5号館を出て

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 今朝の朝日新聞に、おもしろい記事が載っていました。「『ウィキペディア』の不利益情報、楽天証券社内から削除」です。

 ウィキペディアについては、誰でもが編集できるから内容が信用できないとか、いや逆にそれだからこそどんどん修正が加わりアップデートが繰り返されるので信頼できるとか、いろいろな評価があります。私は、ある程度のリテラシーを持った人が使う限りはとても有益な情報ソースになるという「評価派」です。

 そのウィキペディアに「楽天証券」という項目があるようです。現代用語の基礎知識というようなものならいざ知らず、普通の百科事典に楽天証券などという項目が載るのはしばらく後のことになるでしょう(あるいは載らないでしょう)から、それだけでもウィキペディアの価値は高いと思います。

 さて、その項目の内容なのですが、どうやら楽天証券の内部の人間によって手が加えられ、楽天証券に不利な記述が削除されていたということが発覚しました。

 たとえ楽天証券の社員であれ社長であれ、ひとりのボランティアとしてウィキペディアの編集に参加することは可能ですし、責任ある編集をしているのであれば褒められるべき行為だと思います。しかし、それが楽天証券の汚点記事を削除するという行為であったならば、これは完全に情報のねつ造であり、場合によっては犯罪を構成するかもしれません。少なくとも倫理的には完全に黒の行為です。

 中途半端なITリテラシーしか持っていない人だと、インターネットの上で何かをしている時に、どこの端末からどのような行為をしているのかとか、場合によってはどのような内容のメールを出しているのかというようなことが「見えてしまう」ということに気がついていないかもしれません。今回の件も、ウィキペディアの当該箇所(同社への行政処分情報や同社が非常にサーバーダウンが激しいこと)を削除したのが、登録されている某氏であり楽天証券の内部にあるコンピューター端末から削除を行ったということがウィキペディア側に記録されていて、その情報が公開されていたために発覚したのです。

 おもしろいのは、この事件のことが件のウィキペディアの楽天証券の項目に書き加えられてしまっていることです。
ネット証券Blog2で指摘され、テクノバーン社の記事でもそのことをが取沙汰されたが、楽天証券に割り当てられているIPアドレスをソースアドレスとする端末(後に、楽天証券の従業員が社内から行ったものであるという調査結果が、楽天証券側から出された)からの投稿により、楽天証券に都合の悪い箇所が改変されているとの指摘があった。指摘されているのは、楽天証券とマーケットスピードの二つの記事である。なお、朝日新聞8月31日付朝刊(第2社会面)やITmediaでも、この件が報じられている。
 【追記2006年9月5日】9月5日現在、Wikipediaの当該項目には削除依頼がだされております。この引用文自体が、ITmedianewsからの盗用(コピペ)だったのではないかという疑惑が持ち上がったためのようです。負け惜しみではありませんが、こういう不幸な「事件」に速やかに対処してがんばっているところもWikipediaの良いところだと思います。【追記ここまで】

 これはすごいことだと思います。今までの百科事典やさまざまな情報ソースに、これほどの公開制・透明性を持つものがあったでしょうか。

 「インターネットにある情報は便所の落書きのようなものでまったく信用できない」などという意見が知識人と言われる方々の口から発せられることも多いのですが、今回の「事件」を見る限りにおいては、インターネットで提供される情報がいかに衆人監視の下にあって、間違いやねつ造があっても速やかに修正される可能性が高いことが証明されたエピソードになると思います。

 それとともに、ある程度の認証システムさえ持っていれば、インターネットでは、それほど徹底的に身元を隠すことができるものではないということも示されました。こうしたことがしっかりと教育されていけば、バカなことをするユーザーも減っていくと思われ、「インターネットでは人々が完全に匿名で活動できるので、すぐに炎上が起こってしまう無法地帯だ」などという安易な非難も消えていくのではないでしょうか。

 私には、今回の事件はインターネットの信頼性をグーンと上げてくれた「素晴らしい事件」だったと思えます。
# by stochinai | 2006-08-31 23:01 | コンピューター・ネット | Comments(16)
 科学コミュニケーションブログ、K_Tachibana さんのところで教えてもらいました。国立大学の博士課程定員が、なんと51年ぶりに定員減となったとのことです。
 文科省によると、国立大の博士課程入学定員は56年度の2304人から年々増え続け、96年度には1万人を突破。2003年度以降は年100人前後の「微増」が続いていた。
 これは定員で見ているので、来年から博士課程の入学者が減少が始まるように思われるかもしれませんが、実は全国の大学院での博士課程への進学者数は2003年度をピークにすでに減少に転じているという事実があります。数字で見る博士課程修了後という「博士の行き方」サイトから引用させていただきます。このデータは国立大学のものだけではないと思いますが、博士課程定員の大多数は国立大学にありますので、傾向はそれほど違わないと思います。
 平成15年度の進学者数が18232人をピークにして、平成16年度は17944人、平成17年度17553人と徐々にではありますが、減少する傾向にはあるようです。

 理学に関しては一度、平成13年度に減少に転じておりますが、工学・理学とも、平成15年以降、再度、減少に転じているのが理解できると思います。
 ということで、実は学生が数年前から博士課程への進学を避けるようになっているという現実があるのです。私のまわりを見てみてもこの傾向は極めてはっきりと感じられるようになっており、さすがに定員割れとまではいかなくても、10年くらい前には定員の2倍もの進学者がいたことを考えると隔世の感があります。

 つまり、この数年のギャップの間には、博士課程の定員割れがあちこちの大学や研究科で起こっていたということを意味しています。大学教員として大学院に籍を置いてみると良くわかるのですが、大学院の定員割れというものは文科省から最低の評価を受けることとして、大学内でもっとも忌み嫌われていることのひとつです。

 私は何かというと、博士課程の定員を減らすべきだという意見を発してしまうのですが、大学の経営にたずさわっていらっしゃる方々には、定員減あるいは定員の不充足ということは、そのまま文科省からの運営交付金の減少すなわち大学経営の危機につながることに見えてしまうようで、いつも即座に却下されてしまいます。

 そういう状況であるにもかかわらず自ら定員減を選んだ大学院があるということは、もはやいかなる手を尽くしても定員を充足することはかなわないという敗北宣言だと思います。それが表に出てきたということは、全国のかなりの国立大学でも同様のことが起こり始めていると見るべきでしょう。

 しかし、博士課程に進学するということを選ぶ学生が減ったことを受けて、それを追認するように定員を削減するというのでは遅すぎるのです。

 ここは、思い切って希望者をはるかに下回るところまで定員を下げて、ある意味でのシビアな競争を課し、そのかわり博士課程に入学することができた者には、しっかりとした研究者になる訓練を行い、それに応えてくれた学生には少なくとも10年間くらいは安定して勤められる研究職を与えるというような状況になったら、状況は大きく変わると思います。

 前にも書いたと思いますが、もはや国立大学の理学部などでは修士は義務教育化しています。それはそれで良いと思いますが、その中から大学や研究所の後継者を育てるのが博士課程というふうに発想を変えてはどうでしょう。

 このまま進学希望学生の減少に引きずられるように、徐々に定員を減らしていくようなことを続けていくのでは、ただただ疲弊して死をまつのみだと思います。大学経営を考える皆さまには、ここらで発想を転換して、攻めの制度作りをお願いしたいと思います。
# by stochinai | 2006-08-30 21:25 | 大学・高等教育 | Comments(8)

海底の二酸化炭素プール

 空気中の二酸化炭素を液体にして海底に沈めると、圧力でその状態が維持されるので封じ込めることができるという話しを聞いたことがあります。
CO2は水深2400メートルより深くでは液化して海底へ沈むため、地球温暖化対策の一案として深海底へ封じ込める技術が研究されている

 物理のことがよくわからない私は、ドライアイスと水の反応しか見たことがありませんので、そういう話をきいても今ひとつピンとこなかったものです。

 ところが、このたび海底で実際に液化した二酸化炭素の「プール」が発見されたというニュースをテレビでやっていました。各紙でも報道されているようです。
 沖縄県与那国島沖の水深1380メートルの海底で、液化した二酸化炭素(CO2)が閉じこめられた「プール」を、海洋研究開発機構のグループが有人潜水調査船「しんかい6500」を使って見つけた。CO2を分解する微生物が生息することも確かめた。
 驚くべきはこの「浅さ」で、事実は理論を越えていることがあっさりと証明されています。今回はプールの上に「蓋」ができていたために、二酸化炭素が浮かんでいかなかったようで、映像では「蓋」に穴を開けたところ中からモヤモヤと液化二酸化炭素が漏れて上に上がっていっていました。すごい映像です。

 このプールには液化メタンも含まれているようで、付近にはメタンや硫黄をエネルギー源として二酸化炭素を分解する微生物がいることもわかったということです。

 これはおもしろいですね。二酸化炭素を海底に封じ込めるだけではなく、それが微生物によって代謝されてしまうということになれば、生態系を見る目が変わってきてしまいます。

 ところで、朝日新聞では「メタンや硫黄をエネルギー源とし、CO2を分解する微生物」と書いていますが、二酸化炭素は本当に分解されるのでしょうか。読売では「二酸化炭素やメタンなどを取り込んで生きる微生物」となっていますし、フジサンケイビジネスでは「CO2とメタンをエネルギー源とする微生物」です。微生物は化学合成細菌だとすると、二酸化炭素を使って有機物を合成しているのではないかと思われますが、どなたか専門のかた、教えてください。ヘルプ。
# by stochinai | 2006-08-29 21:20 | 科学一般 | Comments(8)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


by stochinai