5号館を出て

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カテゴリ:生物学( 375 )

1週間のお散歩

 たまには微笑ましいニュースもないと、ということでカンガルーのお散歩です。

 12日にこども動物自然公園から逃げ出していたメスの2歳のワラビーが20日午前10時25分ごろ、同公園から2キロ離れた市民の森で無事保護されたそうです。

 カンガルーのおなかの袋には赤ちゃんがいたそうなのですが、それも元気ということで良かったですね。

 付近の山林で草木を食べていたらしいのですが、1週間も生き延びていたということは、ひょっとすると野生化も可能なのかもしれません。

 で、野生化して増えてきたりすると駆除しましょうとかいう話になるんでしょうか。カンガルーも本気で増えるとかなり植物を消費するらしいので、先日の「輸入・移動を禁止される外来生物」や「ニホンザルの話」みたいなことにならないと良いのですが、、、。
by stochinai | 2005-02-21 13:29 | 生物学 | Comments(0)
 2月17日発行のNatureに、おもしろい論文がいくつか同時掲載されています。

生化学:ヒトのメラノプシンが添加された哺乳類細胞は光応答性となる
Addition of human melanopsin renders mammalian cells photoresponsive
Z. Melyan, E. E. Tarttelin, J. Bellingham, R. J. Lucas & M. W. Hankins
Page 741

細胞:メラノプシンの異種発現による光感受性の誘導
Induction of photosensitivity by heterologous expression of melanopsin
Xudong Qiu, Tida Kumbalasiri, Stephanie M. Carlson, Kwoon Y. Wong, Vanitha Krishna, Ignacio Provencio & David M. Berson
Page 745

視覚:霊長類網膜中のメラノプシン発現神経節細胞は色と照度をシグナルとしてLGNに投射する
Melanopsin-expressing ganglion cells in primate retina signal colour and irradiance and project to the LGN
Dennis M. Dacey, Hsi-Wen Liao, Beth B. Peterson, Farrel R. Robinson, Vivianne C. Smith, Joel Pokorny, King-Wai Yau & Paul D. Gamlin
Page 749

 我々は今まで、我々ヒトを含む脊椎動物の眼の中で、光を感じるのは網膜の一番外側にある桿体細胞と錐体細胞といういわゆる視細胞だと信じてきたわけですが、実はそれらの細胞から光を受けたという情報を脳へと伝える働きだけをしていると考えられてきた視神経細胞(神経節細胞:これが網膜の一番内側、つまり光の当たる側にあります)も、光を「感じている」ということが証明されたという論文です。

 その前段階として、遺伝的に桿体細胞も錐体細胞も持たない、つまり目の見えないマウスも、光を感じて日周期に同調した行動をとることが知られていたという情報があります。しかし、こうしたマウスも目そのものを除去してしまうと日周期を感じることができなくなるのです。

 視細胞がなくても光を感じて、行動などを日周期に合わせることができるが、眼球がすべてなくなるとそれができなくなるということは、眼球にある視細胞以外の細胞も光を感じていると考えざるを得ないわけです。

 そして、どんな細胞でも、メラノプシンというタンパク質とレチナルデヒドという物質がありさえすれば(外部から入れてやったとしても)、光を感じることができるようになるということも示されています。

 この論文を見て、10年くらい前に読んだ、日周リズムを失った子供に膝の裏に、定期的に強い光をあてることで日周リズムを取り戻させることができるという(ちょっと怪しげなニュースを思い出しました。そのニュースも、このNatureか同じような週間科学誌のScienceに載っていたように記憶しているのですが、その時は笑い話のように扱われていた記憶があります。

 しかし、今回の論文をみると膝のうらに同じような光を感じる神経細胞がある可能性は否定できないと思いました。

 生物学はまだまだ新発見が続きそうです。
by stochinai | 2005-02-18 22:59 | 生物学 | Comments(4)
 特許を取ってその使用権を稼いだり、特許そのものを売ったりできる可能性のある一部の医学・製薬に関係したものを除くと、生物学では学問研究そのものがお金になることはほとんどありません。

 生物学に限らず、学問研究はその分野の教育をすることでお金を稼ぐことができることはありますが、研究そのものがお金を生むという状況は想像もできませんでした。

 しかし、世の中には頭の良い人がいるもので、生物学の中でももっともお金と縁遠いと思われている「分類学」という分野において、元手をかけずに商売してお金を稼ぐことのできる方法を発見した人がいます。

 ワシントン発のCNNニュースで、新種のサル、学術名の命名権をオークションに、という記事が出ています。

 「南米ボリビアのマディディ国立公園で発見された新種のサルについて、発見者が8日、サルの命名権をネットオークションにかけると発表した」とのことで、そのサルの命名権を競売にかけるようです。オークションサイトの説明文を読むだけでははっきりしないのですが、一般名(たとえば和名だとウチダザリガニとか)の命名権を競売にかけると書かれています。常識的に考えて発見者(つまりこれから記載論文という名の報告をするべき人)が命名権を売るといっているのですから、おそらく学名(ラテン語の2語からなるもので、ウチダザリガニだとPasifastacus trowbridgii)も売りに出されていると解釈されると思います。

 チャリティ・オークションのサイトの文章では、以下のようになっています。

 Winner of this lot will have the name of their choice permanently entered into all future references, including scientific publications, field guides, and other publications, that mention the new species.

 一方、CNNの記事によると「ティティ属に属するこのサルは、身長約30センチ、体重約1キロで、果物が好物。体毛は明るい茶色で、頭頂部にはっきりした金色、頬や喉に明るいオレンジが入っている」とのことですので、学名に関しては属を変えることはできませんのでCallicebus なんとかとなると思います。

 普通だと、一般名はゴールデン・ティティとかになるのでしょうが、チャリティで落札した人の意志によってはホリエモン・ティティとか、ビル・ゲイツ・ティティとかになって、学名はCallicebus horiemonus(語尾は間違っているかも知れません)とかになる可能性もあります。

 しかし、このニュースのインパクトは我々のやっているメシの種にならないはずの生物学が、その目的(今回のようにWCSがボリビアの野生生物保護団体を通じて、国立公園の管理・運営に使う)によっては、大きなお金を集めることができる可能性を示してくれたことだと思います。

 絶滅が危惧されている我々の基礎研究そのものも、大金持ちや多くの人々のチャリティによって支えてもらえる可能性もあるのだという希望は、基礎研究が今後どうやって生き延びていったら良いのかということについて、非常に示唆に富む大きなニュースだと思いました。

 「金にならない研究」も、まだまだあきらめるのは早いかもしれません。
by stochinai | 2005-02-09 21:40 | 生物学 | Comments(4)
 一週間ほど前に、環境省が「特定外来生物」として、規制する第一陣に37種指定というニュースがありました。輸入と移動が禁止されるということのようで、すでに国内にいるものを殺戮せよ、という法律を作るということではないようです。しかも、まだ決定したというわけではなく「同省が国民の意見を聞いた後、閣議で決定され、6月までに予定される同法施行時から適用される」とのことですので、国民ならば意見を述べるチャンスがあるようです。

 特定外来生物に指定が見込まれる生物として、挙げられている哺乳類としては既に駆除が始められているタイワンザルやアライグマがいます。特に駆除されているという話は聞きませんが、戦時中に政府が輸入・飼育が奨励されて「ブタのように大きなネズミ」として時々騒ぎになるヌートリアもいます。キョンなどは、八丈島の名物になっているので保護されていると思っていました。

 ガビチョウ、ソウシチョウなどは、どれもペットの小鳥とでもいうべきもので、もう野外で増えているのなら、まあ仕方がないかと思えてしまいそうなものです。

 カミツキガメ、グリーンアノール、ブラウンアノール、ミナミオオガシラ、タイワンスジオ、タイワンハブなどの爬虫類。トカゲ・ヘビは野生にいたらあまり歓迎されないでしょうね。

 オオヒキガエルは、戦後アメリカの進駐軍が持ち込んだと言われているもので、沖縄など南の島で繁殖しています。英語ではマリントード(海ヒキガエル)と呼ばれるように、海岸などの開けたところに住んでいるようですが、もちろん海水の中を泳げるわけではありません。そんな両生類はいません。(このことからも、サカナが両生類になって上陸したのは、海ではなく淡水だったと考えられています。)
 
 大きな問題になっているオオクチバス、コクチバス、ブルーギル、チャネルキャットフィッシュについては、在来の淡水魚を圧迫しているので、輸入・移動だけではなく駆除という方向に動いている自治体も多いようです。タイミング良く、今日のニュースで、琵琶湖・外来魚の再放流訴訟:原告の訴え却下「リリース禁止」と出いうのがありました。清水國明さんは負けてしまったようです。滋賀県の制定した、琵琶湖ではブラックバスやブルーギルなどの外来魚を釣り上げた場合にリリースを禁止するという条例は適法であるという判決です。まあ、このサカナはどれもどう猛で肉食であり、積極的に日本在来のサカナを食べていることもわかっているので仕方がないとは思います。

 こうして見てみると、輸入や移動を禁止したところで、すでに国内で自然に繁殖しているものが多いようなので、積極的に減らすためにはまた別の条例や、政策が必要です。特に大反対という意見を持っているわけではないのですが、私は動物や植物の分布を人為的にコントロールしようという思想には、諸手を挙げて賛成とは言えない立場です。もちろん、専門的に生態学などの研究をしている方々が、在来の生態系を保護すべきであると主張する意見も理解できます。

 しかし、その「在来の自然」と言ったところで、せいぜいが数十年から数百年前のものではないでしょうか。人類が誕生してからは、この地球上の生物分布は人類の営みによって変化させ続けられてきたと思います。食糧として捕獲・採取・減少させたものはもちろん、家畜やペット・農作物として移動・増殖させたり、あるいは意図せずして運んでしまったものなど、人間による生態系の「攪乱」は何万年も続いてきたのだと思います。

 もちろん、ごく最近になって明らかに人がかかわって分布域を変えただけではなく、在来種の存在が脅かされていることが明らかな場合に、その「失敗」を補うための政策を取ることには反対しません。根絶と旧生態系の回復はとても無理かな、と思っても止めろとは言いません。ただちょっと気になるのは、人間の浅知恵で「こういう生態系が理想的なのだ」などと短絡的な結論を出して、突っ走ることをやってしまわないかということです。

 たとえ、人間が介在していたとしても、地球生態系というものは「なるようにしかならない」部分が大きいのではないかと思います。それを、管理しきれるという思想があるとしたら、それこそが人間の傲慢かもしれないと思います。たとえ外来生物がはいっていたとしても、まずは研究すること、そしてどのくらいまで人間が手を出していいのかをみんなで検討しながら、少しずつ手を入れていくというのが、「自然」とのつきあい方ではないかと思っています。

 ご意見をお聞かせ下さい。
by stochinai | 2005-02-07 20:40 | 生物学 | Comments(7)
 牛海綿状脳症(BSE)から、ヒトに感染したと考えられる「変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)」の日本人患者が確認されました。たとえばこれをご覧下さい。

 「厚労省によると、男性は2001年12月に発症。当時40歳代で、発症時は焦燥感などの軽い精神症状だけだったが、その後、認知症や運動機能障害などの症状が現れた。昨年半ばごろから寝たきりの状態となり、同12月に死亡した」とのことです。

 「男性は89年ごろ、英国に約1カ月の渡航歴があり、同省は英国で感染した可能性が高いとみている」とのことですが、例によって厚労省の希望的観測に過ぎないのではないかと思われます。

 産経新聞によれば、「発症者は英国が153人と圧倒的に多く、カナダなどでも英国居住歴のある人の報告がある。わずか1カ月の英国滞在で発症した例は過去にないという」ことです。

 冷静に考えてみれば、その頃1ヶ月くらい英国に滞在した日本人などは、何百人・何千人といるのではないでしょうか。もしも、英国滞在中に感染したのだとしたら、今後も同じような経歴を持った人から複数の患者さんが出ることが予想されます。

 それより、恐ろしいのはたった一ヶ月ではなくその人の生活のほとんどを過ごした日本国内での感染の可能性でしょう。そうなると、関係者を絞ることすら難しくなります。

 日本でウシの全頭検査が始まったのが2001年10月で、この男性が発症したのが同じ年の12月というあたりの、時期的符合にはとても不気味なものを感じてしまいます。

 もちろん、いたずらに不安をあおる必要はありませんが、さりとてこの男性の感染場所をイギリスと断定してしまう姿勢も、危機管理能力の甘さを示していると思います。

 ここは一つ、冷静にありとあらゆる可能性を検証していってもらいたいものです。

 しかし、アメリカからの検査なしでの牛肉輸入再開を控えたこのタイミングでの発表ですから、影響はかなり大きいでしょうね。
by stochinai | 2005-02-04 23:09 | 生物学 | Comments(0)

ついにNo1!

隠れた宝石?

 記念の一枚というところでしょうか。

 7位、4位と動いてしまうと気になるもので、ついついまた覗いてしまいましたところ、なんとあっさりと1位になっていました。

 K倉先生が「そのうち1位になるんじゃないの」と言われた時には、「まっさか~」と大笑いしていたのですが、まさかが現実となりました。

 この先、何があっても「世界一」なんぞという称号を頂くことはないでしょうから、大事にとっておくことにします(^^;)。
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 でも、何だか自分達のことのような気がしないのはどうしてでしょう。
by stochinai | 2005-01-24 18:17 | 生物学 | Comments(0)

隠れた宝石?

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 東北大学のN先生からメールをいただいて、「F1000にコメントを書かせて頂いたところ、非常に好評のようです」とのことでした。ゲストでログインしてみたところ、今はなんと上の写真のようにTop4にランクされていました。

 F1000とはFaculty of 1000というウェブサイトのことのようで、新しい論文評価システムだと書いてあります。

 生物学者による生物学者のためのページということで、専門家が論文を推薦し専門家がそれを評価するというシステムで、毎日のランキングも「売り」のようです。

 推薦していただいたN先生は知り合いのよしみで出してくださったのかもしれませんが、それでも上位にランクされるというのは悪い気がするものではありません。

 ただし私も知らなかったように、このシステムはまだまだ日本では無名のようです。さすがにインパクトファクターのように雑誌のランクで比較するのではなく、単独の論文ごとにランクをつけるので、より直接的なものと言えるかもしれません。

 もうひとつ気に入っているのは、ランクされたのが「hidden jewels top 10 (隠れた宝石トップ10)」という、有名雑誌(どこのラボにもある雑誌だそうで、Nature, Cell, Science, PNAS, くらい?)以外の雑誌に載ったもののコーナーです。有名ではない雑誌とっても、我々発生学をやっている人間には超有名な Development でさえ、ここに分類されてしまっているのが微笑ましいですが、ともかくマイナーな雑誌を特に取り上げるというあたりが西欧風の民主主義を感じさせます(^^)。
by stochinai | 2005-01-22 17:25 | 生物学 | Comments(0)

ノロウイルス

 「ノロウイルス」とローマ字入力して最初に出たのが「呪う居留守」と出てしまいました。本当にノロウイルスは呪われた恐怖の疫病なのでしょうか。

 広島県の特別養護老人ホームでの老人集団死亡事件の調査の中で、発症した入所者と職員からノロウイルスが検出されて、どうやら集団死亡の原因がそれらしいということになるや、日本中でノロウイルスが検出され大騒ぎになっています。

 北海道では、去年くらいから冬になるとはやる「お腹に来る風邪」というのが、実はノロウイルスによるものであるということが知れ渡っておりまして、冬にはごく普通に見られる軽い症状の感染症であると言われてきました。

 つまり、それは普通の風邪と同じウイルスによる感染症で、下痢や吐き気を訴えて苦しいものではあるけれども、まさか死に至るものだという感覚はまったくと言って良いほどありませんでした。

 確かに老人や乳幼児は、普通の風邪やインフルエンザでも重篤な症状になることがあり、風邪と言ってもバカにしてはいけないと言われてはいましたが、昨日今日のニュースでは、老人がノロウイルスに感染されるとかなりの確率で死んでしまうと思わせるような報道がなされているように聞こえます。

 報道の皆さん、少し冷静になってください。

 もちろん、全国の高齢者施設でノロウイルスが原因と見られる感染性胃腸炎が蔓延しており、あちこちでお年寄りが亡くなっているのは事実かもしれません。

 しかし、まずはノロウイルス感染が今年になっていきなり増加したのかどうかの検討が必要です。上にも書いたように、昔から「お腹に来る風邪」というものがはやることは何度もあったはずで、その頃のものも単に特定されていなかっただけで、実はノロウイルスだったということはないのでしょうか。

 それと、もう一点。ちょっと不謹慎な発言になることを許していただきたいのですが、かなりご高齢のお年寄りは昔から冬になると単なる「風邪」が原因で亡くなられるケースがままあったと思います。

 そう考えると、そうした高齢の方がたくさん入っておられる高齢者施設で、冬になると亡くなられる方がある数増えるのは、大事件ではないかもしれません。

 特定の施設で7人も相次いで亡くなったということは事件かもしれませんが、その原因はノロウイルスであるというよりも、その施設におけるご老人の扱い方のほうにあったと考える方が自然ではないでしょうか。

 もちろん、今年のノロウイルスが昔のものよりも毒性が高くなっており危険であるという可能性は捨て切れませんが、私にはどうも必要以上のフレームアップに見えて仕方がありません。

 この冬は、昨年のようにSARSやトリインフルエンザで事件が起こらないので、その代わりに恐ろしげな名前を持つノロウイルスをターゲットにしてマスコミが騒ごうとしているように思えるのですが、考えすぎでしょうか。
by stochinai | 2005-01-11 23:09 | 生物学 | Comments(0)

論文ねつ造

 すでに昨日の夕刊に載っていたようですが、理研の研究者による「論文ねつ造事件」が発覚しました。共同通信の記事は「研究者2人がデータ改ざん 理研、実験の写真を加工」となっていますが、今回問題となった問題の論文は6人の共著論文で、2003年に出版されています。

 しかも、同様なデータ改竄によってねつ造された論文は1998年から3本も出されたことになっています。いちおう理研による報道発表が出されていますので、それをもとに考えてみたいと思います。

 まず、今回の事件が内部告発によって発覚したことがわかります。「平成16年8月4日、内部研究者より、研究論文の不正発表疑惑について指摘があった」と書かれています。告発できるくらい近くにいた人というのは、同じ研究グループの中にいたのかもしれません。調査委員会を作って検討した結果 、2003年論文、1999年論文(理研が元記事を削除しているため、論文書誌データを削除しました:2010/5/29)および1998年に発表された他の1篇の研究論文にデータねつ造があったとされています。(最後の1件は、可能性が高いとされており、断定はされていません。)

 理研として恥ずかしいのは、1年前に問題の2003年論文が出たに記者会見をしていることです。「**********」(理化学研究所及び科学技術振興機構の共同発表)という新聞記事が出ているはずですが、今回の発表と同時にその記事を取り下げると発表しています。

 理研としては、今回の問題を科学研究者のモラルの問題だけに矮小化したいのだと思います。もちろん、不正を働いた科学者がもっとも悪いことは事実ですが、高等教育を受けた科学研究者が不正を働くということは、ある意味で「確信犯」ですから、なぜそのような行動に出たのかを考えると、現在の科学研究および科学研究者の置かれた状況が見えてくると思います。そうした状況を作っている、日本の科学政策の問題点が明らかになってきます。

 理研といえば間違いなく日本の科学研究をリードしている先端研究所であり、研究者にとってはふんだんな研究費とたくさんの研究支援者を使って思った通りの研究ができる夢のような場所であり、各地の大学院で博士を取った若者にとっては比較的高額な給料をもらって博士研究員を続け、場合によってはそこで業績をあげることでステップアップを図ることのできるチャンスが得られる場所です。

 しかし、裏返すと研究費に応じたあるいはそれ以上の「社会的にインパクトのある研究」を要求されるシビアな職場でもあります。今回の事件にも出てくる「新聞に載るような研究」が強く求められる場ということもできるでしょう。

 新聞に載るような研究をすることが、新たな研究費獲得や自分の昇格(あるいは昇級?)に直接響いてくるというようなことがあるかどうかははっきりしませんが、なんとなく関係があるのではないか、という暗黙の了解はあるのだと思います。今回「事件」を起こした主な2人の肩書きが、副主任研究員と5年時限で採用されていた独立主幹研究員であるということは、決してたまたまそうだったのだとは思えません。

 副主任研究員は、主任研究員あるいはどこかの大学の教授になりたかったのかも知れません。時限の研究員は、もう1回の5年契約の更改を控えていたのかも知れませんし、どこかの大学か研究所に応募したかったということもあるでしょう。いずれにしても、研究者の評価およびその人の将来が「新聞に載るような研究発表」によって大きく左右される現実があるとするならば、今回のような事件はこれからも起こり続けると確信します。

 こうした問題の原因の一つに、研究における歪んだ「競争」のあり方があるのだと思います。日本では、最近になって急に大学や研究社会周辺に「競争」というシステムが導入されて来ましたが、競争をする前提となる「フェアな精神」というものは幼い子どもの頃から時間をかけて教え込まれなければ身に付かないものでしょう。

 競争自身が間違っていることだとは思いませんが、競争をする人間がフェアに戦うとはどういうことかを理解しておらず、競争させて選抜させる側(行政など)がしっかりとした判断力を持っていない場合には、往々にして現実の日本で起こっているように評価基準が素人であるマスコミに取り上げられるかどうかなどということが大きな力を持ってしまうことが起こるのだと思います。

 そうなると、どんな方法を使ってでも新聞に載るような研究論文および発表をすることが、勝利への手段だと勘違いされるようなことが起こりうると思います。そして、ポスドクの非常勤研究員、昇格を望む常勤の研究員、政府から評価されたい研究所そのもの、などなどが全員同じ土俵の上で踊りを踊り始めることになります。

 たとえ、最初の一歩が嘘だったとしても踊りは始まることがあり得るのです。特に、科学研究などという恐ろしくプライベートな行為の上に成り立っている作業では、ほんのちょっとした悪魔の囁きに一瞬だけ負けただけで、周りの全員が踊りを始めてしまったら、翌朝夢から覚めたとしても動き始めた状況を止めることなど出来なくなってしまうのでしょう。

 今回の事件で「処分」された人たちは、ひょっとするとこれでようやく楽になれるとホッとしているのかもしれません。

 最大の犯人は政治なのだということを、どのくらいの人が理解してくれるか、今の私は大いに懐疑的です。
by stochinai | 2004-12-25 00:00 | 生物学 | Comments(1)

DNA鑑定

 あまり書きたいというわけでもなかったのですが、「書かないのですか」と言われたことと、日本中のニュースがあまりにも同一色に染まっているように見えることがちょっと気持ち悪いので、コメントしておきます。

 もちろん、北朝鮮に拉致されて自殺したとされる横田めぐみさんの、「遺骨」の鑑定結果のことです。

 昨日のニュースでは、帝京大の法医学研究室が、両親から提供された横田めぐみさんのへその緒から得られたDNAと照合して、遺骨がめぐみさんのものではないと断定したと報道されています。

 しかし、同様の鑑定を試みた警察庁科学警察研究所では、結果を出せなかったという報道もありました。

 「両機関とも『鑑定能力は国内屈指』(警察庁幹部)だが帝京大はミトコンドリア、警察庁は核のDNAを鑑定したといい、このため差が出たとみられる」と書いたものもあります。

 私も帝京大の出したの判定結果は、おそらく正しいだろうと思っていて、北朝鮮が嘘をついているのは間違いないと思うのですが、科学的判定をする場合にしなければならない最低のルールは、今回も守るべきだと思いました。

 そのルールとは、二つの研究機関(帝京大と科学警察研究所)が異なる結果(否定的な結果と、結果を出せないという結果)を出した場合には、さらに第3者に判断を依頼するということです。

 また、帝京大が成功したのなら、その方法を使って科学警察研究所および(あるいは)他の機関が追試するということです。それで、同じ結果が出ることを確認できれば、信憑性は高まります。

 このようなニュースによって私たちに知らされるのは鑑定結果だけであり、今回のように場合によっては国際紛争の原因にもなる可能性もある重要な事案の場合には、利害関係のある日本でだけ鑑定をするのはいろいろと疑念を提出された場合に弱みがあると思います。

 もちろん、最初の鑑定を日本でやることに問題はないのですが、そこである結果が出たら第3国(たとえば、ドイツとかフランス、あるいは中国やアメリカに加わってもらっても良いでしょう)の第3者機関に同じ方法および別の方法で再鑑定を依頼すると良いと思います。

 自然科学というものは、誰がやっても同じ結果を出せるものですから、無駄な論争をする必要はありません。

 特に今回のようなケースでは、日本中が一丸となって熱くなっているように見え、それはそれで無理はないと思いますが、北朝鮮のような国と交渉する場合には、向こうの友好国(中国やロシア?)にも科学的真理という点において、日本と同じ立場に立ってもらうことができると、ずいぶん交渉がしやすくなるのではないでしょうか。

 今回の鑑定結果で、北朝鮮が嘘をついていることがはっきりしたので経済制裁を加えるという意見も理解できますが、横田めぐみさんをはじめ拉致されている人たちを救い出し、北朝鮮を開かれた国にしていくことを目指すのならば、直線的に攻めるだけではうまくいかないでしょうから、外堀を埋めることも考えた方が良いと思います。今回のDNA鑑定のような「科学」を使うことで、中国やロシアが北朝鮮を説得する側についてくれるならば、交渉はしやすくなるのではないかと思います。

 そういうのを「大人の外交」というのではないでしょうか。
by stochinai | 2004-12-09 00:00 | 生物学 | Comments(0)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


by stochinai