5号館を出て

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Wikipediaの実力

 ちょっと前にNatureが Encyclopedia Britannica と比べて Wikipedia が決して劣ってはいないというような記事を書いて、Britannica がNatureに抗議をしたというようなニュースが報道されていました。

 Natureは05年12月15日号の記事で、科学分野の42項目について、正確性を調べたところ「両者とも重大な誤りが4件見つかったが、小さな誤りや漏れ、誤解を招く表現は、ブリタニカが123件、ウィキペディアが162件で、大差はない」と伝えていたのが、Britannicaの気持ちを逆なでしたと思われます。

 少なくとも記事数で見る限り、ブリタニカの市販版は10万項目ですが、英語版の Wikipedia は3月1日現在で998,224という項目数に達しています。日本語でもすでに186,964ありました。4月11日のニュースでは「Wikipedia日本語版、20万項目を突破」と報じられています。英語版はすでに100万項目を越えています。

 項目数ではもはや比較にならない状況にあります。ライターをはじめとして、いろいろな人の話を聞いてみても、取材はまずWikiから開始するという人がたくさんいるようです。

 どんなに権威があるとしても、たった10万項目しかない事典と、多少のリスクは覚悟したとしても100万項目があるもののパワーはちょっと考えても比較になりません。しかも、ご覧になればわかりますが、多くのWikiの項目はかなりのボリュームがあるのです。

 もう事典はいらない時代になってきたのだなあなどと思いながら日々を過ごしておりましたところ、今朝卒業生からメールが届いていました。

 1年前に博士号をとって卒業したY野君からです。
なんとなく自分の論文について検索してみたら、英語のWikipediaが引っかかってビックリしました。Telencephalonという項目の一番下のCell regenerationに載っています。

 そもそもTelencephalon(終脳)などというものが独立した項目になっているというのが、マニアックです。日本語のWikiだと「終脳」は「脳」という項目の一部に過ぎないのですが、さすがに100万項目の事典は違います。

 そして、そこにY野君が中心になって研究した、アフリカツメガエルで行った終脳の再生についての論文が、かなりのスペースを割いて解説されているのです。しっかりと大学の名前までもクレジットされています。(北大広報課の方、見てますか。^^)
In a study of the telencephalon conducted in Hokkaido University on African clawed frogs (xenopus laevis), it was discovered that, during larval stages, the telencephalon was able to regenerate around half of the anterior portion (otherwise known as partially truncated), after a reconstruction of a would-be accident, or malformation of features.
(今、気がついたのですがIEは、ここの英語部分でもワードラップしてくれませんね。Firefox, Sleipnir, Operaはすべてがワードラップします。さらに、後で気が付いたのですが、スキンが変わるとIEでもワードラップする場合があります。なんとも難しいものです。)

 もちろん、どこのどなたが書いてくれたのかわかりませんが、素直にうれしいと思いました。内容に関してはも、我々が手を入れることができるというのもありがたいところで、近いうちに実験をやった当人でもあり、論文の筆頭著者でもあるY野君が自ら改訂してくれるのではないでしょうか。

 また、あり得ない話とは思いますが、これがもしもBritannicaだったら、確かに名前入りで掲載されることはこの上もない名誉ではありますが、もしも間違いを発見したとしてもそれを訂正することは簡単ではないでしょう。

 というわけで、多少の不正確さという犠牲があったとしても、大量(事実所無限)の項目を速やかに載せられること、もしも間違いがあったとしても速やかに訂正が可能であること、などを考えると事典というものはもはや、Britannicaのような権威によるものではなくて、Wikipediaのようなフットワークの良いものが事典の世界を席巻していくことは間違いないと実感させられるエピソードでした。
# by stochinai | 2006-04-17 21:58 | コンピューター・ネット | Comments(5)

老人と園芸

 今日は時折小雨がばらつく寒い一日でしたが、庭の雪もほとんどなくなったため、今年最初の本格的庭いじりをしました。外で思い切り土とたわむれることができるのは、ほんとうに幸せなことです。

 この冬の大雪で、庭木やバードテーブルなどの被害が出ています。雪対策で木をしばっていたロープはすでにはずしてありますので、初日の今日はまず被害の後かたづけでした。

 タニウツギやイチイ、カエデ、アセビなどの被害が大きく、特にタニウツギは3本あった主枝がすべて真ん中から折れてしまいましたので、回復するかどうか微妙かもしれません。何年かに一度でもこういう大雪があると、寒さや雪害に弱い木はどんどん無くなっていくのでしょう。

 折れた枝をまとめてから、バードテーブルの修理をしました。激減したとは言え、この春にスズメが繁殖するのをなんとか支援してやりたいと思って、心を込めて直しました。しかし、ひさびさの大工仕事だったために、ハンマーで指をたたいてしまい、何十年かぶりで血豆というものをこしらえてしまいました。今の子どもたちにはすでに死語かもしれませんが、私も久しぶりに現物にお目にかかってなんだかなつかしい思いをしたものです。

 あとは、プランターから凍死してしまった植物を抜いて土を出した後に、種まき用の苗床をひとつだけ作ってみました。種も少し手に入れましたが、札幌では玄関の風除室でもまだ芽の出る気温には達していないようですので、オクラなどは撒いても芽が出なさそうです。
老人と園芸_c0025115_093893.jpg

 私は子どもの頃から、動物を育てることだけではなく、園芸(というか植物を育てること)が好きな変なガキでしたが、昔から園芸は「年寄りの趣味」と言われていることの意味が、土とたわむれている間に天恵のごとくにひらめいてしまいました。

 人は年齢を重ねるに連れて、一年がどんどん早く過ぎると思うようになるとは良く聞く話です。これを逆に考えると、人は年寄りになるほど時間が早く過ぎると感じるようになるということではないでしょうか。

 また一方で、植物というものは、見ていても動くものではなく、一般に成長のスピードも遅いですから、気の短い人とはペースが合わないのではないかと思います。つまり、老人になると植物の成長スピードでも十分に速く感じられるようになることが、園芸を愛する人に老人が多いということと符合するのではないでしょうか。

 私は若い頃、だんだんと死へと近づいていきつつあるはずの老人が、やたらと時間のかかりそうな園芸や盆栽などの趣味を持つということに大きな疑問に持っていたのですが、自分がそちらの集団へと近づいてきてようやく悟ることができたような気がします。

 このアイディアにはなんだか自分自身ですごく納得してしまったものですから、ここに記録をとどめておきます。

 皆さんは、この「仮説」をどう思われますか?
# by stochinai | 2006-04-16 23:41 | 趣味 | Comments(7)

映画「アイランド」

 劇場で公開された時に。映画を見た学生が否定的な感想を言っていたような記憶があったので、ほとんど期待せずにDVDを見てみました。

 期待しないで見たせいもあったのかも知れませんが、意外と努力して作っているなあというのが最初の感想でした。個人的にスカーレット・ヨハンソンとユアン・マクレガーが好きな俳優だったというところが影響していたかもしれません。

 不必要にアクション・シーンが多いという気がしないわけでもないのですが、これはクローンを題材にしているものの基本的には派手さを中心に据えたアクション映画であると見るならば、それはそれでこういうものなのだろうと納得もできました。

 ダイ・ハードとかスター・ウォーズとかスワットとか、過去のドカン・ボカン映画をよく見て勉強して(パクって)作った映画だなあと、画面そのものに感動するよりは、その姿勢に感動してしまう場面が多かいと感じました。また一方で、そこかしこに渋い映画からのパクリ・シーンもあり、特にスティーブ・ブシューミが出てくるといきなりB級映画の渋さを漂わせたりするあたりは、監督さんは本当にいろいろな映画を見て勉強していることを感じました。そういう意味で、日本の監督にお金を持たせたらこんな映画を作るのではないかとも感じました。

 一方で、クローンを題材にしているわけで、そちらの方でもなかなか良く勉強をしていることは感じられました。

 もちろん、クローンを2-3年でドナーと同じ年齢の大人にまで育ててしまうあたりや、指紋や顔(眼底血管?)などを利用した個人認証システムで、本当ならば別人とされるはずのクローンを同一人物と認識してしまうところなど、超科学(非科学)SF的な危うさはそこかしこにあるのですが、それでもなお「なかなか良く勉強しているじゃないの」とほめたくなりました。

 しかしながら、できるならばコーステッパー(私が、勝手に北大CoSTEP卒業生をそう呼ぶことにしました)のようなコミュニケーターを制作スタッフに入れて、映画でも正しい科学コミュニケーションをやってもらえるようになって欲しいとも思いました。

 話は変わりますが、半年のCoSTEP一年目を終わって感じていることのひとつに、科学者をコミュニケーターにしなくてはならないということの他に、科学アーティスト、科学映画人を育てるということもやってみたいと思うこともあり、今後は「科学コミュニケーションとしての娯楽映画」ということも考えて行きたいと思っています。

 さて、月曜日はCoSTEP第二期生の第一次募集の締切です。今年はどんな人が集まってくれるのでしょうか。不安とともに楽しみでもあります。
# by stochinai | 2006-04-15 23:57 | つぶやき | Comments(13)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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