとされましたが、長妻大臣は29日、結果を受け入れない姿勢を示しました。
 私のところにも、漢方薬の指定除外の反対署名の情報が来たりしましたので、それは一大事と署名に応じようとしたりもしていました。

 しかし冷静に考えてみると、漢方薬の評価は高まりこそすれダメだという話を聞いたことはほとんどないという状況の中で、いくらあの「必殺仕分け人」でもそんな血迷った判断を下すのかといぶかしく思っていたところではありました。

 あの「きっこのブログ」のきっこさんでさえ、これは一大事ということで「署名サイト」を立ち上げたということで、私も今朝署名に行ったらなんと「状況が怪しくなってきたので、署名は一時中止します」みたいな感じで、サイトが閉鎖されていました。
先ほど、行政刷新会議の事業仕分けで、漢方薬を保険適用の対象外にすると決まったので、これに反対する署名へのご協力をお願いする告知を掲載しました。しかし、もう少し調べてみる必要があると判断しましたので、いったん告知を削除しました。お騒がせしてしまい、申し訳ありません。
 で、先ほど見てみたらきっこさんのところで詳しい状況の解説が行われていました。

 結論から言うと「マスコミが報じている「行政刷新会議の事業仕分けで、漢方薬を保険適用の対象外にすると決まった」という報道は事実に反する」ということのようです。詳しくはきっこのブログをお読みください。

 漢方薬に関するデマ

 そもそもこれに関連した仕分けが行われたのが11月11日のはずなのに、このニュースが流れ始めたのが27日前後だというあたりから疑うべきだったのです。さすがにきっこさんは科学的に「原典にあたる」ということを実行してくださいました。
(この問題に関連した議論がされたのは)11月11日に行なわれた「第2WG 2-5」の「後発品のある先発品などの薬価の見直し」っていう会議で、相手は厚生労働省だ。
・・・
最初に結論から言っとくと、この会議に参加した民主党の枝野幸男議員を始めとした仕分け人の面々は、誰1人として、「漢方薬を保険適用の対象外にする」なんて言ってない。それどころか、「市販品類似薬を保険適用の対象外にする方針なのか?」っていう厚生労働省の官僚の質問に対して、ハッキリと否定してる。
 という恐ろしい事実が浮かび上がってきたのです。 つまり、今日本中を騒がせている大ニュースは大ガセである疑惑があります。
だから、すべての新聞の報道は「デマ」であり、それに乗せられて署名なんか始めちゃった漢方薬関連の人たちも、慌てて署名をしちゃった一般の人たちも、みんな、バカマスコミに騙された被害者ってワケだ。
 きっこさんは、録音を全部聞いて書き起こしてくれています。仕分け人が言ったことは次の3点だけだそうです。
「病院で処方する医薬品は、市販品の定価よりも2%高く設定している。・・・このぶんは全国の国民が支払っているのだから、この2%も削減すべきである」

「海外で使われている薬が国内で使えるようになるまでに長い時間が掛かるドラッグ・ラグについて、もっと短時間で使えるようにするために認可手続きを迅速化すべきである」

「町の薬局でも買えるビタミン剤、シップ薬、うがい薬などの市販品類似薬は、お年寄りなどは飲み残しも多いし、中には市販品を買ったほうが安いものも多い。こうした市販品類似薬に関しては、保険対象外とすべきである」
 そう言えば、こういう議論は当時の新聞などにも出ていたような気がしてきました。

 きっこさんのブログの結論はあまりにも威勢の良い啖呵で終わっていますので、それを引用するのはもったいなのので是非とも「原典」にあたっていただきたいと思うのですが、どうやら仕分け人やら仕分け事業をこき下ろしたい勢力(マスコミ関係?)が意図的に作り出したフレームアップの疑いが濃厚な「事件」のようです。

 まあ、マスコミが起こした事件はいつのまにか静かになって責任追及もされずにうやむやになっていくというのが通例ですから、今回の件も時間と共に忘れ去られていくことになるのでしょう。

 それにしても、この件に関連して私が思ったことは、科学研究関連予算の仕分けについても、きっこさんのように「原典」に当たらずに、伝言ゲームのように「仕分け人の言ったこと」や「仕分けの結論」といったものがネットやマスコミを駆けめぐっていることの危険性です。少なくとも国立大学法人の運営費交付金の議論においては私は枝野さんや蓮舫さんは法人化に批判的で、現在の大学の置かれている窮状を理解していると感じられる発言をしていたことをリアルタイムに見聞きした自信があります。

 今回の「事件」は、2次3次情報に振り回されることの恐ろしさを教えてくれています。少なくとも科学的訓練を受けているはずの我々には、きっこさんに笑われないような「科学的対処」を心がけたいものです。

 大丈夫でしょうか。

【追記】
コラム【安住るりの昭和史瑠璃色眼鏡】
漢方薬保険適用除外は【誤報】です! 仕分け人枝野議員が明言
JANJAN 2009/12/09
 ここでは仕分け人の誰一人として「漢方薬」について言及していない。
 うがいクスリ、湿布薬、ビタミン剤については、具体的に薬品名を挙げて「同等の市販品が安く入手できるもの」については、保険適用から外すことも検討すべき、としたが、財務省の事前ペーパーにあった「漢方薬」には仕分け人は触れておらず、除外する薬品の判断は厚労省と財務省でよく協議検討すべし、という結論になった。

 そのことは、現場で取材していた記者たちは正しく理解したはずだし、枝野議員は、日本テレビの全国放送番組などで「漢方薬を保険から外すとは決まっていない」と何度も述べたのに、系列の新聞さえもが、逆の誤報を前提として「仕分けチーム批判」の社説まで書いたのだという。

 なぜか、他紙もテレビニュースも、いっせいに同様の報道をしたので「署名運動」などの大騒ぎになったのは周知のことである。11月11日の事業仕分けの翌日に、漢方薬大手の「ツムラ」の社長が自ら、誤解に火をつけるような発言をした。経営者としてはおかしな行動だと筆者は感じる。自社の株価などにただちに跳ね返る情報を、この社長は、自ら確認しなかったのだろうか?

 また、短期間に27万人もの署名を集めた「東洋医学会」も、仕分けの音声や映像の記録を確認しなかったのだろうか? 筆者は、どうも腑に落ちない

by stochinai | 2009-11-29 23:55 | 医療・健康 | Comments(45)
 一昨日のニュースで、国内で新型インフルエンザのワクチンを接種をした人のうち21例の死亡が確認されているということです。毎日jpの記事から引用します。
 厚労省によると、16日までに寄せられた副作用報告は約450万件の接種に対し877件、このうち入院相当の重い副作用は0・002%(10万件に2件)の68件。20日までに報告された死亡21件のうち調査中の2件を除く19件は、基礎疾患のある50~90代。
 もちろん、21人のすべてが新型インフルエンザワクチンの接種後に亡くなられているわけですが、そのうち強い因果関係が疑われている方も4名おられるとのことです。

 季節性のインフルエンザワクチンでも副作用があり、今回の新型インフルエンザに対するワクチンが特に副作用が強いというわけではなさそうですが、普段の季節性ならばワクチンを打たないという方でも、新型に対しては打った方が良いのではないかという「雰囲気」がありますので、ここは一呼吸おいて判断をすべきところです。
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(C) photoXpress (イメージです。)

 巷では新型インフルエンザワクチンが不足しており、基礎疾患のある方や妊婦の方が優先で、次に児童・生徒などということになっていると言われると、基礎疾患のある方は、このワクチンを打たなければインフルエンザにかかってひどいことになるのではないか、という恐怖感をあおられているのではないかと心配です。

 しかし一方では、インフルエンザワクチンを打った後になくなった方のほとんどが基礎疾患のある中高年ということになっておりますので、その方々は「いったいどうしたら良いのか」とお困りではないでしょうか。

 今回の新型インフルエンザとの関連が疑われてなくなった日本の方は、11月16日現在で(疑わしい例も含めて)厚労省へ連絡があったのが63例のようです。正確な数値はわからないのだと思いますが、国立感染症研究所(IDSC)のデータによれば、7月上旬から10月末までのインフルエンザの罹患数は431万人で、大半は新型と思われるとのことですので、だいたい500万人くらいの方が罹患して60人くらいの方がなくなったという粗い値が出ます。

 つまり、ワクチンは450万人で20人くらい、インフルエンザは500万人で60人くらいが死亡する恐れがあるということになります。

 もちろん、ワクチンを打たなかった場合よりも打った場合のほうがインフルエンザによる死亡率は下がることが期待されますが、ワクチンを打った場合は、ワクチンによる死亡率が上がることもまた事実です。

 悩みますね。単純に考えると、インフルエンザもワクチンもどちらも「危険」に思えます。

 こちらの小児科医さんのブログによりますと、季節性インフルエンザの死亡率が1万人に一人なのに対して新型の方は現在までのところ10万人に一人ということだそうです。

 新型インフルエンザ31「新型インフルエンザの死亡率」

 だったら、季節性インフルエンザに対してと同じようなスタンスでワクチンに向かえば良いのではないでしょうか。

 また、昨日あたりから騒ぎになっているカナダでのワクチンの副作用についても、同ブログに興味深い情報があります。
カナダでは、アジュバント入りワクチン(グラクソ製)を使っている。アジュバント入りは妊婦に対する安全性確立していないので、妊婦用としてアジュバント無し(非添加)ワクチン接種することにし、グラクソ社に対しアジュバント添加しない製品をオーダーするも入荷不可ということで、カナダ政府はオーストラリア政府に頭を下げて購入(CANADA EAST :Federal government buying unadjuvanted vaccine from Australia for pregnant women 2009.10.26)
 アジュバントという免疫刺激を増強する補助剤入りのものは日本でも輸入することになっているようですが、考え直したほうが良いのかもしれません。

 厚労省も大変ですが、国民一人一人も判断を迫られていると考えるべきだと思います。
by stochinai | 2009-11-23 21:30 | 医療・健康 | Comments(1)

ドクターヘリ

 いざとなればヘリコプターが救急救命病院まで運んでくれるということになっていれば、へき地に住んでいたとしてもかなりの安心感ではないでしょうか。

 私の部屋の窓からは、札幌市立病院がよく見える位置にあり、毎週のようにヘリコプターの発着を目撃しています。
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 これは今日ではないのですが、空模様はほぼ同じ感じです。

 札幌市立病院における救命生存率は全国でもトップクラスなのだそうで、全国平均が10.6%とい値に対して26.6%を誇っているそうです(TVais)。

 市立病院救命救急センターのホームページによれば、2007年の年間搬入患者数1134件のうち、ヘリによる搬送は74件ということですので「毎週のように」と上に書いた実感とほぼ一致します。

 札幌にはこの他、民間病院として手稲渓仁会病院がドクターヘリを持っています。ヘリコプターのカバー範囲はだいたい半径100キロ圏内ということですが、こちらの出動は18-20年度で約400回前後となっており、毎日1回以上出動していることになります。
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 市立病院との差は、カバーする症状に差があるということかもしれませんが、広い北海道ですので積極的にヘリコプターによる病人搬送をすべきだろうと思います。

 こういうところも民主党政権に頑張って欲しいですね。
by stochinai | 2009-10-23 17:55 | 医療・健康 | Comments(2)
 日本にとってとても重大なニュースだと思うのですが、なぜか海外から聞こえてきました。

Excreted Tamiflu found in rivers
ヒトが排泄したタミフルが川で検出された
If birds hosting flu virus are exposed to the waterborne pollutant, they might develop drug-resistant strains, chemists worry

もしも、その川にいるトリがインフルエンザウイルスに感染していて、このタミフルにさらされたら、タミフル耐性のインフルエンザになる可能性があると、化学者が警告
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Credit: PhotoXpress

 科学と市民のための協会(Society for Science & the Public)が出している ScienceNews のサイトに出ています。

 しかも、その原著論文は筆頭著者こそ外国人(おそらく留学生あるいはポスドク)ですが、京都大学の工学部・工学研究科の環境質予見分野の方々の研究成果のようです。

Ghosh, G.C., N. Nakada, N. Yamashita and H.Tanaka. 2009. Oseltamivir carboxylate – the active metabolite of oseltamivir phosphate (Tamiflu), detected in sewage discharge and river water in Japan.Environmental Health Perspectives, online September 28.
doi:10.1289/ehp.0900930.


 ありがたいことに、まだプレプリントの状態ではありますが、全文のPDFファイルがオープン・アクセスになっています。

The full version of this article is available for free in PDF format.

 内容は非常に単純明快です。京都の鴨川・桂川にある汚水処理施設から排出される水を中心に、水質検査を行いその中に含まれる微量のタミフルを定量的に検出したというものです。調べた地点はこの図に示されています。オレンジ色の点が処理施設で、三角が施設から出てくる水を調べた地点、丸が川の水を調べた地点です。
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 タミフルは、薬として飲むときはリン酸化された状態(リン酸オセルタミビル:OP)で、このままでは抗ウイルス活性はないのですが、体内でカルボキシル・エステラーゼの働きで活性型のオセルタミビル・カルボキシレート(OC)になり働きます。

 著者らは、このオセルタミビル・カルボキシレートの検出を行い、きわめて興味深い結果を得ています。

 2008年末から2009年初めの時期に、季節性インフルエンザがはやっていた頃の調査なのですが、この図(A)にあるようにインフルエンザの感染者数とと、川の水の中に検出された活性型タミフル(OC)の量が見事に一致しています。
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 今年の第5週目に検出された最大300ng/Lくらいの活性型タミフルの濃度はもしもカモなどの体内に取り込まれたら、トリインフルエンザに対する抗ウイルス作用が発揮される濃度だそうで、要するにトリの体内でインフルエンザウイルスがタミフル耐性になる可能性のある濃度だということです。

 しかもこの研究で水の検査が行われた時にはまだ日本では新型インフルエンザ騒動が持ち上がる前だったことに注意しなければなりません。記事によると、新型インフルエンザに対して使われているタミフルはこの時の10倍にも上るのだそうで、単純に考えてもこの何倍かの濃度のタミフルが河川水の中に含まれていることが想像されます。

 最近、日本感染症学会からの提言が出たので、さらにタミフルの使用量が増えていると思われます。本格的感染爆発が来る前に耐性ウイルスを増やすことだけは避けたいところです。

 とりあえず、調査だけでもやっておいて欲しいと思います。

【追記】
 Natureblog:The Great Beyond でも取り上げられました。

Flu pandemic might merit sewage treatment upgrade - October 01, 2009 (新型インフルエンザのおかげで汚水処理が改善されるかもしれない。)

 排水にオゾンを吹き込むことで、OCを不活化できるようです。Natureに後追いされるのは、気持ちよいものです(笑)。

【追記2】
 この研究が始められた経緯を、1年前に私が書いていました(^^;)。

スウェーデンでタミフル耐性ウイルスの環境調査が開始された(メインターゲットは日本)
by stochinai | 2009-10-01 19:58 | 医療・健康 | Comments(15)

e-patients と参加型医療

 闘病記を活用し、多くの人の闘病体験を共有する医療情報サービス「TOBYO」を開発している会社が運用しているブログがあります。

 TOBYO開発ブログ

 ネット上には、たくさんの方の闘病記録が日々蓄積され続けています。運悪く患者になった方の中には、病気やその治療法に関する情報を得るために精力的にネットを利用されている人がたくさんおられるようです。さらに進んで、ご自分の闘病体験をネットに記録なさっている方も多く、そういう方の記録は時には医療関係者から得られる情報よりも他の患者さんの力になることもあるようです。

 そうしたネット上に作られた「体験コンテンツを可視化し、共有し、活用する」ために作られた新しい医療情報サービスが「TOBYO」(闘病)ということだそうです。

 そのTOBYO開発ブログに、非常に興味深い情報が掲載されました。

参加型医学(Participatory Medicine)

 ネット先進国のアメリカでは、何年も前から患者も参加する医療を標榜する動きがあるようで、残念ながら2006年に亡くなってしまったTom Fergusonという人を中心に現在もブログサイトが活動しています。

e-patients.net

 2007年にはe-patients白書も出版されています。
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 こうした運動から発展して、患者も医療行為に参加する重要メンバーであることを訴える団体もできているのには驚きました。

Society for Paricipatory Medicine (参加型医療協会)
Participatory Medicine is a cooperative model of health care that encourages and expects active involvement by all connected parties (patients, caregivers, healthcare professionals, etc.) as integral to the full continuum of care.

参加型医療とは、病気にかかわっている関係者全員(患者、患者の世話をする人、ヘルスケアの専門家なども含めた)全員が、当事者として協調しながら医療行為にに積極的に参加していく医療モデルである。
 この協会が、この10月には Journal of Participatory Medicine という「専門誌」までも発刊する運びとなったということです。この雑誌は、オンラインでのみ提供されるオープン・ジャーナル・システムで、ブリティッシュ・コロンビア大学、サイモン・フレーザー大学、それにスタンフォード大学が非営利で運用します。もちろん、オープン・アクセス・ジャーナルで購読は無料です。経費については、投稿者から取るとも書いてありませんので、どうなるかはちょっとわかりませんが、お金のない人に負担を強いるものにはなっていないことを願わずにはいられません。

 がんなどの難しい病気にかかった患者さんの中には、インターネットを駆使したりすることで、専門が原著論文にもアクセスする人がいると聞きます。今回刊行される雑誌は、そうした患者の方をも読者として想定されて書かれることになるでしょうから、参加型医療を推進するための「場」となることも期待されます。

 ブログサイトができ、協会ができ、さらには雑誌が出るというふうに着々と進んでいる様子を見ていると、たとえ一部ではあっても「医療文化」にも確実な変化が起こり始めていることを感じます。

 患者も参加する医療。日本でも出てくるでしょうか。冒頭のブログから、現在の日本の状況を表している部分を引用しておきます。
特に日本ではネット医療情報提供サービスが質量ともにきわめて貧弱な現状がある。だが、そもそも「完全に正しい医療情報」など、誰も提供することはできないはずだ。これは医療者でさえそうである。「ネット上の医療情報」といえば、すぐに「不完全情報の危険性」や「情報規制」という短絡発想が反射的に立ち上がるような、そんな認識呪縛やバイアスやクリシェから、そろそろ自由になってもよいのではないか。
 まったく同感です。
by stochinai | 2009-09-30 20:15 | 医療・健康 | Comments(1)
 夏なのに新型インフルエンザが猛威をふるっているような報道が目立ちます。今回のインフルエンザに感染した方が3人お亡くなりになったことは事実ですが、気をつけてニュースを見聞きすると、インフルエンザが原因で亡くなったという表現をされていることはほとんどないことに気がつきます。お年寄りや、すでになんらかの疾患をお持ちの方などは、インフルエンザでなくても普通の風邪が原因で肺炎を起こし、重篤な結果になりがちなものですから、インフルエンザに限らず様々な感染症には気をつけなくてはなりません。

 お亡くなりになった方には、心からお悔やみを申し上げますが、この先「新型インフルエンザ」が原因でバタバタとヒトが倒れていくというパニック映画のような状況がくるかもしれないという根拠はまだ何もないと思われます。

 そもそも、今回のインフルエンザ騒動がなんとなく落ち着きを取り戻したのは、多くの人が夏になればインフルエンザの活動は収まると「なんとなく」考えたからではないでしょうか。厚労大臣はそれを称して「国民の慢心」というようなことを言ったそうですが、国民というものは油断しがちな存在ですから、それに警鐘を鳴らすためにあるのが厚労省というお役所なのではないでしょうか。そういう意味では慢心は大臣がお持ちだったのではないかと拝察します。

 それはさておき、夏になるとインフルエンザが収まるというのはどういう根拠からでしょうか。ネットでちょっと調べただけでも、夏にインフルエンザがはやるのは(特に近年は)珍しいことではなくなってきているようです。

 これは2005年7月22日の記事です。

 沖縄でインフルエンザ注意報発令
“常夏の楽園”沖縄で前代未聞の夏のインフルエンザが大流行し注意報が発令されている。インフルエンザといえば冬の流行が相場だが、南国でなぜ今はやるのか。観光シーズンを迎え、往来客が増える中、本土への影響はないのか。夏休み前に異例の学級閉鎖もあった琉球インフル事情とは。 (大村歩、吉原康和)

 沖縄県健康増進課によると、三月中旬に患者数約四千人とピークを迎え、例年通りそのまま終息に向かうとみられていたが、六月中旬に二つの保健所管内で一定点(一診療所あたり)の患者数が、感染症流行注意報発令の基準となる十人を超える異変が起きた。
 六月下旬から患者は増え続け、七月中旬の最新の調査では、患者数八百二十七人、一定点当たり約十四人に上っている。傾向としては沖縄本島北部から順に中部、那覇市周辺、南部に感染が拡大しているようだ。

 根路銘所長によると、タイやベトナム、中国南部など熱帯・亜熱帯地域でのA香港型の流行パターンは、暑くスコールが多く湿度の高い五月から七月。これまでの日本の流行パターンとは異なるが「沖縄での七月の流行は、東南アジア型の流行パターンに類似してきたということで、極めて注目される現象だ」と指摘する。
 というわけで、もう4年も前に沖縄で同じようなケースが報告されているのです。

 2006年7月13日(木)

 夏なのにインフルエンザが止まらない 沖縄は流行が拡大中
 夏には終焉するはずのインフルエンザ流行がいまだに続いており、特に沖縄県では5月中旬から急増しています。

  特に患者数が多いのは沖縄県(同23.1人)で、ピーク時の2月中旬(同17.5人)を大きく上回っています。沖縄は昨年の夏もインフルエンザの流行がありましたが、今年はそれ以上の流行になりそうです。
 2006年07月23日

 夏インフルエンザに気をつけろ
 中でも猛威にさらされているのが沖縄だ。実は、昨夏に続く2年連続の季節外れの流行である。
「4月上旬に冬の流行が終息した後、5月中旬から再び増え始めました。最新の6月26日~7月2日のデータでは、定点当たり患者報告数は18.6人。2週前の25.0人からは減りましたが、今冬のピークが17.5人、調査開始以来初の夏の流行だった昨夏のピークが、7月中旬の14.3人でしたから、まさに異例事態。学級閉鎖も出ています」(沖縄県健康増進課)
 2006/07/31

 夏のインフルエンザ?
そもそも、夏風邪として扱っていたものの中には、インフルエンザの4月以降の下火勢力が含まれていたと考えられます。今年だけ違ってきた理由は、インフルエンザ検査キットの改良です。

で、急な高熱、ひどい倦怠感、関節痛などの特徴的な症状のある方を、検査の俎上に乗せると、出るは出るは、主にB型。それで、学校なんかでは、周囲にインフルエンザ患者がいたと言う情報がきちんと伝わるもので、ますます確定診断を増やす。そんなところが、理由の一つ。と言うのが戸高的解釈です。
 2007年の記事はありませんが、これは2008年10月14日(火)の記事です。

 夏にインフルエンザ?
9月26日付けの日経新聞にありました。

インフルエンザ、夏に流行

沖縄では近年、インフルエンザが夏に流行、学級閉鎖が相次いでるそうです。

那覇市の年間平均気温は1980年代まで22度で推移していましたが、90年代に入って23.2度、00年代は23.5度に上昇しています。

香港並みの平均気温です。
20度台後半の東南アジア各国に近づいています
 ということで、夏にインフルエンザがはやるのは沖縄ではもはや普通のことのようで、温暖化が進んでくるとそれが日本全体に広がっても不思議はない状況になってきているのかもしれません。

 それと、もうひとつは検査技術の発達です。昔から「夏風邪」という言葉があるように、夏でも風邪やインフルエンザがはやることはしばしばあったのだと思います。それが、最近の検査技術の発達で「夏風邪」の中のあるものはインフルエンザであることが明らかになったということは大いにありそうです。しかも、今年はそのインフルエンザが例のブタフルエンザつまり「新型インフルエンザ」であることの動かぬ証拠(遺伝子検査)を比較的簡単に出せる状況にあります。そこで、夏にもはやることが珍しくないインフルエンザを調べてみたら「新型」だったということでもあるのではないでしょうか。

 もちろん、今はやっているのがインフルエンザであることがわかることは良いことです。そこで、今我々がすべきことは冬にやっていたのと同じように、インフルエンザになったら自宅にしばらく引きこもって休養し、身体の免疫システムがウイルスを追い出す余裕を与えつつ、他の人にウイルスをまき散らさないこと、複数の人間が出入りする場所へ行って、ドアノブや電車のつり革にさわったあとは手洗いを励行することなことで、まずは良いのではないかと思います。

 こんな段階で、厚労大臣が悲壮な顔で記者会見をして、インフルエンザ蔓延宣言などをすることは、文化国家のとる態度ではないように思われます。
by stochinai | 2009-08-20 19:32 | 医療・健康 | Comments(2)
 覚醒剤は風邪薬にはいっている重要な成分ですし、麻薬も末期がんなどにおける疼痛緩和に大きな効果を発するために医学的には重要な物質です。ただし、いずれも脳などの中枢神経を中心に劇的な効果を持っていますので、使い方を誤ると(あるいは意図的に神経細胞への作用を図ると)強い習慣性とともに重大な副作用があることから、多くの国で法的に強い使用制限がされています。

 ヒトも動物の一種にすぎませんので、知性以前のレベルで中枢神経を介した快楽が得られるケースに遭遇すると、なかなかそれに抵抗するのは難しいと思われ、覚醒剤や麻薬に関する知識がある医師や科学者といえども、しばしば薬物依存になってしまうという意味で恐ろしい存在です。

 時として命を落としたり、病気になったりする原因になることがわかっていたとしても、短期的に得られる快楽を得ることに抵抗できずに麻薬や覚醒剤を止められなくなるのは、命を失う恐れがあるにもかかわらず危険な登山に挑み続ける冒険家などと同じ精神構造なのかもしれません。それにもかかわらず、冒険を法律で禁止しているという例はあまり聞くことはありませんが、覚醒剤や麻薬が法律で禁止されるのは、危険の大きさに対してそれにアクセスするまでの障壁があまりにも低すぎるということが理由なのだと思われます。たとえば、中学生や高校生がエベレストに登ろうとしても、麓にたどりつくもとさえほとんど不可能でしょうが、今の日本ではほんのちょっとした「不良行動」をするだけで、誰でも簡単に麻薬や覚醒剤を手に入れられる状況になっていることが恐ろしいのだと思います。

 一方、大麻取締法によって日本では麻薬と覚醒剤と同じような扱いをされている大麻は、実はそれほどの習慣性も神経作用の強さもないようですが、その主要成分であるカンナビノイドには、いろいろと「おもしろい」薬理作用があることが次々と見出されています。

 Wikipediaにはこう書いてあります。
カンナビノイドは、大麻に含まれる化学物質の総称。

60種類を超える成分が大麻草特有のものとして分離されており、主なものに、THC(テトラヒドロカンナビノール)、 CBN(カンナビノール)、CBC(カンナビクロメン)、CBD(カンナビジオール)、CBE(カンナビエルソイン)、CBG(カンナビゲロール)、 CBDG(カンナビジバリン)などがある。特にTHC、CBN、CBDはカンナビノイドの三大主成分として知られる。なお、陶酔作用がある成分はこの中でもTHCのみとされるが、他のカンナビノイドとの含有比率によって効用には違いが生じる。
 覚醒剤で、「歯や骨がボロボロになる」という話は良く聞くところですが、どうやら若者が大麻を吸うと骨がもろくなるということがあるようです。ところが、同じ大麻を骨粗鬆症になりそうな年齢のヒトが用いると、それを防ぐ効果があるらしいという論文が発表されました。

 まずは、BBSの解説記事です。

Cannabis may prevent osteoporosis

 大麻が骨粗鬆症を防ぐかもしれない


 この記事は、次の論文を解説したものです。

Cell Mebabolism Volume 10, Issue 2, 6 August 2009, Pages 139-147
Cannabinoid Receptor Type 1 Protects against Age- Related Osteoporosis by Regulating Osteoblast and Adipocyte Differentiation in Marrow Stromal Cells

 タイプ1カンナビノイド受容体は、骨の基質細胞が造骨細胞になるか脂肪細胞になるかをコントロールすることで加齢による骨粗鬆症を防止する


 残念ながらこの論文はオープンアクセスになっておらず要旨しか読めませんので、BBCの解説をお読みください。

 論文の内容は簡単です。骨というものは子どもでも大人でもいつも壊されては作り直されている「再生系の組織」です。それで、たとえ骨折しても動かないように固定しておくだけで滑らかにつながることができるのです。その骨の再生を担っているのが、骨を溶かす「破骨細胞」と骨を作る「造骨細胞」です。大麻の成分であるカンナビノイドは、若者ではこの破骨細胞を活性化して骨を溶かす方にバランスを移動するのに対して、お年寄りでは造骨細胞を刺激して骨を作る方にバランスをシフトさせるということが(マウスで)わかったということです。

 このことから、おそらくヒトでも年をとってから大麻成分を与えると骨粗鬆症を防ぐ効果があるだろうということです。

 そのうちに、60歳を越えたヒトには年金と同時に国が大麻を配布するということになるかもしれませんね(笑)。
by stochinai | 2009-08-13 22:47 | 医療・健康 | Comments(4)
 今までに知られているエイズウイルス(HIV human immunodeficiency virus)には、HIV-1とHIV-2の2つの大きな系統が知られており、エイズの主な原因となっている前者はさらに3つの系統に分かれるものの、そのすべてがチンパンジーのウイルス(SIV simian immunodeficiency virus)が、20世紀初頭のコンゴ地域でヒトに感染したことが発端となり、その後さらに進化を続けながらヒトからヒトへの感染が広まったものと考えられています。HIV-2はマンガベーやアカゲザルのSIV由来のようです。

 サルからヒトへの最初の感染に関しては、ヒトがそれらのサルの肉を食べたことが原因だろうと推測されていますが、サルの免疫不全ウイルス(SIV)はさまざまな類人猿にいることがわかっており、ゴリラにもゴリラ特有のSIVがいることはわかっていましたが、ゴリラ由来のウイルスがヒトに感染している例は今まで一例も報告されていませんでした。

 BBCニュースによれば、この度パリに住む62歳のカメルーンの女性が、今までに知られているHIVとは明らかに系統が異なり、ゴリラのSIVに近縁なHIVに感染していることが確認されました。これが、ゴリラのSIVがヒトに感染していることが発見された最初のケースになります。また、実験的にこのSIVがヒトの細胞の中で増殖することも確認されています。つまりすでにこのウイルスはSIVからHIVへと進化していると判断されます。

Scientists find new strain of HIV

 ニュースではNature Medicineに載っていると書いてあるのですが見つかりませんので、とりあえずこのソースだけで書いておきます。

 この女性はパリに来る前にはカメルーンの田舎(準都市 semi-urban area)に住んでいて、ゴリラと接触したり、野生のゴリラの肉を食べたりというような経験はないので、このウイルスの起源はゴリラだとしても、現在はおそらくヒトからヒトへという感染能力を持つように進化しており、今回もこのルートで感染したものと考えられているようです。
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(c)photoXpress

 となると、このウイルスはすでにかなりたくさんのヒトに広がっている可能性もありそうです。あまり、はっきりとは書いてないのですが、おそらくこのウイルスでもエイズの症状を示すものと思われます。それでなければ、この患者からウイルスが見つかったということはなかなか考えにくいのです。というのは、この新しいHIVはいままでのHIV-1とはかなり異なるものなので、現在使われている抗体やHIVのDNA検査などでは検出されないため、この患者さんが今までに発見されたものとは異なるウイルスによるエイズだということが疑われて研究された結果、新しいウイルスが発見されたからです。

 ただし、このウイルスによる病気の症状はそれほど激しいものではないので、たとえそれが大規模に広がっていたとしてもパニックに陥る必要はなさそうですし、現在使われているエイズの治療薬も効果がありそうとのことです。

 しかしたとえそうだとしても、いずれウイルスが進化してエイズと同じような症状を示すようになる可能性はあるので注意は必要だというのが研究者の見解です。ヒトとヒトとの接触において直接血液や体液が混ざるというような行為を避けるという、一般的なHIVと同様の注意で感染は防げるものと思います。

 いずれにしても、野生動物の肉は危険ですので、食べる時には十分な知識が必要です。ちなみにSIVやHIVも熱で感染性を失いますので、野生のサルの肉を食べたとしても十分に調理されていれば感染は防げたのかもしれませんが、いったんヒトへ感染しヒトからヒトへの感染性を獲得した今となってはそんなことを言っても始まりません。

 インフルエンザも同じですが、ウイルス感染というのはヒト一人の問題ではなく、人類全体の問題に発展するところがコワイところです。

【追記】
 こちらに原著がありました。

Brief Communication

Nature Medicine
Published online: 2 August 2009 | doi:10.1038/nm.2016

A new human immunodeficiency virus derived from gorillas


ウイルスの系統樹(赤いところがゴリラのSIV)
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 HIV-1の新しいグループだと思われていたものが、実はゴリラ由来の新しいグループだったということでしょうか。
by stochinai | 2009-08-03 16:37 | 医療・健康 | Comments(2)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


by stochinai