5号館を出て

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本音の発言

 NHK問題については不毛な記事が多く、切り口を変えたものがないかと思っていましたら、札幌から出てきました。調査報道について その2です。おもしろいことが書いてあります。

 「実際はたとえば中川氏の番記者たちはおそらく『先生、ほんと迷惑でしたよね』『朝日はひどいですよね』とかやっているのです(想像ですが)。そして、たぶん朝日の番記者はおそらく『あれは社会部が勝手にやったんですよ』というようなことを言っているのだと想像します。」

 こういうのを内部情報というのだと思います。記者である著者が、他の記者のことを書いています。もちろん、事実を述べているわけではないので、いわゆる「情報」とは違うのかもしれませんが、新聞記者のなかでも番記者と呼ばれる人たちの「生態」が生き生きと描かれていると思いました。

 我々の周辺にも、いろいろな情報、特に権力を持っている人間が考えていることに関する情報を持っていることで、力を発揮している人がたくさんいます。不思議なことに、権力側の情報を持っていることと、権力を持っていることとは何の関係もないはずなのに、そういう人たちが偉そうに情報を開示することがあります。そして、その情報に導かれるように会議が進むことも多いのです。会議に参加している多くの人たちの心の中には、どうせ「お上」の結論は決まっているのだから、こちらがお上に出す提案もお上の意向に沿ったものを出すことで、会議を無駄にせずにすむという気持ちが働いているのかもしれません。

 かくして、お上の情報を持っている人が大きな顔をするという状況が作られていきます。

 しかし、やはりこの構造は危険です。権力側からリークされる「情報」はあくまでも、権力側に都合の良い情報だけであり、不利な情報は意図的に隠されているはずだからです。番記者という形で、お上と仲良くなったとしても、もらえる情報はリークしても良いというフィルターを通った後の「偏向した情報」なのです。もちろん、権力側と対立してしまったら、そうした偏向情報ですらもらえなくなるでしょう。しかし、情報がもらえなくなることを恐れるならば、番記者という存在では決して権力を批判するような記事は書けないということになります。提灯記事しか書けないのであれば、すでにジャーナリストとして破綻しています。権力からリークされた記事は、決して「特ダネ」ではありません。

 高田さんは書きます。「今回の問題に限らず、この種のことが起きると、必ず、擦り寄る記者と徹底追及に回る記者とに二分されてきます。しかも圧倒的に『擦り寄り』が多い。そうしたことを、私はずっと批判しているのです。『追及・北海道警裏金疑惑』という本やその他の論文等でも言い続けていますが、『記者の役割は政治家や権力側と仲良しでいることではない』ということに尽きます」。

 会議の席に「上の」情報をもたらす人の存在も同じだと思います。会議構成員の役割は大学当局や権力と仲良しでいることではない、はずです。

 NHK問題は、単にNHKと政府・自民党との関係なのではないことがわかります。この問題には、日本全体を覆う、上意下達を達成させるシステムが持つ構造的な問題が象徴的に出ているだけで、我々も間違いなく同じ構造の中に組み込まれています。上からの圧力とそれに従う我々庶民の関係は、表には出さない形ではありますが貫徹されているのがいわゆる「日本の社会」というものです。多くの人は心の中では「そんなことは、昔からずっとあることだ」と思っているでしょうから、NHK問題で市民が盛り上がらないのも無理がないとも言えます。

 しかし、逆に考えるとお上が下に圧力をかけることなどは当たりませすぎて、誰も疑問も挟まず、もちろん異議申し立てをすることなどできなかった一昔前から考えると、様々な形で内部告発ができるようになった状況は、ある意味で進歩だと言えると思います。

 番記者や会議の席での情報通たちは、簡単にいうと権力側の内通者であり、正規なルートを経ずに権力側の情報を我々にもたらしてくれる彼らの存在をありがたがる我々のありようからたださない限り、権力にすり寄りその情報とともに虎の威を借りて偉そうにしている彼らの存在こそが、「見えない圧力」の実行部隊と言えるでしょう。

 リークされた情報には、必ず受け取る側を操作しようとする黒い意図があることを再確認しておきたいと思います。
# by stochinai | 2005-01-23 23:39 | つぶやき | Comments(0)

市民セミナー

 21世紀COE 「新・自然史科学創成」総合博物館・市民セミナーというものをやってきました。総合博物館は旧理学部の建物であり、この部屋からは屋外へでることなくたどり着ける場所です。

 日頃、講義やセミナーや学会で人前で話すことに関しては、いちおうプロのつもりでいたのですが、今回はかなり勝手が違いました。正直言うと、満足できるものではなかったと思います。せっかくの土曜日の午後に、降雪の中を集まっていただいた皆さまには、お詫びを申し上げたい気持ちです。すみません。

 これはやる前からわかっていたのですが、失敗の原因のひとつはお客さんというものを把握しきれなかったことです。普段の発表で相手にしている、学生(大学1年生、4年生、大学院生)とか、研究者とか、研究室メンバーとかだと、相手のレベルや使える専門用語がだいたい予想できるものです。多少、読み違っていても話を始めてからでも、相手の反応を見ながら調整ができます。

 それが、今日はちょっと参りました。前側の席を占めておられるのは、どちらかというと年齢が高めで、博物館の方の話によると「常連さん」で、どんな話でも興味深く聞いて質問もしてくださる方達だそうです。ところが、だんだんと人が入り始めてみると、学部の学生から、大学院の学生、大学の先生(しかも、専門はバラバラ)から、中学校・小学校の先生、高校の先生もいました。もちろん、家庭の主婦の方、検査技師の方、外国人の語学教師の方までも聞きにきてくださいました。

 正直言いまして、このメンバーを見て最初は完全にあがってました。久々に、レーザーポインターを持つ手が震える自分を見て、さらにまた平常心を失いました。さて、ここからどうやって体勢を立て直したらいいものか、、、、。

 そういう時の私のいつものパターンは、弁解おじさんになることです。あっちの人にはこの説明を、こっちの人にはこれについての小話を、そこの人にはちょっと高度な専門用語もちりばめた玄人っぽい話を、さらに寝そうになった人が出てきたら、アドリブで時事話などを、、、、。こういうことを全部やろうとすると、とてつもない早口になってしまうのです。私が早口の時は、形勢不利を意味してます。

 私のいつものやり方なのですが、ある程度たくさんの量の話を準備していって、お客さんの状況に応じて、はしょったり膨らましたりをやるのですが、今回のような場合には、あっちにもこっちにもサービスしようとやっている間に、前置きだけで予定の時間を使い切りそうになってしまいました。

 まあ、準備が悪いと言われてしまえばそれまでなのですが、この現場に出てから微調整しながら話をするというのも、それなりにスリリングで楽しい部分があることと、うまく言った場合にはお客さんにもエキサイティングな結果を生んでくれることがあるので、なかなかやめられません。

 聞きに入らしてくれた方々は、優しい方ばかりだったので、親切にいろいろと質問もしてくださいましたが、やっぱり合格点はあげられない発表でした。

 でも、なかなか得難い経験をさせてもらいました。いつもは、慣れた集団を相手にいわばこちらが優位に立って話すことが多いのですが、現実の社会というものはそんなに均質なわけはないし、社会を相手にするということは、そういう多様性を相手にするということなのです。

 いつも多様性こそが大事と言っていながら、いざ多様性を前にするとなかなか簡単に行かないものだということを身にしみて勉強させてもらいました。まあ、失敗も経験ですし、そういう意味ではおもしろかったことも事実です。

 博物館の方には、そのうちにまたリベンジで市民セミナーで話させてください、とお願いしておきました。何か、新しい企画を思いついたら、やらせてもらおうかと思っています。その時は、またよろしくお願いします。
# by stochinai | 2005-01-22 17:54 | 教育 | Comments(0)

隠れた宝石?

隠れた宝石?_c0025115_1658997.jpg


 東北大学のN先生からメールをいただいて、「F1000にコメントを書かせて頂いたところ、非常に好評のようです」とのことでした。ゲストでログインしてみたところ、今はなんと上の写真のようにTop4にランクされていました。

 F1000とはFaculty of 1000というウェブサイトのことのようで、新しい論文評価システムだと書いてあります。

 生物学者による生物学者のためのページということで、専門家が論文を推薦し専門家がそれを評価するというシステムで、毎日のランキングも「売り」のようです。

 推薦していただいたN先生は知り合いのよしみで出してくださったのかもしれませんが、それでも上位にランクされるというのは悪い気がするものではありません。

 ただし私も知らなかったように、このシステムはまだまだ日本では無名のようです。さすがにインパクトファクターのように雑誌のランクで比較するのではなく、単独の論文ごとにランクをつけるので、より直接的なものと言えるかもしれません。

 もうひとつ気に入っているのは、ランクされたのが「hidden jewels top 10 (隠れた宝石トップ10)」という、有名雑誌(どこのラボにもある雑誌だそうで、Nature, Cell, Science, PNAS, くらい?)以外の雑誌に載ったもののコーナーです。有名ではない雑誌とっても、我々発生学をやっている人間には超有名な Development でさえ、ここに分類されてしまっているのが微笑ましいですが、ともかくマイナーな雑誌を特に取り上げるというあたりが西欧風の民主主義を感じさせます(^^)。
# by stochinai | 2005-01-22 17:25 | 生物学 | Comments(0)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


by stochinai