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カテゴリ:医療・健康( 103 )

 グーグル・カレンダーに新しい機能を試すLabsが追加されました。SettingsからLabsに行ってみてください。これは、カレンダーに背景画像を入れたところです。
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 他に、カレンダーにドキュメントを添付する機能や、世界時計、特定の日にちにジャンプする機能や、次の予定を表示する機能(これは便利)などがあります。

 お試しあれ。
by stochinai | 2009-07-16 21:10 | 医療・健康 | Comments(0)
 モアイ像で有名なイースター島はまたの名を Rapa Nui (ラパ・ヌイ)というのだそうです。そしてその島の土の中から採集された細菌(Streptomyces hygroscopicus)が作る免疫抑制剤が、島にちなんで名付けられたラパマイシンです。(藤沢薬品の免疫抑制剤FK-506も、筑波山近郊で採れた細菌から作ったということですので、ガママイシンとかなんとかにすればよかったかも?)

Uploaded on November 12, 2005 by Natmandu

 この薬には、細胞の分裂を抑制したり、細胞死を誘導したりする働きがあり、それがリンパ球に働いてその活動を抑えることで臓器移植の際の拒絶反応を抑える免疫抑制剤として働くようです。またそれががん細胞に対して働くと、抗がん剤としても働くなど、不思議な薬です。(前に関連エントリーとして、「グレープフルーツを使って抗がん剤の使用量を減らす」を書きました。)

 アメリカにある老化防止を研究している国立研究所では、老化を防ぐ「もの」や「こと」探しを精力的にやっているようで、こちらに研究の経過が報告されています。そこでは正確を期するためとして、マウスの寿命を証明するためには別々の3ヶ所で異なる遺伝的背景を持つマウスに対して同じ実験を繰り返して、延命効果を調べることになっているようです。

 そうした厳しい実験によっても、今回、食事に混ぜられたラパマイシンをマウスに与えることで寿命を延ばす効果があると確認されたということです。

Nature 460, 392-395 (16 July 2009) | doi:10.1038/nature08221; Received 9 April 2009; Accepted 24 June 2009; Published online 8 July 2009; Corrected 16 July 2009

Rapamycin fed late in life extends lifespan in genetically heterogeneous mice
(遺伝的に雑多な老化マウスの食事にラパマイシンを混ぜて与えると寿命が延びる)

 この記事は8日にオンライン版で発表されていたものですが、今回の記事では一部内容に訂正が加わっているようです。(どこが、変わったのかは確認していません。ちょっと、怪しいエピソードですね。)

 実験自体はきわめて素朴で、すでに集団の一部が(老化で?)死に始める生後600日からラパマイシン食にして、その後すべてのネズミが死亡するまでの生存曲線を書いただけです。これが結果のすべてと言ってもいいでしょう。
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 3ヶ所で行った別々の結果をそのまま示してあります。上の段がオス、下の段がメスで、赤い点がラパマイシン投与群、青い点が対照群です。

 投与を開始する前にすでに差が生じているグループもあって、ちょっと(?)という感じもしますが、全体として明らかに差があると言える結果になっているようです。

 ラパマイシンの薬としての効果のひとつとして、リボソームタンパクのあるもののリン酸化を阻害する効果があるというものがあるので、薬が効いていることの証拠としてそのデータも出ています。
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 さて、どうでしょうか。先日のカロリー制限されたサルの寿命が延びたという実験と良く似た印象を受けますね。実際、ラパマイシンの効果とカロリー制限の効果に類似性があるという議論もあるらしいです。

 当然のことながら、カロリー制限やラパマイシン摂取でヒトの寿命が延びるかどうかが多くの人の関心事になるのだと思いますが、いずれもそう簡単な話にはならないと考えなければなりません。

 ともかくラパマイシンは臓器移植の際に使われるほど強力な免疫抑制剤ですから、病院や実験室の中のような環境ならば長生きできたとしても、普通の生活環境の中ではどういうことになるでしょうか。そう言えば、カロリー制限をすると免疫力が低下するという実験結果もどこかにあったと思います。だとすると、意外と清潔な環境では免疫力が低下していたほうが長生きをするという傾向があるという説も可能性がありそうにも思えてきます。

 しかし、そもそも「寿命」などという、たくさんの因子が関わっているものを、ひとつやふたつの因子を操作することによって操作しようという発想そのものに歪んだものを感じます。寿命などに関しては、そうした発想から抜け出してヒトが生きるということや、寿命の持つ生物学的意義を考えるなどをすることのほうがよほど人間的に意味があるようにも思えます。

 というわけで、注目を集めると思いますのでコメントはしましたが、寿命を延ばす方法を考える研究というのは、実のところあまり好きではないのでした。すみません。
by stochinai | 2009-07-16 20:42 | 医療・健康 | Comments(14)
 これまで、酵母、線虫、ショウジョウバエ、マウスなどいろいろな生物を使った実験で、栄養失調にならないようにしながらカロリー制限をすると寿命が延びるということが示されてきました。

 しかし、それがヒトを含む霊長類にも適用できるかどうかを実験で示したものはなかったようです。今日のScience誌に載った論文で、サル(ニホンザルに近い仲間)を使ってカロリー制限をした実験結果が公表されています。このサルの寿命は27年くらいだそうですので、実験も20年以上をかけた長期戦でした。

 結論はタイトルどおりです。

Science 10 July 2009:
Vol. 325. no. 5937, pp. 201 - 204
DOI: 10.1126/science.1173635
Caloric Restriction Delays Disease Onset and Mortality in Rhesus Monkeys
Ricki J. Colman et al.

カロリー制限はアカゲザルの老化関連疾患の発症を遅らせ寿命を延ばす

 同じ27歳の2匹のサルを比較したこの写真が、ある意味ですべてを物語っています。左が食い放題を許したサルで、右が30%くらいのカロリー制限をしたものです。(実験開始は7歳から14歳)
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 左のサルは、どうやら歯も抜けているようで、顔もしぼんでいます。Bを見ると、身体の毛もかなり抜けていることがわかります。おしりの辺りが赤くなっているのは、「お猿のお尻はなぜ赤い」の赤さではなく、皮膚病だと思われます。足の関節も曲がりにくくなっているのがわかります。

 対して、右側のサルは精悍な顔をしており、毛もふさふさで、尻尾も立っており、膝も柔軟に曲がっています。これが平均寿命に達したサル(日本人でいうと80歳くらい?)には、なかなか見えません。

 老化に関連した病気に関しては、がん、心臓病、糖尿病などが調べられています。このグラフは横軸がサルの年齢で、縦軸に病気を持っていないサルの比率がパーセントで示されています。
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 青い線が食べ放題グループで30歳くらいになるとほとんどが老化に関連した病気持ちですが、赤い線で示されたカロリー制限グループでは、平均寿命に達したサルでも病気のないものの方が優勢です。

 というわけで、腹7分目の生活をしていると病気にもなりにくく、長生きできるという結果がヒトに近いサルでも示されたということの意義は大きいと考えられています。

 ただし、この結果からただちに我々の食生活のカロリーを30%減すれば(がんを含む)生活習慣病から逃れられ、長生きできると考えるのは短絡だと思います。我々の大多数は、普及した医学常識から食べ放題というほど食べてはおらず、多くのヒトはすでにある程度のカロリー制限をしていると考えられますので、カロリー制限によって効果を得られるのはごく一部のヒトだけのような気がします。

 それにしても、上の写真を見ると食べ物だけでこれだけ老化現象に差が出るというのは、ちょっとショックではありますね。
by stochinai | 2009-07-10 18:21 | 医療・健康 | Comments(9)
 昨日、内閣府の食品安全委員会がクローン食品を「安全」と認める評価書を正式に決定し、厚生労働省に答申しました。諮問した厚生労働省はその答申を受けて、当然流通を解禁するものだと思っていました。

 ところが、先ほどのニュースによれば、農水省としては当面は一般への流通に関しては自粛要請を継続する、つまり流通の解禁はしないという方針を決めて発表したとのことです。

 47ニュースから引用します。
 流通解禁を見送った理由について農水省は、一層の科学的知見の収集と消費者への情報提供が必要と説明しており、消費者からの不安の声に応えた形だ。現在の技術では生産率が極めて低く、商業生産への利用が見込まれないことなども挙げた。
 クローン家畜を作る技術はまだまだ研究段階ですから、その生産価格を考えたら当然採算がとれるようなものではありません。それは安全性とは関係なく、最初からわかっていたことです。

 一方、朝日のニュースなどでは、もっぱらコスト高が強調されています。
農林水産省は26日、「クローン牛は『安全』と思うが、生産率が極めて低く、コストが高くなるため、食用として市場に回すことは見込めない」として、当分の間は引き続きクローン牛生産を研究に限定することを明らかにした。
 どうも意味がよくわかりません。

 そもそも、食費安全委員会への諮問はなんのためにやったのでしょうか。クローン家畜を我々が食べても安全かどうかを検討するためです。その結果、「安全」と判定されたのですから、当然市場への流通を許可するということでなければ安全委員会への諮問の意味がなくなります。忙しい委員を長い時間拘束して検討した結果が使われないということならば、今後は委員の引き受け手もいなくなるでしょう。

 それとも農水省はクローンウシやクローンブタには特別の価値があり、ブランドもののクローンならば普通に繁殖されたウシやブタより高く売れるとでも思っていたのかもしれません。価格というものは市場が決めるものですから売れ行きが悪ければ値段は下がります。たとえクローンウシが安全だと発表されても、同等の肉と同じあるいは高い値段だったら買う人は少ないでしょう。つまり、クローン家畜は遺伝子組み換え作物と同じように値段が安くなければ売れないのです。そういう意味では、クローン家畜は遺伝子組み換え作物とは根本的に違った存在で、最初から一般の食品として流通させることは無理だということはわかっていたはずです。

 市場価格としてたとえば、同等の肉よりも3割から5割安ければ間違いなく売れると思います。半額なら私も買うかもしれません。しかし、クローン家畜の生産には、普通の家畜に比べると何倍もの資金が投入されているでしょうから、そんなものは誰も作ろうとは思わないでしょう。

 ここまで書いてきてわかりましたが、農水省はクローンウシを食用にしようという計画を持っていろいろな予算を獲得してきたのかもしれません。そうだとすると、その目論見(といえるほどのものではありません)が破綻したことを受けて、肉畜のクローン生産をやめるということにしたということが今回の流通自粛継続ということなのかもしれません。

 そうだとすれば、どうせこの先作る予定もないクローン家畜を市場に流して大きな議論を巻き起こし、しかも肉は売っても売っても赤字が増えるだけということになる地獄から逃げたというのが本音なのかもしれません。そう考えると、農水省の意味不明の行動の意味が非常にすっきりと理解できます。

 それが本当だとしたら、あまりにも情けない行政と言わざるを得ません。
by stochinai | 2009-06-26 20:05 | 医療・健康 | Comments(12)
 法律があり、生前からその意志をドナーカードに残していた人が脳死になったならば、家族の同意のもとで臓器が提供できるという状況がありながらも、これまで年間10件程度とその例数がきわめて少なかった臓器移植医療です。15歳以下の臓器提供もできなかったこともあり臓器提供を増やすために検討が続けられてきた臓器移植法改正ですが、昨日衆議院本会議で採決が行われ、最初に採決されたA案が賛成263、反対167という大差で可決されてしまいました。私としては、あまりに大差で簡単に可決されてしまったという印象です。

 何も根拠がないのですが、今まで臓器提供が少なかったという事実が、国民の多くが臓器移植に積極的には賛成していないことを示しているような気がしますので、衆議院の意見分布は必ずしも国民の意見分布を反映していないかもしれず、この件に関しては参考として国民投票でもやることの意義はあると思います。この期に及んで新聞などのマスコミでは「議論を深めろ」などと言っておりますが、議論は採決の前に深めるものではないかと思います(苦笑)。

 おさらいのために、朝日ドットコムに載っていたA案の要点を引用します。
(1)「脳死は人の死」という前提に立つ。ただし、本人・家族は脳死判定や臓器提供を拒める
(2)提供者に年齢制限なし。本人意思が不明の場合、家族が提供を決められる
(3)親族に優先して提供できる
(4)政府や自治体は移植医療の啓発、知識普及に必要な施策をとる
(5)虐待を受けた子が、親の判断で臓器提供をさせられないようにする

〈脳死〉 脳幹を含むすべての脳の機能が完全に止まり、回復することがない状態。自発呼吸をつかさどる脳幹の機能が失われているので、人工呼吸器を使わないと呼吸できず、心停止に至る。
 医療とは生きる可能性を期待して行われる行為ですから、「脳死は人の死」ということになると、「死体」に対する「医療行為」などあり得ないということになります。当然、保険医療などはありえなくなるでしょう。脳死判定を拒否する家族が増えるかもしれません。

 医学や生物学の進展を考えると、私個人としては臓器移植というのは過渡期の医療のように思えてなりません。脳死というのは、死へ向かうことを絶対に止められない状態ということですが、それはあくまでも「現代の医療技術では」という前提のもとにおいてです。

 人工呼吸器などをつけている限り、かなりの長期にわたって破壊された脳の部位以外のところを「健康に」維持することが可能ですから、もしもiPS細胞などを使って脳幹の再生治療ができるようになったとしたら、皮膚からiPS細胞を作り、それを使って治療するための時間は確保できるものと思われます。特に新生児・乳幼児の場合にはその可能性がかなり高いような気がします。前提として、もちろん実際にそのような治療技術を開発するための研究が必要になりますし、高額な医療になるような気もしますが、研究テーマとしては十分に成立するものです。

 生物学・医学の今の発展を見ていると、この話はSFと言い切れるものでなく、私には近未来に起こりうるような気がします。そうなった場合には、臓器提供のドナーとなることを選ぶ人はいなくなるでしょう。

 もちろん、私も現在のように善意のドナーと希望者がマッチした場合に行われる臓器移植に反対するものではありません。死んでしまった自分の身体から取り出した臓器が、誰か他の人の命を救うことを希望する人がいることも理解できます。しかし、日本人の感性としては誰かが亡くなった時には、生きていた時のその人意志を尊重しようという心情を示す人が多いことは多く経験することです。生きていたときに好きだったものを霊前に供えたり、生前希望していたことをやらせてあげたかったと話されることは普通です。そういう感性を持つ我々は死体を扱うときにも、その人が生前に希望していたようにしてあげたいと思うのではないでしょうか。それが、改正前の法律にあった書面における意志の表明なのだと思います。改正法でそれがなくなったとしても、遺族や周辺の方々は「故人」の意志を探そうとするに違いありません。

 そう考えると、今回の法改正によってドナーの数が劇的に増えるということは期待できないだろうというのが私の予測です。

 また、脳死状態は自殺を除くと、交通事故などの不慮の事故によってもたらされることが多いものです。世の中から追い詰められた人が減り、平和で安全な社会が実現されることは多くの人の望みであり、そうなってくれば脳死に至る人も減ってくることが期待されます。

 そうしたもろもろのことを考えると、私には法律を変えることによって脳死からの臓器移植を増やすということの意味がわかりません。

 現状の臓器移植法でできることは続けていって良いと思いますが、今はその状態で臓器の提供者を増やす努力(賛同者の増加)を続けることで良いのではないかと感じています。それと、福祉を充実して、安全で安心な社会を作ること、自らの細胞と自然治癒力で治すことを目指す医療をもっともっと発展させるために医学・生物学の研究に力を入れることこそが、日本という国の取るべき選択だというのが私の意見です。

 まあ、前回のように参議院で修正されて可決される可能性もありますし、衆院解散で廃案という可能性もあるし、さらにはこのまま成立しても劇的に状況は変わるというものでもなさそうなので、あわてて大騒ぎすることはないとは思いますが。
by stochinai | 2009-06-19 17:17 | 医療・健康 | Comments(16)
 アメリカの消化器系学の医師・研究者があつまる研究集会である、消化器系疾患ウィーク(Digestive Disease Week: DDW2009)がシカゴで開かれています。
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 そこで行われた招待講演の中でマサチューセッツ総合病院のAndrew T.Chan博士が衝撃的な発表をしたようです。

 大腸癌診断後にアスピリンを定期服用すると死亡率が半減する可能性

 博士らは以前に、アスピリンを常用していると、大腸がんのうちCOX-2という遺伝子が強く発現しているものについては、予防的効果が認められるという論文を発表しています。

 Aspirin and the Risk of Colorectal Cancer in Relation to the Expression of COX-2: The New England Journal of Medicine Volume 356 May 24, 2007 Number 21,

 ありがたいことに、この論文の日本語抄訳がこちらにあります。
COX-2 を過剰発現する癌の年齢調整罹患率は,アスピリン常用者で 10 万人年当り 37 であったのに対し,アスピリンを常用していない被験者では 56 であった.
 「常用」というアスピリンの量は、毎日2錠くらいだそうですが、この量の服用を続けると副作用の起こる人も出るようなので、あまりおすすめはできない感じです。
 アスピリンは、炎症や腫瘍(しゅよう)の成長を助ける酵素の働きを止める作用があるが、大量に服用(1日2錠以上)すると消化管出血などを起こす。試算では、大量服用で1~2人の大腸がんが予防できた場合、8人に深刻な消化管出血が起きる可能性があるという。(2005年9月5日 読売新聞
 しかし、今回の発表はすでにがんと診断された患者さんについてのデータですので、気になります。
大腸癌と診断された後でアスピリンを定期的に服用すると、服用していない場合に比べ、大腸癌による死亡率が29%も有意に低下した(95%CI:0.53-0.95、p=0.02)。全死亡率についても有意に改善した(p=0.03)。
 不思議なのは、がんと診断される前にアスピリンを使っていなかったヒトはさらに死亡率が下がっていることです。
 特に、大腸癌と診断される前にアスピリンを服用していなかった患者719人については、診断後にアスピリンを服用しなかった536人に比べ、診断後にアスピリンを服用し始めた183人では大腸癌による死亡率が47%低下(95%CI:0.33-0.86)と、ほぼ半減した。
 この後には、ちょっと矛盾したことが書いてあるので引用しませんが、やはりCOX-2が発現するがんに対する効果が大きいようです。

 今回の結果は、副作用を心配しながら今までのように見えないがんに対する予防という観点からではなく、アスピリンにがんに対する治療効果があるというデータを示しているという点で反響が大きいかもしれません。

 まだ、データの数が少ない予備的発表とはいうものの、アスピリンは値段も安いので、もしも期待できるならばうれしいニュースだと思います。
by stochinai | 2009-06-03 21:03 | 医療・健康 | Comments(0)
ScienceDaily (May 25, 2009)
Virus Tamed To Destroy Cancer Cells But Leave Healthy Cells Unharmed


 ウイルスによるがん治療の試みというのは、私が想像していたよりもはるかに進んでいたようです。上のサイエンスデイリーのニュースで解説されている原著論文はPLoS PATHOGENSで全文を読むことができます。

Cawood R, Chen HH, Carroll F, Bazan-Peregrino M, van Rooijen N, et al. (2009) Use of Tissue-Specific MicroRNA to Control Pathology of Wild-Type Adenovirus without Attenuation of Its Ability to Kill Cancer Cells. PLoS Pathog 5(5): e1000440. doi:10.1371/journal.ppat.1000440

 風邪のウイルスとして良く知られているアデノウイルスのあるものにはがん細胞を殺す性質があって、そのこと自体はかなり前から知られていました。ただ、アデノウイルス自体は我々ののどの正常な上皮細胞に好んで感染するのもので、プール熱などの「夏風邪」の原因になるようなものですので、もともとはがん細胞だけを殺す性質などは持っておらず、がん細胞に感染しにくかったり、がん細胞以外の細胞にも悪さをしたりということで、なかなかうまくがんの治療に使うことはできなかったようです。

 しかし、最近はそのアデノウイルスに遺伝子操作を施すことによって、がん細胞だけに感染するようにしたり、分裂のさかんながん細胞だけを殺して他の細胞は殺さないようにする変異を導入することができるようになっていたのだそうですが、がん細胞を殺す力が非常に強く治療用に有望視されていたアデノウイルスの変異体は、実験動物であるネズミの肝臓に重篤で致死的な副作用を与えてしまうので、生体に投与してがん治療をするという目的には使えないとされていました。

 それが、今回はコロンブスの卵のような遺伝子を導入して、ネズミの肝臓に悪さをしないウイルスを作ることに成功したという論文です。もちろん、がん細胞を殺す性質も持っていますので、ウイルスによるがん治療が一歩前進したということだと著者らは言っています。

 そのコロンブスの卵の主役は、最近有名になりつつあるマイクロRNAです。マイクロRNAというのは、非常に短いRNA断片で、組織毎に異なるマイクロRNAが存在することがわかってきました。どうやらそのマイクロRNAが動物の組織を作る時や、特定の組織の状態を維持するために働いているらしく、たとえば肝臓ならば肝臓特異的(肝臓だけにある)マイクロRNAというものがあります。マイクロRNAの働きは、まだすべてがわかっているわけではないのですが、マイクロRNAと結合する(相補的な配列を持った)メッセンジャーRNAに結合して、その働きを抑制するということが主な働き方だと考えられています。

 つまり、肝臓で働くべきではないメッセンジャーRNAの多くは肝臓にあるマイクロRNAに結合する部分を持っているので肝臓では働かないということです。そこで、研究者達は肝臓で働いてほしくないアデノウイルスが作るがん細胞を殺す働きをするウイルスのタンパク質(E1A)のメッセンジャーRNAの一部にネズミの肝臓にあるマイクロRNAと結合する遺伝子部位を導入したというわけです。

 これによって、ウイルスのE1Aタンパク質はネズミの肝臓で作られなくなり、ネズミはウイルスの副作用では死ななくなりながら、がん細胞はウイルスによって殺されるというがん治療法の確立が期待されるというのが今回の論文の要旨です。

 今回の論文では、従来ならば死んでしまう量のウイルスの10倍量を投与してもネズミの肝臓は障害を受けず死ぬこともなかったということまでしか報告していませんので、肝臓障害だけを克服しても体内のがんが簡単に消滅することができるというわけではないのかもしれません。あるいは、その結果は別の論文にして出そうということなのかもしれません。

 しかし、そこらへんのどこにでもいて、ある意味でヒトと共生している風邪のウイルスでがんを退治するというのは、物理的除去や化学薬品で対応するのとは、ひと味違う新しいがんの治療法の展開が期待されそうな気はします。

 進展を見守りたいものです。
by stochinai | 2009-05-25 23:01 | 医療・健康 | Comments(0)
 21番染色体が3本になることによって引き起こされるダウン症では、白血病などの血液性のものを除くと多くの固形がんの発症が有意に低くなることが大規模な疫学的調査から証明されています。他に糖尿病性網膜症やアテローム性動脈硬化などの血管関係の病気が少ないことも知られています。

 21番染色体上には231個の遺伝子があることが明らかにされており、その中に原因遺伝子があると考えられます。例の本でも言及してありますが、マウスでヒトの21番染色体に相当する16番染色体を3本持ったマウスを使って実験したところ、不思議なことにEts2というがんを作らせる原因として知られているがん遺伝子(発がん遺伝子、がん原遺伝子)が、過剰に働くことによってがんが起こりにくくなるという、一見不思議な論文が去年の一月に出ています。

Nature 451, 73-75 (3 January 2008)
doi:10.1038/nature06446
Trisomy represses ApcMin-mediated tumours in mouse models of Down's syndrome


 おとといNatureのオンライン早版に掲載されたのは、それよりは明らかに明快で、がんの成長に必要な血管成長を阻害する遺伝子が、ダウン症に人でがんが少ないことの原因になっているという論文でした。

Nature advance online publication 20 May 2009
doi:10.1038/nature08062
Down's syndrome suppression of tumour growth and the role of the calcineurin inhibitor DSCR1


 この論文では、21番染色体上にある遺伝子から作られるDSCR1(またはRCAN1)というタンパク質が、血管細胞を増殖させる因子(VEGF)によって活性化されるカルシニューリンというタンパク質がかかわる反応経路を阻害して、血管の成長を妨げることを示しています。ダウン症ではDSCR1タンパク質が増えていることも示されています。

 染色体を3本にしなくても、Dscr1遺伝子を1つ導入されたマウスでもがんの成長が阻害されることが示されているのは、かなり強力な証拠だと思います。

 また、同じ21番染色体のDscr1遺伝子の近くにDyrk1aという遺伝子があるのですが、それがDscr1遺伝子と同時に働くと、血管の成長が大きく阻害されることも示されていますので、DSCR1とDYRK1Aタンパク質を同時に使うことで制がん効果が期待できるのではないかということで結ばれています。

 この論文の主な部分はマウスを使った実験なのですが、ちょっとうならせられたのはダウン症のヒトから細胞をもらってiPS細胞を作って行われた実験をやっているところです。正常なボランティアのヒトとダウン症のヒトからそれぞれiPS細胞を作り、それを免疫不全のマウス(Rag2-/- Il2rg-/-)の筋肉の中に注射すると、奇形種という良性の腫瘍ができます。できた腫瘍の中に、どのくらい血管が発達しているかを調べたところ、ダウン症のヒトから作ったiPS細胞でできた腫瘍の中には、正常なヒトから作ったiPS細胞でできた腫瘍に比べて血管の発達が悪かったというデータが示されています。
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 写真を見る限りは「劇的」と言えるほどの差はありませんが、評判になっている技術や細胞をタイムリーに使っていくというこの「姿勢」はさすが日夜競争にさらされているアメリカの研究者の論文だと思わされました。

 こうしたやり方には賛否両論あるかもしれませんが、研究の成果をいろいろな人に読んでもらい、次の研究費につなげていこうとするならば、見習うべき姿勢だと思います。

 山中先生が、iPSの研究は1勝10敗だとかおっしゃってましたが、こんなちょっとしたところにもその差の原因があるように感じられました。
by stochinai | 2009-05-22 20:40 | 医療・健康 | Comments(1)
 先日、WHOの進藤さんの言葉を転載しただけのエントリーにたくさんの方々の共感をいただいたので、調子に乗って続編を書きます。

 亡くなった方の数え方としては、累計していくしか仕方がないとは思いますが、PCRによって感染が確認された人の数が累計しか出てこないというのはいかがなものでしょうか。感染症情報センターの発表に頼っているのかもしれませんが、たとえば最初に成田で隔離された4名の方などはすでにウイルスが陰性になって完治したということが確認されているのですから、マスコミなどではそういう方を累計から差し引いた数を発表する努力をお願いしたいところです。

 症状が軽いということで、ウイルス陰性になる前に自宅に帰される方も出てきているようですが、そういう方は発症から4-5日もすればウイルスは消失すると考えられますので、ある程度推定になったとしても、ウイルス陽性患者とウイルスが陰性になった患者の数を提供するということをやっていただければ、さすがはマスコミだと評価されるに違いありません。

 あまり適切なソースを見つけることができなかったので、外務省の海外安全ホームページに発表されたものから記録しておきたいと思います。

13日まで 3人
14日まで 4人
15日まで 4人
16日まで 4人(厚労省 5人)

18日まで 7人(厚労省 96人)
19日まで 125人(厚労省 159人) 
20日まで 159人(厚労省 182人)

 この数値の変化をみれば、感染拡大と関連した確認数の増大ではなく、19日の発表までに行われた精力的な検査の結果得られた数値であることは明らかです。

 朝日新聞によれば、20日午後2時15分現在で滋賀県で確認された学生を含め、国内感染者の累計は238人(成田空港の検疫で判明した4人を含む)とどんどん増えていることになっていますが、さきほど9時のNHKニュースで「東京でも初めての感染確認例が出た」と言っていました。

 この状況では、やはりただ数を足し合わせて行くやり方は、ミスリーディングだと思います。

 FNNニュースでは262人と言っていますが、「(神戸では)現在も入院しているのは43人中1人だけ」ということですから、この場合には入院患者数1人とカウントして発表するという方法もあり得ると思います。

 どのくらい本気で調べるかによると思うのですが、このままだと昨日のエントリーが現実化して、東京で何100人もの確認例が出てくるとおどろおどろしい数字だけが一人歩きしそうです。

 繰り返しますと、確認例の累計だけではなく、完治した人、軽症で自宅療養の人、重症で入院した人などを分けて発表してもらえれば、ただひたすらに「落ち着いてください」というよりは、はるかに人心を落ち着かせてくれると思います。
by stochinai | 2009-05-20 21:36 | 医療・健康 | Comments(1)
 時々テレビなどにも登場している、メチャメチャかっこいいWHOのメディカルオフィサーの進藤奈邦子さんの言葉に強く共感しました。

 <新型インフル>WHO医務官、関東への拡大「注意が必要」
「軽症の人たちを通じ各地に広がっている可能性がある。特に、関西と関東は人の往来が激しいから、関東でも注意が必要だ」と述べた。
 誰が考えても、これだけ関西で広がっているのですから、東京に感染者がいないはずはありません。

 マスコミなどには進藤さんの次の言葉をかみしめていただきたいと思います。
 確認数の急増については「1人目の確認を機に一挙に診断が行われた結果だろう。すごいピッチで検査が進んでいる」と語り、日本の検査能力の高さを反映したものだと説明した。
 東京でも同じような検査を始めたら、一気に1000人のオーダーで「感染者が増加」しても不思議はないと思います。

 もはや、この状況下では、ニュースの度に感染者数を数えることに、それほど意味があるとは思えません。

 保育所、幼稚園、小学校などを休みにすると、親も仕事を休まざるを得なくなり、社会のインフラの弱さも次々に露呈してきます。このまま進むと、インフルエンザではないことが原因の「二次・三次被害者」が出てきそうな気がします。

 現状だと発症した人は自宅待機するという、普通のインフルエンザへの対応でいいような気がするのですが、どうでしょうか。
by stochinai | 2009-05-18 19:12 | 医療・健康 | Comments(4)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


by stochinai