5号館を出て

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 GEOにはそれほど本数が入っていなかったので、旧作に落ちてからもなかなか借りることができなかったのですが、ようやく借りて見ることができました。週末DVD映画館第1幕「ニュースの天才(Shattered Glass)」の開場です。

 ところが、期待が大きすぎたこともありますが、映画としてはそれほど良くできたものではないと思いました。その大きな原因のひとつが実話に忠実に描こうとしたことだと思います。世の中にある実際の話のほとんどはそれほどおもしろいものでもないし、そこかしこに矛盾だらけの行動をする人間が出てくるのも、いかにも事実をそのまま描いたせいだろうと同情してしまうほどでした。

 映画としておもしろくしかもしっかりしたものにしたければ、事実をそのまま描くだけではダメだということでしょう。いかにも本物らしい迫力を出すためには、事実をそのまま右から左へ出すだけではダメなのだという教訓は、映画のテーマと考え合わせるといかにも皮肉ですが。

 原作者でもある主人公は、おそらく読者におもしろい記事を提供しようというサービス精神が人一倍旺盛な人間だったのだと思います。ただしそれと同時に、ニュースとエンターテインメントの区別がつかない非常識人間でもありました。

 ニュースも読まれてこそ意味を持つものですから、読まれないのではニュースを発信する意味はないという意見にも一理あります。そして、読まれるためにはおもしろい記事を書き続けて、あいつの各記事はおもしろいという評判を取る必要がある、と主人公は思ったのかもしれません。おそらく同時に、名声とお金も欲しかったのだと思います。

 いずれにしても、人をだまし続けるための才能があったことは間違いありません。

 また、だまされた側の同僚、会社、そして読者も、それだけ長い間「ニュース」のねつ造を許し続けたということは、本当か嘘かということよりも、おもしろいかどうか、売れるかどうかということが評価の基準として重視されていたということも推察されます。

 この映画をみていて、昨今の科学論文捏造事件を思い出しました。

 我々の研究が論文になる時と同じように、実験ノートに相当する取材ノートが重要だというシーンが何度も出てきて、記事に疑いが生じた時に編集長は取材メモを提出させてチェックすることとニュースソースとのコンタクトをとろうとしますが、そこまで追いつめられると主人公は取材メモを偽造し、存在しないニュースソースのホームページを作ったり、弟にニセ電話をさせるということまでも始めて、崩壊への道をたどることになります。

 科学論文のねつ造事件の時にも、実験ノートのチェックが要求されるとともに、そこではっきりしなければ再実験をして結果の再現性の証明が求められます。実験ノートがなかったり、実験が再現できなければ、研究者としては引退してもらわざるを得ません。

 ニュースでは編集者や法律家さらには専門のチェック係が記事をチェックしているにもかかわらず、ニセ記事を根絶することはできません。科学論文でも、研究ボスやレフェリーや雑誌の編集者のチェックをへても、ねつ造論文を根絶することはできません。

 この映画に教訓があるとすれば、ライバル会社の調査からねつ造が暴かれ始めたということです。東大の論文捏造事件でもいわばライバルとでもいうべき同業研究者の学会からねつ造疑惑追求が始まっています。

 倫理教育や罰則強化も無駄だとは言いませんが、この「正常な競争環境」こそが不正を防ぐ大きな力になることを、我々はもっと意識して良いと思います。

 マスコミにしろ研究の世界にしろ、大きなところが一人勝ち状態になっていることが不正を生む温床になりがちですので、たくさんのライバルがある程度の力を持って並立し、緊張感のある状況になっていることが必要だと思います。

 そういう意味で、カラオケジャーナリズムと言われようと一億総ジャーナリストと言われようと、インターネットを通じて誰でもが簡単に意見を表明できるようになってきた今の状態は、ジャーナリズムの不正を防ぐ良い環境だと言うこともできるでしょう。

 同じように研究の世界でも、中小の研究室が研究を続けることのできる環境を取り戻していくことが、論文のねつ造を防ぐひとつの方策となりうると思います。

 また、例によって我田引水的な結論になってしまいましたが、人間のやることですから、ジャーナリズムも研究もそんなに違う構造にはなっていないと感じさせられた映画でもありました。
# by stochinai | 2006-04-08 23:46 | つぶやき | Comments(0)
 昼頃、CoSTEP関係者の方からメールがあって今日の午後8時からNHK北海道のローカル放送で「5月のサイエンスカフェで、ゲストとして登場して頂く、工学部の永田晴紀先生と『CAMUIロケット』に関係した番組が放映されます」とのことだったので、見てみました。

 金曜日のこの時間帯は「北海道スペシャル」の時間だと思っていましたが、同じ時間に「ホンネで北海道」という視聴者参加番組や「北海道ひと物語」というものが放送されているようです。

 今日の番組は「北海道ひと物語」でした。
宇宙(そら)への夢をかなえたい
~町工場の挑戦者・植松努さん~

 もちろん、CAMUIロケット打ち上げのプロジェクトリーダーである永田晴紀さんも登場したのですが、彼はあくまでも脇役で、主役は昔の産炭地である北海道の片田舎・赤平で従業員14名の「町工場」の専務である植松努さん(39歳)でした。

 この人が、実に絵になる人で感動しました。

 「天空の城ラピュタ」をこよなく愛する植松さんは、子どものころから飛行機やロケットにあこがれ続け、小学校では算数の成績が悪かったにもかかわらず、努力を重ねて大学へ進学し、三菱重工でロケット関連の仕事を勝ち取ったといいます。それだけでもすごいと思うのですが、家業の工場を嗣ぐために三菱を退職して戻って来た後もロケットに対する夢を持ち続けていたところへ、北海道大学で開発していたロケットの話に出会ったということです。

 ちなみに植松さんの会社の植松電気は工業用磁石製品を開発している会社で、ホームページを見る限り、そこそこ経営はうまくいっているようです。

#余談ですが、この会社の採用案内が最高です。「右利きであること」を条件にしているのは、ちょっとどうかな?と思わないでもないのですが、以下に身体的条件を再掲します。
喫煙経験がないこと
ピアス、茶髪など不可
右利きであること
金属アレルギー、腰痛などの慢性的持病がないこと
 とまあ、頑固な親父さんが個人経営していることが伝わってくる会社もなかなかユニークだと思うのですが、植松さんが会社の仕事とは直接関係がなさそうなしかもとても儲かるものとは思えないロケットの仕事をやろうと思ったのは、これはもう自分の夢のためとしか思えないところが素敵です。

 会社のメインの仕事に関しては番組にはほとんど出てきませんでしたが、そちらでそこそこ儲けていればこその道楽のようなロケット開発にかかわっていられるのではないかと思え、こんな田舎の中小企業でもそんな余裕のある生き方ができるという植松さんの人生がうらやましく思えたものです。お金儲けだけではなく、ゆったりと商売と生活を楽しむことができるというのが田舎の良さなのかもしれません。

 ロケットエンジンの燃焼実験の失敗や成功で一喜一憂している植松さんおよび開発チームの様子もとても共感を覚えましたし、実に楽しそうです。

 巨大な予算と巨大な設備で打ち上げる巨大プロジェクトとしてのロケット開発ではなく、試行錯誤しながら手作りで改良していくロケットは、まさにローテクなものだと感じましたが、それだけに携わっている人間に近い存在であり、愛着も人一倍なのだろうと思います。

 番組の中で、植松さんが小学生に模型のロケット作りと打ち上げを指導するシーンが出てきましたが、彼が飛ばそうとしているロケットと、子どもたちが飛ばしたおもちゃのロケットの間には科学技術としてのギャップがないのです。おもちゃのロケットを飛ばしてはしゃいでいた子どもたちは、植松さんが飛ばそうとしているロケットを見れば、自分も飛ばせるあるいは飛ばしてみたいと思ったに違いありません。

 子どもたちに科学を伝える時に、この手が届くところにある科学・技術ということの教育的効果の大きさを強く感じさせられました。どんなにすごいものだとしても、NASAのロケットの製造現場や打ち上げを見せられたとしたら、確かにすごいと感動するでしょうが、子どもたちは自分にもできるという感覚は持てないのではないでしょうか。

 ローテク・サイエンスの力というものを思い知らされた良い番組でした。

 今、この時点で試行錯誤している技術者の物語は、成功が約束された過去の話を掘り起こしていたプロジェクトXを越えていたと思います。
# by stochinai | 2006-04-07 21:42 | 札幌・北海道 | Comments(5)

スイセン

 ここのところ寒さが戻ってきている札幌で、毎日雪が降っています。しかし、日が照り出すとさすがに暖かさを感じます。

 雪のおかげで、背景がきれいになった庭のスイセンです。
スイセン_c0025115_15114473.jpg

# by stochinai | 2006-04-07 15:11 | 札幌・北海道 | Comments(0)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


by stochinai