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カテゴリ:生物学( 361 )

 500年ほど前に絶滅したマダガスカルに住む身長が3メートルほどもある地球上で最大の飛べないトリ「エレファントバード」はその生態すらまったく知られずにいる謎のトリでしたが、このたび残された頭蓋骨を調べることでこのトリが夜行性で視力はほとんどなく(というか盲目に近く)、逆に鋭い嗅覚で餌を探していたことがわかったという論文が出ました。

 解説記事がこちらにあるのでご覧ください。想像生態図もあります。

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 論文はオープンアクセスなのでアクセスしてご覧になるといいと思いますが、こちらにあります。

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 話は簡単で500年位前までマダガスカルで生きていたトリで、骨格などはたくさん残されているのでそれを現存のトリと比較すると、その視覚や嗅覚の能力がだいたい想像できるということです。

 こちらがいろいろな種類の脳の構造です。

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 上の4つが2種類のエレファントバードの脳の図で、その下が近縁と考えられているニュージーランドに住むキイウィと南米に住むレアの、下の4つが近縁で飛べる2種のシギダチョウ(ティナモウ)というトリの脳です。赤い点々で囲まれたところが視覚に関係した領域で広ければ広いほど視力が優れていると考えられています。キイウィは夜行性でほとんど目が見えないということですがエレファントバードの脳の視覚に関係した領域はキイウィと同じくらい狭いので、このことからエレファントバードもキイウィと同じように夜行性で目が見えなかったと考えられるそうです。もちろん昼行性のシギダチョウの視覚に関係した領域はとても広いことがわかります。

 この脳の解析から次のような進化の道筋が考えられているというのがこの論文の要旨です。

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 系統図が2本ずつになっていますが、上側が視覚能力に、下側が嗅覚能力に関係した脳の領域の大きさで、視覚に関しては色が濃いほど小さくて視力が弱く夜行性、嗅覚に関しては色が濃いほど大きくて能力が高いということを示しています。エレファントバードは視覚が弱く嗅覚が強いので夜行性なのだろうと想像されるということです。これは現存のキイウィと同じ性質です。

 この巨大なトリは500年位前まで人間と一緒に生活していたはずなのですが、ほとんど伝説も残っていないのはおそらく彼らが夜行性だったということも関係しているのかもしれません。

 人間のせいで滅びたことがじゅうぶんに想像されるエレファントバードですが、その生態についてほとんど情報が残っていなかった謎のトリでした。最新の解析技術で頭蓋骨を調べることでその生態までも推測できるというのはとてもおもしろいと思いご紹介してみました。

 それにしてもドードーなどを代表とする巨大なトリは次々と人間に滅ぼされてしまって残念なことこの上もありませんね。








by STOCHINAI | 2018-11-02 00:08 | 生物学 | Comments(0)
 空を滑空するという性質はそっくりでなのですが、南半球に住む有袋類のフクロモモンガは収斂進化によって生じたまったく類縁のないグループです。一方、北半球に住むムササビ・モモンガの類は共通祖先を持つリスに近縁の哺乳類で(ネズミ目(齧歯目)リス科リス亜科)、大型のモモンガが15属、約45種、小型のムササビ属は8種類が原生種として知られています(Wikipedia)。

 バルセロナの近郊で発掘された1160万年前の化石は尾と大腿骨が大きかったために最初は空飛ぶ霊長類ではないかと研究者たちは期待したそうですが、残念ながら(?)その後の調査でこれはげっ歯類の骨であり、手首の骨の特徴から絶滅したモモンガのものだとわかったということで論文が発表されました。オープンアクセスのeLIFEでの発表なのでどなたでも読むことができます。

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 基本的には骨格を解析した解剖学による分類学論文なので、細かく議論されている骨のことはよくわからなかったのですが、この写真を見るだけで論文で主張されていることはほぼ尽きると言ってもいいのかもしれません。

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 上の3Dの骨格再現図のうち白い部分が発掘された化石で、青い部分は現存のムササビの骨格から類推された「想像図」です。それをもとに下の整体再現図が描かれました。着地(着木?)寸前の姿です。

 骨格の解析から新しいムササビとして Miopetaurista neogrivensis と名付けられました。

 論文の中では手足の骨と頭蓋骨の詳しい検討がされていますが、要するに現存のムササビとよく似ているということで、現存のムササビは生きた化石と言っても過言ではないほど当時とほとんど姿が変わっていないのだそうです。この再現図がムービーとなってYouTubeにありますので、こちらも引用して貼っておきます。



 もうこのムービーを見るだけで論文の内容は素人にもだいたいわかってしまいます。良い時代になったと思います。

 というわけで、このムササビが現在のムササビ・モモンガなどの系統図の中に位置づけられることになりました。こちらが論文の中にあった系統図です。

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 右端の色分けで、大きな青がリス科で、その次の緑がリス亜科、そしてその左のオレンジ色がムササビ・モモンガの「飛行リス類」です。そのうち上の半分がムササビ類で、下半分がモモンガ類ということになり今回の化石種はムササビ類の根本のところに出現して絶滅したということがわかります。

 それでこの系統図の下に書き込まれた年代図と比べると、ムササビ・モモンガ類は普通のリスと2千5百万年から3千百万年前頃あるいはもっと古くに分岐したことが示されており、今まで考えられていた2千3百万年前よりは古いというこことがわかってきたといいます。ところが現在までに発見されている最古のムササビ・モモンガ類の化石は3千6百万年前のものだと言われているのですが、その化石に関しては歯だけが発掘されているものなのだそうで、手や足の化石が出てこないと結論が出せないようです。

 というわけで、手や足の骨格も含めた間違いのないムササビの祖先としては現在のところ、今回の Miopetaurista neogrivensis が最古のものとして最有力といっていいようです。

 それにしても、論文を専門的には深く読み解けなくても、図や動画でだいたいわかるようになってきたのは専門家も素人に対してうまく説明することが必要になってきた時代なのでしょうね。

 ありがたいことです。








by STOCHINAI | 2018-10-10 23:25 | 生物学 | Comments(0)
 ツイン台風がツイン温帯低気圧に変わって北海道にやってきました。風はほとんどなく雨だけが降り続いていたのですが、今朝には雨もほとんどあがっていました。 11時過ぎにはちょっとだけ日も差し、一瞬の太陽に感動して庭の写真も撮りました。

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 このまま晴れるのかと思いましたが、残念ながら一日中どんよりとしていたばかりではなく、午後からは強い風も吹き出してきました。

 午後からは気温も20℃くらいしかない上に強い風が吹いていて、体感気温ははっきり言って「寒い」と言う感じだったので、室内で勉強をしていました。

 テーマは昨日配信されたNatureに載っていたカメの進化の話題です。

 カメの進化は最近、急速にいろいろと明らかになってきています。こちらに去年くらいまでのよくまとまったストーリーが載っています。カメといえば甲羅が大きな特徴ですが、もちろん脊椎動物で甲羅を持っているものはほとんどいないのでカメ類が進化の過程で甲羅を獲得したことは間違いありません。

 カメの祖先でまだ甲羅を持っていない頃のもの(Eunotosaurus)はこんな姿かたちをしていたと考えられています。

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https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Eunotosaurus_africanus_life_restoration.jpg#/media/File:Eunotosaurus_africanus_life_restoration.jpg

 現在でも見られる平べったいトカゲのような姿かたちですね。

 それがさらにカメに近づく進化を遂げたものがこちら(Pappochelys)だそうです。これはまだ甲羅とはいえないものの、お腹にちょっとだけ甲羅のできかけのようなものがあるそうです。

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https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/a/af/Bild2_Ur-Schildkr%C3%B6te_Zeichnung.jpg/1024px-Bild2_Ur-Schildkr%C3%B6te_Zeichnung.jpg

 この想像図から受ける印象としては、よりトカゲに近く戻った感じもしますが、それがいきなりほぼ今のカメに近いかたちになった先祖の化石は古くから知られており、それがこちら(Proganochelys)です。

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By Ghedoghedo - Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=49647107

 これは我々素人がみても間違いなく「カメ」であると言える立派な甲羅をもっています。進化的に見てもこれはカメの仲間に分類されるそうです。

 しかし、このカメと上の「先祖」だというトカゲのような生き物の間はどうなっているか気になります。2008年になんとお腹にだけははっきりとした甲羅をもったカメの先祖の化石が発見され、「トカゲとカメ」の進化の隙間が少し埋まりました。

 それがこちら(Odontochelys)です。

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By Nobu Tamura (http://spinops.blogspot.com) - Own work, CC BY 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=19462661

 このカメが出現したあとに背中にも甲羅を持ったものへと進化しただろうことを想像するのは困難ではありませんが、このお腹だけ甲羅を持ったカメは、もう一つのカメの特徴である歯のない「クチバシ」はもっていないのでした。

 そして昨日Natureで配信された最新の論文では、このお腹にだけ甲羅をもったカメの先祖と、甲羅のまったくないカメの先祖の間を埋めるような、甲羅はもっていないものの口の構造(歯のない「くちばし」)をもったカメの先祖の化石が中国で発見されたということが報じられていました。

 それがこちら(Eorhynchochelys)です。

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https://www.inverse.com/article/48353-turtle-fossil-shell-missing-piece

 「くちばし」の構造はこんなふうだったようです。

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Picture Credit: Institute of Vertebrate Palaeontology and Palaeoanthropology

 NatureのNewsも載っていた、このカメの生態想像図がこちらです。

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Picture Credit: Yu Chen (Institute of Vertebrate Palaeontology and Palaeoanthropology)

 というわけで、カメの進化が一直線で示されたわけではありませんが、今までのカメを系統図で並べるとこういうふうになるのだそうで、これならなんとなく、カメの進化がわかったような気になります。

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 昨日、配信されたNature論文はこちらです。有料ページですので購読していないと要約しか見られないのですが、あちらこちらに科学ニュースとして記事が配信されていますので、中身はだいたいわかると思います。

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 化石はほんとうにどんどん出てきておもしろくなってきますね。








by STOCHINAI | 2018-08-25 22:43 | 生物学 | Comments(0)
 本日、一般誌にいっせいに取り上げられていた記事の一つが「恐竜の仲間から進化した現在のトリはいつどうして歯を失ったか」というものです。始祖鳥のような初期のトリはすべて恐竜と同じように歯の生えたくちばしをもっていたのですが、現在のトリにはほぼ例外なく歯がありません。恐竜の仲間から進化してきたというのなら、トリはいつどのように歯を失ったのかが長年の謎となってきたなのだそうです。

 なぜ、そんなに大騒ぎになっているのでしょうか。例えばこちらがBBCの記事です。

 How birds got their beaks - new fossil evidence (トリはどうやってくちばしを進化させたか -- 新しい化石からわかったこと)

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 他のサイトでも似たり寄ったりの記事が出ています。

 


 内容はすべてが似たりよったりなのは、記事のソースが本日のNatureに載ったこの論文だからです。

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 Natureとしては珍しくこの論文は全文のpdfを読むことができます。こちらにアクセスするととりあえず上のページに飛びますが、すぐに自動的にpdfファイルページに転送されます。オンラインで読むことは可能ですが、普通の方法ではこのpdfファイルをダウンロードすることも印刷することもできないという、いかにもNatureらしい意地悪も仕込まれていますが、読めるだけでもありがたいと思っておきましょう(笑)。

 上の写真でもすぐにわかりますが、8600万年前に北米にいた恐竜からトリへと進化しつつあった動物イクチオルニスのほぼ完璧な頭部の化石が解析されて、この動物は恐竜のような歯の生えたくちばしをもっていただけではなく、上のくちばしの先端部分は現在のトリと同じように歯のないくちばしになっていたことがわかったというものです。

 わかりやすいのがナショジオの記事なので、主にその記事にそって説明していきます。

 上の写真ではちょっとわかりにくいのですがこの動物の最初の化石が発掘されたのはカンサス州で1870年のことでした。それから何度も同じ種と思われる化石が100体くらいも発掘されているのですが、トリの骨は壊れやすいので掘るたびに出てくるのはペチャンコになってなかなか元の姿を想像しにくいものばかりでした。それで今まではこのトリの「想像図」はこんな程度のものに過ぎませんでした。

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 それでもくちばしには歯が生えていて、魚を食べていた水鳥の仲間だということはわかっていたそうです。

 それが比較的最近掘り出されたものはほぼ完璧な頭部が発見されたのと、それを旧来の手法で岩から掘り出すのではなくX線のCTスキャンで解析してみると驚くほど完璧な立体に再現された像が浮かび上がってきて、それが今回のNature論文になったというわけです。

 その3DのCG画像がこちらです。

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 わかりやすいように色分けされています。

 この3D像でもっとも注目すべきは赤く塗られたくちばしの先の構造です。なんとこの部分には歯がなく、現生のトリと同じようにケラチンでできたトリのくちばしと同じ構造になっているのです。他の部分は歯が生えた恐竜と同じくちばしで、頭骨も恐竜と同じような発達した筋肉を支えるための穴だらけの構造をしています。つまり、この恐竜からトリへと進化する途上の動物はトリと恐竜のモザイク的な骨格をもっていることがわかったのです。

 Nature論文に掲載された系統図を引用しておきます。

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 細かいことはひつようないと思いますが、一番下に2つ並んでいるのは現生のトリのくちばし部分で、その上にあるのは北米から出てきた化石の海鳥のくちばしで、その上が今回解析されたイクチオルニスです。一見してわかるように、イクチオルニスで初めて出現した歯のないくちばしがだんだんと発達して上のくちばしを覆いはじめ、さらに進化した状況ではすべてのくちばしから歯がなくなって現在のトリになったというストーリーが明快に示されていると思います。

 新しい化石で小さなものは昔のようにコツコツと岩から掘り出すというようなことをしないでも、はるかに精密な状況を再現できる時代になってきたので、過去に掘り出された化石の骨格も細かいところはこれからどんどん修正されてくる可能性がありそうです。

 今後の研究者の方々のチャレンジに期待しつつ、新しい情報の提供を楽しみに待ちたいと思います。








by STOCHINAI | 2018-05-03 21:18 | 生物学 | Comments(0)
 1996年にドリーという名のクローン・ヒツジが誕生してから、それまで難しいとされていた哺乳類のクローンが続々と誕生しています。すぐにできたのはマウス、ウシ、ブタ、ウサギ、ネコなどです。いずれもヒトの生活に身近な家畜やペットです。意外なことにイヌのクローンはなかなかできませんでしたが、2005年に韓国のソウル大学のファン・ウソク(ヒトのクローン論文捏造で話題になったあのファン・ウソク)に率いられた研究グループがアフガンハウンドで成功させました。

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 これは、その時にプレスリリースされた記念写真ですが、中央にいるのがクローン犬のSnuppy(オス)で左がクローンのもとになる細胞(核)を提供したオスイヌのTai、右にいるのがSnuppyを妊娠した代理母のイヌです。

 その時の研究チームでアドバイザーをしていた CheMyong Jay Ko 教授が今はイリノイ大学で研究室を構えていて、アメリカでイヌのクローン作りの権威として活躍しているそうです。

 というわけで、今でもKo教授のところには「今、交通事故でうちのイヌが死んじゃったんだけど、クローンを作ってくれないか」という依頼が飛び込んでくるそうで、そういう時には彼は学生と一緒に現場に駆けつけ、死んだイヌから生きた細胞を取り出して研究室で培養して、そのイヌのクローンを作るということをしているそうです。

 クローン動物に関してはほんとうに元の動物の正確なコピーなのかどうかの論争もあったのですが、不思議なことにSnuppyがTaiと同じ12歳という年齢でTaiと同じがんによって死んでしまうということがあったり、Snuppyの脂肪幹細胞から新たに3匹のクローンが作られたりということから今やクローンは本当にもとの動物の遺伝子(ゲノム)を正確に受け継いだものだということを疑う人は少ないと思います。こちらがSnuppyの3匹のクローンです。



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 ところがところがなのであります。比較的簡単にペットのクローンを作れる時代になったとはいうものの問題があります。一つは値段です。

 今やこの技術を使ってペットのクローンを作ってくれる業者が韓国を中心にたくさんあり、クローンを作る値段はアメリカのViagenという会社では一匹税抜きで5万ドルだそうです。ネコなら2万5千ドルという価格はどうでしょう。どんなに高くても新しいイヌやネコを買うのにこれほど高くはないですよね。

 でもまあ、お金持ちにとったら5万ドルや10万ドルは出せないお金ではありません。有名な歌手で女優のバーバラ・ストレイサンド Barbara Streisand がインターネットの衝撃のインタビュー記事に答えていました。

 なんと彼女は飼っていたメスのイヌ(コトン・ド・テュレアールという白いフワフワの種類)が去年の5月に死んだので、そのイヌから2匹のクローンを作ってもらっていたのでした。さすが金持ちは違いますね。1000万円払ったということでしょうか(笑)。

 彼女はニューヨーク・タイムズ紙のインタビューに答えて、14年間も一緒に暮らした大好きなイヌが死んでしまったのでなんとかならないかと思った時、彼女の友人がペットのクローンを作ったのを思い出して同じようにクローンを作ってもらったそうです。

 クローンを作るプロセスは生物学の実験そのもので、卵の核を死んだイヌから得た生きた核と交換して代理母の子宮で育てるということなのですが、成功率はそれほど高くありませんので、1000のオーダーの卵と100のオーダーの代理母による妊娠の中から数例の成功が得られるというものです。というわけで5千ドルというのはそれほどの暴利ではないのかもしれませんが、この膨大な卵と代理母のコストは倫理的にどうなのか、という意見は当然出てくると思います。

 とまあ、膨大なイヌの犠牲のもとにクローンを作るわけですが、なんとか成功にこぎつけることができるので商売としては成り立つのですが、最後にとんでもない「落ち」があります。

 莫大なお金を出してでもペットを復活させたいという思いがクローンづくりへと人を導くのでしょうが、そのくらいペットのイヌやネコと深く付き合う人ならばペットの性格が一匹一匹ずいぶん違うことも知っていますし、見た目がどんなに似ていてもその性格が違うとすぐにわかるのものです。

 バーバラ・ストレイサンドのもとに届けられた2匹のクローンも見た目は驚くほどよく似た2匹でした。(下の写真を良く見ると明らかに捏造したものだと後で気がつきましたが、そのままにしておきます。2018年3月28日に追記)

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 でも、バーバラはイヌを受け取ってすぐにわかったそうです。この2匹はもとのイヌとはまったく「性格」が違うということが。しかも、2匹ともがそれぞれまた異なる性格の持ち主だったということもわかりました。「『魂』はクローンにならないのよね」というのがバーバラの感想だったようですが、けだし生物学的真理でもあります(笑)。

 そうなのです。遺伝子は100%同じイヌでも性格は一匹一匹が違うものになるのは、同じ遺伝子を持つヒトの一卵性双生児でも性格などはまったく異なることが多いことは誰でもが知っていることです。高い授業料を払ってクローンを作ってみたお金持ちの先駆者のおかげで我々貧乏人はクローンを作っても死んだペットは復活してこないという「生物学的真理」を再確認することができました。

 理屈ではわかっていることでもやっぱり実際にやってみると説得力のある結果が得られるものですね。

(今日の記事はこちらの記事 The Real Reasons You Shouldn’t Clone Your Dogを中心にして書きました。)








by STOCHINAI | 2018-03-26 21:16 | 生物学 | Comments(0)
 19日のThe Scientistの記事にゼブラフィッシュやメダカの磁場感知能力について書かれていました。

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 我々(ヒト)は日常的には磁界を感知することはなく、東西南北を知るためには太陽の位置を参考にしたり、磁気コンパスや今の時代ならスマホのGPSの力を借りなければなりません。ところが動植物の中には地磁気を感知できる能力をもったものが意外に多いことが知られています。

 渡り鳥は太陽や星座の位置などで渡りの目的地を見出すことはかなり古くから知られてはいましたが最近では彼らは地磁気を感知することもできることがわかってました。そうした研究を突破口にいろいろな動物が地磁気を感知していることが見出されてきています。

 上の記事では最近出版されたNature Communicationで脊椎動物のモデル実験動物としてよく使われているゼブラフィッシュとメダカを使って彼らにも磁場を感知する能力があることを証明している論文が紹介されています。


 この雑誌はオープンアクセスなので興味がありましたら全文を読むこともpdfでダウンロードすることもできます。

 その論文の最初の図で今回の論文も含めて、動物界で調べられている磁場の感知能力がまとめられています。

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 細かいところはどうでもいいのですが、今までいろいろな動物で知られている磁場の感知能力メカニズムには光受容(主に短波長の青い光)と関係したもの(図で黄色の丸で示されている)と、光には関係せずに細胞内にある磁性体金属が磁場を感知しているもの(図の中では黒丸で示されている)に大別されることがわかってきています。中には両方のしくみを使っているか、あるいはまだはっきりしない未知のメカニズムもあるのかもしれないもの(黄色と黒が半々に描かれています)があるようですが、脊椎動物・無脊椎動物を問わずいろいろな動物群の中でも使われているメカニズムはまちまちのようです。これは動物の進化の過程で磁気の感知能力がそれぞれ無関係に出現してきたことを示しているのかもしれませんが、そうだとしてもたった2つのメカニズムしか出現してこなかったことに関しては、地球の磁気を検出する生物物理的手段はたくさんあるわけではないことも示しているように思われます。

 我々は自分が磁界を感知できないのが当たり前だと思っていますが、この図を見るとむしろ多くの動物は磁界を感知できているように思われ、我々のほうがマイナーな存在なのかもしれないと思えたりします。

 それはともかくこの論文ではおもしろいことが報告されており、メダカやゼブラフィッシュが成魚になると外界の磁場に対して一定の定位を示すことと、小魚のうちは泳ぎ回る方向性に関して磁界に反応するということが実験で示されていておもしろかったです。

 こちらが大人のサカナでの実験結果です。

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 磁場に対して特定の方向を向く傾向が示されています。そしてこちらが幼魚の泳ぎ回る方向性を調べたものです。こっちはかなり微妙だとは思いましたが、統計処理をすると差が出ているようではあります。

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 最近の論文ではこういう「行動学的」結果だけを示したのではデータ不足であると指摘されることが多いので、この論文では小魚の時に磁界にさらされることで脳内の特定の場所に磁界に反応するために使われている神経細胞が増えるということも示しています。

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 細胞の数などを顕微鏡で見ている蛍光写真などはぱっと見るとなるほど増えている場所がありそうですね、と思いますが数を統計処理したものの差はやはり微妙かもしれません。

 とはいうものの、とりあえずこれだけのデータでこれらのサカナには磁界を感知し、さらにそれに反応する神経回路も発達することが示されているようには思います。現時点では、その能力が彼らの生活や生存にどのように関与しているのかが今ひとつはっきりしませんが、そうしたこともいずれわかってくるとおもしろいですね。

 論文の1番目の図をながめていると我々ヒトでも磁場を感知できても不思議はないと思われ、ヒトによってはそうした能力が高いケースもあるのかもしれず、そうした差がいわゆる「報告感覚の鋭い人」や「方向音痴」と言われる差になっているのかもしれず、そうしたこともだんだんと明らかになってくるのかもしれません。

 生物学はまだまだ発展を続けます。








by STOCHINAI | 2018-03-22 22:15 | 生物学 | Comments(0)

千葉へ

 昨日まではほとんど雪の消えた札幌でしたが、今朝起きるとびっくり。15センチほどの新しい積雪が。

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 今日は千葉へ行かなければならないのに・・・と思いながら除雪をしましたが、今朝の最低気温がマイナス7.8℃と低かったこともあってか、雪は軽くあっというまに除雪完了。

 予定通り高速バスで新千歳に向かいました。

 天気が良かったので、上空からの眺めも抜群でした。離陸直後の空港周辺は真っ白。

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 この見事は噴火口は岩手山か?

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 機内ではベア・ドゥのオニオン・スープをいただきました。

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 丹沢ダム?

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 こちらは猪苗代湖か?

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 あっという間に羽田に着きました。こちらは海ほたるパーキングエリア。

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 千葉駅に来たのは初めてだと思いますが、地元の人もその全貌がわからないほど100年以上も常に改造が続いてきているようで、こんな案内図がありました。

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 懇親会を先にやってしまいましたが、明日が本番です。








by STOCHINAI | 2018-03-17 23:17 | 生物学 | Comments(0)

シノブ

 多分、今日は年が明けてから一番の寒さの真冬日でしたが、それでも最低気温がマイナス8.7℃で、最高気温がマイナス1.4℃です。夕方からは雪が降り出しましたが、日中は昨日までと同様、日差しの暖かい一日でした。

 数日前にFacebookのBiodiversity Heritage Libraryで見つけたこの図版。

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 着生する茎の様子からまちがいなくシノブの仲間だと思います。解説ではこうなっていました。

Hare's-foot #Ferns (Davallia canariensis) for #FernFriday! #SciArt from James Britten, European Ferns (1879-81). Contributed for digitization by #HarvardBotany Libraries of Harvard University: http://s.si.edu/2EwTrxL

 Hare's-foot Fernsは「ウサギの足のシダ」という意味になりますが、最近はrabbit's foot fernと書かれていることが多いようです。hareもrabbitもウサギのことです。squirrel's foot fernという表記もみつかりますが、英語のWikipediaではdeersfoot fern, hare's foot fern, shinobu fern, rabbit foot fern, ball fernなどと呼ばれているものもあるようで、要するにウサギやリスやシカなど哺乳類の足のような茎をもったシダの仲間ということでいろいろに呼ばれているようです。

 上の図はヨーロッパのシダ類図鑑からのものですが、世界中に近縁のシダがあるようです。

 我が家にも100均で買ってきたシノブ(おそらく台湾原産のトキワシノブだと思います)があります。

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 ほったらかしにしていますが、元気に育っています。特徴的な哺乳類の足っぽい茎がこちらです。

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 その茎からいかにもシダらしい葉が伸びてきています。

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 本当に手のかからない植物で、乾燥と寒ささえ避けていれば、こうしてどんどん伸びていきます。最初に我が家に来たときには茎が2本で葉が3枚くらいだったと思います。2年位たってもこのくらいにしか成長していないのは私の世話が悪いのかもしれませんが、枯れもせずによく生き延びてくれています。

 今日もまた昼間の明るい光の中で植物の写真を撮りました。そろそろ花芽をのばしてくるはずのクンシランです。気持ちよさそうです。

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 そしてまた、今日もまた日向で寝呆けている武蔵丸の耳です。

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 ネコは太陽からやってきた天使なのかもしれないですね(笑)。









by STOCHINAI | 2018-01-13 22:33 | 生物学 | Comments(0)
 欧米ではMarbled crayfishと呼ばれ、日本ではミステリークレイフィッシュと呼ばれているメスしかいない単為発生のザリガニがいます。アメリカの南東部、フロリダに生息するヌマザリガニ(slough crayfish, Procambarus fallax)の単為生殖型ではないかという論文が出ていて、そうかなあというふうに思われていたのですが、これはそれとは異なる独立した新種であるという論文が出ました。

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 オープンアクセス論文ですので、どなたでもpdfをダウンロードして読むことができます。

 内容はストレートで、ミステリークレイフィッシュとProcambarus fallaxを比較して、別種であると結論しているものです。

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 上の図のAではメス(ミステリーはメスしかいない)の受精孔の形を比較しています。左からミステリー、fallaxそしてalleniという3種を比較しています。ミステリーとfallaxはよく似ていますが形は違います。さらにBでは甲羅の長さと一腹の卵の数を比べています。赤線で示したのがミステリーですが、fallaxとくらべて明らかに大きく、たくさんの卵を生みます。

 おもしろいことに、fallaxのオスとミステリー(全部メス)を交尾させることができるのですが、その結果生まれてきた子どものDNAを調べてみると全部がミステリーの遺伝子型を持っていました(下図C)。つまりfallaxの精子のDNAは子を作るときに使われていないということです。そしてさらにミトコンドリアの全DNAを比較してみても、fallaxとミステリーが系統樹の別の枝に分かれます(下図D)。

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 そして、分類学的に必要とされる細かい形態計測のデータを出して、やっぱり違うことを示して、最後にこれは新種として良いだろうと結論づけています。

 こちらがその新種の記載に使われたholotype標本の写真です。

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 そしてこの業界では写真よりも大切なスケッチです。

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 最後に遺伝子マーカーも載っているのが今風の記載論文ですね。

 私達も論文をいくつか書いているミステリークレイフィッシュですが、論文を書くたびに「種はまだはっきりしていない」と書くことになんとなくわだかまりがあったのですが、今回の論文を持って以降はとりあえず新種として学名をかけるのは喜ばしい限りです。

 この感覚って、業界以外の人にはなかなかわかってもらいにくいかもしれませんね。「なんだかんだいったって、ただのザリガニじゃねえか」というところでしょう。まあ、それはそのとおりなんですけどね(笑)。








by STOCHINAI | 2017-12-28 21:42 | 生物学 | Comments(0)
 今日で3連続の真冬日となっています。今日は出かけたこともあって写真がないので、1週間ほど前にオープンアクセスになっていた論文を読んでみましょう。

 タスマニアタイガー(日本ではなぜかフクロオオカミと呼ばれる)の胎児(有袋類で胎盤はないので袋の中で育ちつつある赤ちゃん)のゲノムを解析した論文です。


 タスマニアタイガーは最後の1匹が1936年までは動物園で飼育されていた肉食の有袋類で、動画も残っていて今でもネットで簡単に見ることができます。一見してわかるように、有袋類ではありますがカンガルーなどにはまったく似ておらず、真獣類(有胎盤類)イヌ科のオオカミやイヌによく似ていることから、肉食に適応した結果形態などが収斂進化(収束進化)した典型的な例とされています。100年前には生きていたということで標本もたくさん残っており、今回ゲノムDNA解析を行ったのはアルコール標本で保存されていた赤ちゃんです。Fig.1にタスマニアタイガーとヒトと一緒にオーストラリアに導入されたイヌ(オオカミ)の仲間のディンゴ、それにタスマニアタイガーの赤ちゃんのアルコール標本の写真があります。

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 たしかにタスマニアタイガーとディンゴの外見は尾と背中の縞模様を除くとそっくりです。有袋類と有胎盤類は共通の祖先から進化してきたことはたしかで、その共通祖先は小型のネズミ(有袋類ならばオポッサム、有胎盤類ならば食虫類のネズミのようなもの)と考えられていますから、そこから進化してきたタスマニアタイガーとオオカミが似ているということは、似たような形態を持つ動物が独立に進化してきたと考えるしかなく、これを収斂と呼ぶわけです。

 ちょっと出典が見当たりませんが、哺乳類の進化を扱った教科書から有袋類と有胎盤類の放散進化のイメージ図をお借りしました。まずは有袋類の系統樹。

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 右上にタスマニアタイガーがいます。

 そして有胎盤類(祖先は有袋類と考えられています)の系統樹。

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 中央の真上あたりに肉食類(イヌ・ネコですね)が位置しています。

 このように別々の経路を経て進化してきたタスマニアタイガーとオオカミのような肉食胎盤動物の頭蓋骨の形態を比べてみると、その類似性は一目瞭然です。精密に計測してみてもタスマニアタイガーの頭蓋骨は有袋類のどの仲間ともあまり似ておらず、有胎盤類の肉食類とよく似た形態をしていることが示されています。

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 一般に有袋類や有胎盤類では食性が少しくらい違っても似たような頭蓋骨の形態をある程度維持していて、図でも左側の一群が有袋類そして右側の一群が有胎盤類と分かれるのですが、タスマニアタイガー(ともうひとつ緑の丸の肉食動物)に関しては頭蓋骨の形態がほとんど有胎盤類の肉食類と同じような形態になっている(星印)のは驚くべきことです。

 一方、この収斂と同じようなことが遺伝子にも起こっているのかと調べてみると、それはなかったようなのです。いくつか遺伝子レベルで似ているものが見つかりましたが、それはたまたま似ていただけで、今回観察された形態的収斂を説明するものは見つからなかったといいます。つまり、タスマニアタイガーがオオカミに似た形態をもつようになったのはタンパク質の設計図となる遺伝子に収斂進化が起こったからというわけではなく、骨や筋肉を作る遺伝子をいつどのように働かせるかを調節する遺伝子に起こった選択の結果、収斂が起こったのだろうということのようです。

 遺伝子の調節部位に起こった変化によって、結果的に収斂が起こる例は他の動植物でも見つかっているようで、今回の結果もそういう例のひとつということになりました。

 それにしても、同じ機能を果たすためには祖先が全く違っても長い進化という選択をへると結果として同じような形態になってしまうというのは不思議な現象であることに違いはありません。

 もう一つ今回の論文では標本というものの重要性が再確認されています。過去には単なるアルコール漬けの珍しい動物の赤ちゃんの標本ということで保存されていたのかもしれませんが、それが現代のゲノム科学の発展により生きていたときにもっていたすべてのDNA配列が決定できて、他の動物と比較することができるということは、アルコール標本を作った研究者には想像もできなかったことだと思います。科学が発展するにつれてそのもつ意味が一緒に発展して大きくなっていくということが「本物」である標本を保存維持することの大きな意味であることが証明されたこともこの研究の大きな意義だと思います。

 博物館で本物を保存維持することは、過去の地球から未来への贈り物としてのタイムカプセルになっているということを、もっと大切に考えていいのだと思います。









by STOCHINAI | 2017-12-19 23:02 | 生物学 | Comments(0)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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