2010年 10月 13日
ついにミステリー・クレイフィッシュの種が同定された
日本ではミステリー・クレイフィッシュと呼ばれて、今や時折ホームセンターですら売られていることがある、Marmorkrebs (marbled crayfish:大理石模様のザリガニ)は、ザリガニ類では種の同定に決定的に重要なオスの交尾器がわからないため発見から10年近くもたちながら、未だに種名が決まっていませんでした。
うちの研究室でも5年ほど前にいただいた3匹のメスから、どんどん増えて経代されて今日に至っています。半分冗談で、我々が種として記載して種名を決めようかなどと話していたこともあるのですが、この度ついに種名を決めた論文が出版されました。
Contributions to Zoology, 79 (3) – 2010
The enigmatic Marmorkrebs (marbled crayfish) is the parthenogenetic form of Procambarus fallax (Hagen, 1870)
Peer Martin, Nathan J. Dorn, Tadashi Kawai, Craig van der Heiden, Gerhard Scholtz
オープンアクセスになっているようで、全文が誰でも読めます。タイトルは「謎だった大理石模様のザリガニは、プロカンバルス・ファラクスの単為生殖型である」というもので、アメリカのフロリダに分布するアメリカザリガニに近縁なプロカンバルス・ファラクスと同種であると結論できる、という論文です。 この写真の上がファラクス(オス)、下がミステリー(当然メス)です。たしかにそっくりです。
この種に早く名前を付けなければいけないという理由の一つが、この論文に書いてあるのですが、野生の分布とは明らかに異なるものが世界中の野外で発見されるようになってきたからだと書いてあります。これが、野外で発見された例の表です。
上から、ドイツ、オランダ、イタリア、マダガスカルそして日本となっています。驚いたことに、この日本というのはなんと札幌のことだそうです。ここに「2007年に西岡公園で発見された」と書いてあります。(それを報告した川井さんという方は、今回の論文の著者のひとりでもあるようです。)英語のブログでもSapporoの文字が躍ります。いずれにしても、札幌で発見されているということは、日本中に拡がっていることは想像に難くありません。
前から、遺伝子を調べる限りアメリカザリガニに近く、ファラクスかアレニという種のどちらかかど言われていたのですが、今回チトクローム酸化酵素やミトコンドリアのリボソームRNA遺伝子を調べた結果、ほぼ決定的にファラクスと同じと言える結果が得られました。
クラルキーというのがアメリカザリガニで、いずれにしてもこのグループであるとは前から言われていました。
こちらの写真は、上からアレニ、ファラクス、ドイツのミステリーそして日本のミステリーの順に並んでいます。
とりあえず、ミステリーをファラクスという種の中に入れてはありますが、将来種名が変わることはあり得るという見解のようでもあります。
いずれにしても、有性生殖種の中からメスだけで発生する単為生殖個体が出現したことは確からしいので、我々としては雄性発生卵が単為発生をするようになった変化(進化)の理由を、分子細胞生物学的に知りたいと思います。これは、我々が興味を持っている進化発生学の良い研究テーマでもあります。さいわい祖先種が現存するファラクスであるということも示されたので、ある意味で攻めやすくなったという気もします。
とはいえ、ザリガニの進化などという超基礎的なことはお金にもノーベル賞にも関係なさそうなので、それほど競争が激化することもないでしょう。
おもしろい研究のネタがここに転がっています。どなたか、斬り込んでみませんか。
うちの研究室でも5年ほど前にいただいた3匹のメスから、どんどん増えて経代されて今日に至っています。半分冗談で、我々が種として記載して種名を決めようかなどと話していたこともあるのですが、この度ついに種名を決めた論文が出版されました。
Contributions to Zoology, 79 (3) – 2010
The enigmatic Marmorkrebs (marbled crayfish) is the parthenogenetic form of Procambarus fallax (Hagen, 1870)
Peer Martin, Nathan J. Dorn, Tadashi Kawai, Craig van der Heiden, Gerhard Scholtz
オープンアクセスになっているようで、全文が誰でも読めます。タイトルは「謎だった大理石模様のザリガニは、プロカンバルス・ファラクスの単為生殖型である」というもので、アメリカのフロリダに分布するアメリカザリガニに近縁なプロカンバルス・ファラクスと同種であると結論できる、という論文です。
この種に早く名前を付けなければいけないという理由の一つが、この論文に書いてあるのですが、野生の分布とは明らかに異なるものが世界中の野外で発見されるようになってきたからだと書いてあります。これが、野外で発見された例の表です。
前から、遺伝子を調べる限りアメリカザリガニに近く、ファラクスかアレニという種のどちらかかど言われていたのですが、今回チトクローム酸化酵素やミトコンドリアのリボソームRNA遺伝子を調べた結果、ほぼ決定的にファラクスと同じと言える結果が得られました。
こちらの写真は、上からアレニ、ファラクス、ドイツのミステリーそして日本のミステリーの順に並んでいます。
いずれにしても、有性生殖種の中からメスだけで発生する単為生殖個体が出現したことは確からしいので、我々としては雄性発生卵が単為発生をするようになった変化(進化)の理由を、分子細胞生物学的に知りたいと思います。これは、我々が興味を持っている進化発生学の良い研究テーマでもあります。さいわい祖先種が現存するファラクスであるということも示されたので、ある意味で攻めやすくなったという気もします。
とはいえ、ザリガニの進化などという超基礎的なことはお金にもノーベル賞にも関係なさそうなので、それほど競争が激化することもないでしょう。
おもしろい研究のネタがここに転がっています。どなたか、斬り込んでみませんか。
#
by stochinai
| 2010-10-13 20:48
| 生物学
|
Comments(4)