2006年 05月 24日
ニュースになったヤマトヒメミミズ
奈良ローカルのようなのですが、毎日新聞にヤマトヒメミミズが取り上げられました。「ヤマトヒメミミズ:生殖器官を自ら再生 奈良先端大のチーム初解明 /奈良」です。昨日、共同通信で配信されていたものは知っていたのですが、短いしその記事だけを読んでも誤解を招きそうな記事でしたが、さすがに毎日の記事はしっかり書かれています。
有性生殖をする時には、からだのあちこちに潜んでいたpiwi陽性細胞が、再生個体の中に作られる生殖巣(ミミズは雌雄同体なので、一つの体の中に精巣と卵巣があります)の中に潜り込んでいって、卵や精子のもとになるということを証明した論文です。
この研究が、すぐにヒトの生殖医療への応用へつながることはありえませんけれども、ヤマトヒメミミズのように驚異的な再生力を持っている動物でも、その生殖細胞というものがからだをつくっている他の細胞(体細胞)とは別に「取り置かれている」ということは、生殖細胞と体細胞というものがかなり質的に違うものであることを示しています。そして、そのことは、ヒトを含むあらゆる動物にかなり普遍的な事実のようなのです。そういう意味で眺めてみると、やはり重要な知見であるとは思います。
興味があったら読んでいただけると幸いです。
(研究したのは)先端大と理化学研究所発生再生科学総合研究センター(神戸市)、北海道大のグループ。高橋教授らは、90年代に国内で新種として発見されたヤマトヒメミミズが精子と卵子による有性生殖と、分裂して増える無性生殖の両方をする事実に着目。胴体を切断し、人工的に無性生殖を起こしたところ、10日ほどで、どの断片からも頭部から7~8番目の体節に、生殖器官ができることが分かった。また、奈良新聞というほんとうのローカル新聞も記事にしているのですが、ここがヤマトヒメミミズの有性生殖と無性生殖の使い分けについて意外と正しいことを書いてくれています。
メカニズムを調べると、体のあらゆる器官を作る体細胞とは別に、生殖細胞(精子や卵子のもと)に将来なる細胞が、体中に点在していると判明。さらに、無性生殖後、切断面近くにあるこれらの細胞が分裂を始め、再生された組織中へ移動。最終的に再生された7~8番目の節にたどり着き、生殖器官をつくることもわかったという。
ヤマトヒメミミズは、無性と有性の両生殖を可能とする極めて貴重な生物。普段は体を3~7個に分裂させて増殖する無性生殖だが、生息に厳しい環境下では有性化、遺伝子を組み替えて新たな環境に対応する子孫をつくる。原典はこちらです。
Current Biology図だけを見ても内容はすぐに理解していただけると思いますが、piwiという遺伝子を発現している細胞が、普段は生殖幹細胞としてヤマトヒメミミズの体内のあちこち(腹部神経索の上)に潜んでいることがわかりました。ミミズのからだは時折、無性生殖のためにバラバラになり、それぞれの断片から新しい個体が再生します。そうやって無性生殖だけで増えている時には、卵や精子は作られないのですが、環境条件によって有性生殖をする場合があります。
Volume 16, Issue 10 , 23 May 2006, Pages 1012-1017
Early Segregation of Germ and Somatic Lineages during Gonadal Regeneration in the Annelid Enchytraeus japonensis
Ryosuke Tadokoro, Mutsumi Sugio, Junko Kutsuna, Shin Tochinai and Yoshiko Takahashi
有性生殖をする時には、からだのあちこちに潜んでいたpiwi陽性細胞が、再生個体の中に作られる生殖巣(ミミズは雌雄同体なので、一つの体の中に精巣と卵巣があります)の中に潜り込んでいって、卵や精子のもとになるということを証明した論文です。
この研究が、すぐにヒトの生殖医療への応用へつながることはありえませんけれども、ヤマトヒメミミズのように驚異的な再生力を持っている動物でも、その生殖細胞というものがからだをつくっている他の細胞(体細胞)とは別に「取り置かれている」ということは、生殖細胞と体細胞というものがかなり質的に違うものであることを示しています。そして、そのことは、ヒトを含むあらゆる動物にかなり普遍的な事実のようなのです。そういう意味で眺めてみると、やはり重要な知見であるとは思います。
興味があったら読んでいただけると幸いです。
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by stochinai
| 2006-05-24 17:24
| 生物学
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