5号館を出て

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 奈良ローカルのようなのですが、毎日新聞にヤマトヒメミミズが取り上げられました。「ヤマトヒメミミズ:生殖器官を自ら再生 奈良先端大のチーム初解明 /奈良」です。昨日、共同通信で配信されていたものは知っていたのですが、短いしその記事だけを読んでも誤解を招きそうな記事でしたが、さすがに毎日の記事はしっかり書かれています。
 (研究したのは)先端大と理化学研究所発生再生科学総合研究センター(神戸市)、北海道大のグループ。高橋教授らは、90年代に国内で新種として発見されたヤマトヒメミミズが精子と卵子による有性生殖と、分裂して増える無性生殖の両方をする事実に着目。胴体を切断し、人工的に無性生殖を起こしたところ、10日ほどで、どの断片からも頭部から7~8番目の体節に、生殖器官ができることが分かった。
 メカニズムを調べると、体のあらゆる器官を作る体細胞とは別に、生殖細胞(精子や卵子のもと)に将来なる細胞が、体中に点在していると判明。さらに、無性生殖後、切断面近くにあるこれらの細胞が分裂を始め、再生された組織中へ移動。最終的に再生された7~8番目の節にたどり着き、生殖器官をつくることもわかったという。
 また、奈良新聞というほんとうのローカル新聞も記事にしているのですが、ここがヤマトヒメミミズの有性生殖と無性生殖の使い分けについて意外と正しいことを書いてくれています。
 ヤマトヒメミミズは、無性と有性の両生殖を可能とする極めて貴重な生物。普段は体を3~7個に分裂させて増殖する無性生殖だが、生息に厳しい環境下では有性化、遺伝子を組み替えて新たな環境に対応する子孫をつくる。
 原典はこちらです。
Current Biology
Volume 16, Issue 10 , 23 May 2006, Pages 1012-1017

Early Segregation of Germ and Somatic Lineages during Gonadal Regeneration in the Annelid Enchytraeus japonensis
Ryosuke Tadokoro, Mutsumi Sugio, Junko Kutsuna, Shin Tochinai and Yoshiko Takahashi
 図だけを見ても内容はすぐに理解していただけると思いますが、piwiという遺伝子を発現している細胞が、普段は生殖幹細胞としてヤマトヒメミミズの体内のあちこち(腹部神経索の上)に潜んでいることがわかりました。ミミズのからだは時折、無性生殖のためにバラバラになり、それぞれの断片から新しい個体が再生します。そうやって無性生殖だけで増えている時には、卵や精子は作られないのですが、環境条件によって有性生殖をする場合があります。

 有性生殖をする時には、からだのあちこちに潜んでいたpiwi陽性細胞が、再生個体の中に作られる生殖巣(ミミズは雌雄同体なので、一つの体の中に精巣と卵巣があります)の中に潜り込んでいって、卵や精子のもとになるということを証明した論文です。

 この研究が、すぐにヒトの生殖医療への応用へつながることはありえませんけれども、ヤマトヒメミミズのように驚異的な再生力を持っている動物でも、その生殖細胞というものがからだをつくっている他の細胞(体細胞)とは別に「取り置かれている」ということは、生殖細胞と体細胞というものがかなり質的に違うものであることを示しています。そして、そのことは、ヒトを含むあらゆる動物にかなり普遍的な事実のようなのです。そういう意味で眺めてみると、やはり重要な知見であるとは思います。

 興味があったら読んでいただけると幸いです。
# by stochinai | 2006-05-24 17:24 | 生物学 | Comments(7)
 札幌は朝から雨模様の一日で、まさに典型的なリラ冷えの寒い一日でした。幸い雨は昼頃までにはほとんど上がり、午後からあった「情報基盤センター情報ネットワークシステム学内共同利用委員会」へは、傘をささずに行けました。会議はとても覚えられないくらい長い名前ですが、「情報基盤センター情報ネットワークシステム」は通称HINESと呼ばれていますので、「HINES共同利用委員会」というわけです。

 北大にとっては、いまや電気や水道なみのライフラインとも言える情報ネットワークですが、つながって当たり前、何かがあるとすぐに不平不満が噴出するという因果な組織です。会議に出ていると、幸いなことに北大のネットワークはコンピューターやネットワークを愛する教員・職員の方によって献身的に維持されていることが良くわかります。しかし、その分その方々の出血サービスに依存しているところが多いこともまた感じられ、こりゃあ我々もできる限りは協力するしかないなと思わせられるものでした。

 このことは図書館についてもそう思っており、大学のインフラを支える組織をもう少し何とかしないと、人が入れ替わったとたんに崩壊する恐れがあるところが怖いです。もっとも、これは大学の研究体制についても言えることで、大学という組織をチェックするたびに、民間会社のように運営し維持発展させていきたいのなら、そのためのきちんとした体制がないとこの先持たないだろうと思います。

 逆にいうと、教員・職員の中にはかなりの割合で才能を持った人が存在しており、「さすが大学には人材がいるものだ」と感心することは多いです。しかし、いつまでもそうしたものに依存していると、ほんの何人かの優秀な人材がいなくなったとたんに大学全体がガタガタになるということも想定される綱渡りをしているということでもあります。

 そこのところを知ってか知らずか、特別支出が必要とされない「才能に依存する体質」はなかなか改まらないようです。

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 さて話題一転、午後6時からは今日もまた平成遠友夜学校に聴講に行ってきました。

 今日の講師は先日、カンブリアの話をしたYIさんと双子のかたわれ、AIさん(イニシャルはカッコいい)でした。

 擬態の話をするというので個人的興味もありましたし、それよりも双子の話の片方だけを聞いて終わりという状況にしておくと、後でどんなひどい目に遭わされるかが怖いというのが強い動機だったかもしれません(ウソです^^;、もちろん。ホントだとシバカレル・・・・)。

 AIさんも、YIさんに負けず劣らずしゃべりが上手いのでびっくりしました。最近は、2人を見分けられるようになったのですが、こうして話を聞いているとどっちがどっちだかわからなくなってきます。しゃべり能力は遺伝子が決めるのかとすら思えてきますが、生まれてから今までずっと一緒に育ってきた2人が似ていたとしても、その原因が遺伝子なのか環境なのかを見分ける術はなく、研究対象としては不適格な2人なのです。それはさておき、AIさんの話はとても修士1年生とは思えないくらい堂々として間の取り方が上手く、客席のいじり方などは天性のものなのか、見習うべきものを感じました。

 話の内容は、昆虫の擬態の展覧会から始めて、彼女が昔から好きだという絵画の話へつなげ、さらにダーウィンの進化論へと展開した話を現代のDNAの話へとつなげ、最後にそれらすべてを擬態の進化へと収束させていく論理展開は、なかなかのものでした。結婚詐欺になれる素質を感じます。

 ただ、客席に多かったシニアの方々に「分子遺伝学入門」はちょっとハードすぎたかもしれないとは思いました。それと、本人が楽しみすぎてシニアでもある私にも少々長すぎたと思いました。私はあの椅子に座らされるのは1時間が限界ではないかと思いつつ聞いていたのですが、他の皆さんは最後まで眠りもせずに一所懸命聞いておられたのにはちょっと驚きました。結局、私が一番根気のないシニアだったのかもしれません。

 今日は用があったので、この夜学校の売りのひとつであるQandAのデスマッチは聞けませんでしたが、それが楽しみで来られている常連さんもいらっしゃるようで、いつもながら楽しい雰囲気をちょっとだけ聞かせてもらって会場を後にしました。

 外はとんでもない寒さです。今夜はまた電気ストーブが活躍してくれるでしょう。良いのか悪いのか咲いた花が長持ちしそうな、寒い札幌です。
# by stochinai | 2006-05-23 20:49 | 生物学 | Comments(4)
 ネタフルで「坂本龍一、ポッドキャスティングをはじめる」という記事をたどっていくと、ITメディアニュースの「坂本龍一のポッドキャスト、世界に向け配信」にたどり着けます。
英語の楽曲、ビデオが収録されたポッドキャストを坂本龍一が世界に向けて公開している。

 リードだけ読むと、音楽とビデオのプロモーションかと思うのですが、さにあらず、反核メッセージなのです。

 stop-rokkasho.orgというタイトルからわかるように、青森県六ヶ所村にある核廃棄物再処理施設を象徴として、フランスやイギリスなどの核廃棄物の再処理に反対するサイトです。

 もちろん言葉でも反対論を書いているのですが、やはり音楽ビデオ写真による訴えがすごいと思いました。

 iTunesでダウンロードする方はこちらをどうぞ

 内容はすべて英語ですので、わからない部分があっても、とにかく芸術として完成していてカッコいいのです。

 世に倦む日日で「中島みゆきに九条の歌を - 小沢征爾をA9国際運動の指揮者に」と言っていたのを、よりスマートにするとこういうふうになるのかな、と思いました。

改憲阻止の戦いは関ヶ原だ。生きるか滅びるかの決戦であり、世界にとっても国連憲章の生死のかかった戦いとなる。金も人も時間も惜しんではいけない。大きな戦いにして大きく勝つことだ。一部の中高年左翼だけが小さく地域で集まる護憲読経運動のレベルに終わらせてはいけない。

# by stochinai | 2006-05-23 17:08 | つぶやき | Comments(0)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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