5号館を出て

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 昼頃、CoSTEP関係者の方からメールがあって今日の午後8時からNHK北海道のローカル放送で「5月のサイエンスカフェで、ゲストとして登場して頂く、工学部の永田晴紀先生と『CAMUIロケット』に関係した番組が放映されます」とのことだったので、見てみました。

 金曜日のこの時間帯は「北海道スペシャル」の時間だと思っていましたが、同じ時間に「ホンネで北海道」という視聴者参加番組や「北海道ひと物語」というものが放送されているようです。

 今日の番組は「北海道ひと物語」でした。
宇宙(そら)への夢をかなえたい
~町工場の挑戦者・植松努さん~

 もちろん、CAMUIロケット打ち上げのプロジェクトリーダーである永田晴紀さんも登場したのですが、彼はあくまでも脇役で、主役は昔の産炭地である北海道の片田舎・赤平で従業員14名の「町工場」の専務である植松努さん(39歳)でした。

 この人が、実に絵になる人で感動しました。

 「天空の城ラピュタ」をこよなく愛する植松さんは、子どものころから飛行機やロケットにあこがれ続け、小学校では算数の成績が悪かったにもかかわらず、努力を重ねて大学へ進学し、三菱重工でロケット関連の仕事を勝ち取ったといいます。それだけでもすごいと思うのですが、家業の工場を嗣ぐために三菱を退職して戻って来た後もロケットに対する夢を持ち続けていたところへ、北海道大学で開発していたロケットの話に出会ったということです。

 ちなみに植松さんの会社の植松電気は工業用磁石製品を開発している会社で、ホームページを見る限り、そこそこ経営はうまくいっているようです。

#余談ですが、この会社の採用案内が最高です。「右利きであること」を条件にしているのは、ちょっとどうかな?と思わないでもないのですが、以下に身体的条件を再掲します。
喫煙経験がないこと
ピアス、茶髪など不可
右利きであること
金属アレルギー、腰痛などの慢性的持病がないこと
 とまあ、頑固な親父さんが個人経営していることが伝わってくる会社もなかなかユニークだと思うのですが、植松さんが会社の仕事とは直接関係がなさそうなしかもとても儲かるものとは思えないロケットの仕事をやろうと思ったのは、これはもう自分の夢のためとしか思えないところが素敵です。

 会社のメインの仕事に関しては番組にはほとんど出てきませんでしたが、そちらでそこそこ儲けていればこその道楽のようなロケット開発にかかわっていられるのではないかと思え、こんな田舎の中小企業でもそんな余裕のある生き方ができるという植松さんの人生がうらやましく思えたものです。お金儲けだけではなく、ゆったりと商売と生活を楽しむことができるというのが田舎の良さなのかもしれません。

 ロケットエンジンの燃焼実験の失敗や成功で一喜一憂している植松さんおよび開発チームの様子もとても共感を覚えましたし、実に楽しそうです。

 巨大な予算と巨大な設備で打ち上げる巨大プロジェクトとしてのロケット開発ではなく、試行錯誤しながら手作りで改良していくロケットは、まさにローテクなものだと感じましたが、それだけに携わっている人間に近い存在であり、愛着も人一倍なのだろうと思います。

 番組の中で、植松さんが小学生に模型のロケット作りと打ち上げを指導するシーンが出てきましたが、彼が飛ばそうとしているロケットと、子どもたちが飛ばしたおもちゃのロケットの間には科学技術としてのギャップがないのです。おもちゃのロケットを飛ばしてはしゃいでいた子どもたちは、植松さんが飛ばそうとしているロケットを見れば、自分も飛ばせるあるいは飛ばしてみたいと思ったに違いありません。

 子どもたちに科学を伝える時に、この手が届くところにある科学・技術ということの教育的効果の大きさを強く感じさせられました。どんなにすごいものだとしても、NASAのロケットの製造現場や打ち上げを見せられたとしたら、確かにすごいと感動するでしょうが、子どもたちは自分にもできるという感覚は持てないのではないでしょうか。

 ローテク・サイエンスの力というものを思い知らされた良い番組でした。

 今、この時点で試行錯誤している技術者の物語は、成功が約束された過去の話を掘り起こしていたプロジェクトXを越えていたと思います。
# by stochinai | 2006-04-07 21:42 | 札幌・北海道 | Comments(5)

スイセン

 ここのところ寒さが戻ってきている札幌で、毎日雪が降っています。しかし、日が照り出すとさすがに暖かさを感じます。

 雪のおかげで、背景がきれいになった庭のスイセンです。
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# by stochinai | 2006-04-07 15:11 | 札幌・北海道 | Comments(0)
 ミッシング・リンク(失われた環)という言葉は、たとえば爬虫類と鳥類をつなぐ始祖鳥が発見された時などに使われる言葉です。

 両生類が魚類から進化してきたことを疑う人はほとんどいないと思いますが、実は両生類と魚類をつなぐような始祖両生類ともいうべき動物(の化石)はいままでのところ発見されておらず、まさにミッシング・リンクだったのですが、最新のNatureの表紙にはその化石の写真が「生き生きと」した様子で載っています。また、同じページには、再現模型と思われる動物が3匹以上並んだ写真も出ています。

 その化石種の名前もかわいらしくティクターリク・ロゼー(Tiktaalik roseae)と名付けられました。

 Natureでは、この発見をよほど評価していると見え、無料のnews@nature.comで記事を公開しているだけではなく、本誌でも例外的に2本のArticleとして掲載しています。もちろん、News and Viewsでも解説しています。

News
Published online: 5 April 2006; | doi:10.1038/news060403-7
The fish that crawled out of the water
A newly found fossil links fish to land-lubbers.
Rex Dalton

News and Views
Nature 440, 747-749 (6 April 2006) | doi:10.1038/440747a
Palaeontology: A firm step from water to land
古生物学:水から陸への確実な一歩
Per Erik Ahlberg and Jennifer A. Clack

Article
Nature 440, 757-763 (6 April 2006) | doi:10.1038/nature04639; Received 11 October 2005; ; Accepted 8 February 2006
A Devonian tetrapod-like fish and the evolution of the tetrapod body plan
四肢動物に似たデボン紀の魚類と四肢動物の体制の進化
Edward B. Daeschler, Neil H. Shubin and Farish A. Jenkins, Jr

Article
Nature 440, 764-771 (6 April 2006) | doi:10.1038/nature04637; Received 11 October 2005; ; Accepted 8 February 2006
The pectoral fin of Tiktaalik roseae and the origin of the tetrapod limb
Tiktaalik roseaeの胸びれと四肢動物の肢の起源
Neil H. Shubin, Edward B. Daeschler and Farish A. Jenkins, Jr

 論文の写真や図を見るだけで、内容はすぐに想像できてしまうので無理に読まなくても良いと思うのですが、なんとありがたいことに非常に詳しい解説がすでに日本語訳としてネットで公開されています。元ネタは National Geographic News ですが、早々に逐語訳が出ていますので、そちらをお読み下さい。
記事 : そして魚は陸上へと向かった[前編]
記事 : そして魚は陸上へと向かった[後編]

 報道が先行することを極端に嫌うはずのNature論文を説明する記事が、どうしてNature本誌の1日前に出たのかとちょっと不思議に思いましたが、実は National Geographic の母体がこの研究のスポンサーになっているんですね。
 米国地理学協会は、このプロジェクトの資金の一部を提供しています。プロジェクトの詳細は、明日発行される「Nature」誌に登場します。
 内容は要するに、ヒレが肢へと進化しつつある構造を持っているということなのですが、今までに発見されていた動物は、魚っぽいヒレか両生類っぽい肢を持ったものばかりだったのですが、今回発見されたティクターリクは「手首のあるヒレ」というまさに中間形を示しているので、ミッシング・リンクだと主張されているわけです。

 ミッシング・リンクの発見に立ち会えるなどということはそうそうあることではありませんので、じっくりと味わわせてもらいたいと思っています。

 皆さまもどうぞお楽しみ下さい。

【追記】
 そう言えば、これはNaturePodcastでも取り上げられていて、サカナが陸に上がったのは暖かく浅い水辺だったということですが、気候変動と上陸に何か関連があるかと考えてみるとそれはあまりないのではないか、とコメントしていました。それよりはむしろ先に上陸していた植物やそれを食べる無脊椎動物がすでにたくさんいて、それらの無脊椎動物を餌としていたティクターリクが餌を求めて上陸したというふうに考えるほうが妥当ではないかということでした。私も、その説には同意したいところです。
# by stochinai | 2006-04-06 22:08 | 生物学 | Comments(3)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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