5号館を出て

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愛すべき日本という国を

 今年もまた理学部総合博物館の前のクロフネツツジが美しい季節になりました。
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こちらは去年の同じ場所の9日後の風景(クリックで拡大)
愛すべき日本という国を_c0025115_13172635.jpg

 誰でもが、そこそこ幸せに暮らすことができて、こんな風景をのんびりと眺めることができる国であるならば、子どもたちに「日本という国を愛しなさい」などと命令しなくても、みんなきっと日本を愛するようになってくれることでしょう。

 こんなにきれいな風景があるのに、そのまわりで小学生が遊び回り、中学生がスポーツをして、高校生がデートをし、大学生は読書をする。そんな光景が見られないのはどうしてなのでしょう。

 子どもたちは土日が休みと言っても、外で一緒に遊んでくれる両親がいるとは限りません。町内に一緒に遊んでくれる、お兄ちゃん・お姉ちゃんもいません。ひとりで遊んでいると、さらわれてしまったりします。

 小学校から英語を学ばせようということに母親の多くが賛成しているのは、子どもたちに受験で苦労をさせたくないからというだけの理由だと思います。国際化とか早期教育とかはどうでも良くて、苦労せずに高校・大学に入って欲しいということではないかと思います。

 どうして、高校や大学にはいらなければならないかというと、高校や大学くらい出ていないとその先に安定した生活が保障されないからです。最近それでも、ダメだったりすることもあるようですが。

 政府が競争を奨励して、落ちこぼれた「負け犬」の生活が苦しくなっても仕方がないなどということを言っているようでは、国民の一人一人が自分だけは浮き上がろうとお互いの足を引っ張り合うのも無理はないでしょう。

 なんとか生き残るために小学校から塾通いをさせられて、美しい日本の風景の中でのんびりと遊ぶことも許されないのに、その国を愛しなさいと言っても、それは無理というものでしょう。無理を強要して育てた子どもたちの何人かは、必ず社会に対して報復をするようになると思います。

 すでにその報復は始まっている、というのが私の見解です。教育基本法の改正と、教育現場における遵法指導その監視をすることは、さらに状況を悪くするような気がしてなりません。

 どうせなら、子どもたちをのびのびと育てるための法律でも作ってください。
# by stochinai | 2006-05-19 22:02 | 教育 | Comments(2)

札幌農学校第2農場

 昨日、関東地方と神戸方面から研究打ち合わせのためにお客さんがいらしてくれました。

 向こうは梅雨の入り口なのかここのところ夏を前にうっとうしい季節になろうという時ですが、こちらはここからが一年でもっとも良い季節なので、研究の打ち合わせも大切ですが、北大・札幌・北海道を楽しんでくださいという気持ちもありました。

 幸い、昨日までの数日は北海道人としてはちょっと暑すぎですが、本州からいらっしゃる方にはちょうど良い暖かさということもあり、打ち合わせ会議の前後には北大の自然を楽しまれていかれたようで、幸いでした。

 そんな中、つくばから来られたM川さんが、これぞ北大らしい一枚という写真を送ってくださったので転載させていただきます。
札幌農学校第2農場_c0025115_1624520.jpg
 こうして写真にされてしまうと、さすが北大にはこんな牧歌的で美しいところがあるのか、という感じです。場所は全学教育センターの北側、遠友学舎に隣接する重要文化財「札幌農学校第2農場」の一部ですね。前を通り過ぎることは結構あったりするのですが、のんびりと中まではいって見る機会はほとんどないのですが、こうしてみると美しいですね。

 北大の美しさは、外から来られた人に聞くのが良いということが良くわかりました(^^;)。

 解説によると、右の建物は「釜場」、左の建物は「製乳所」だった建物のようです。

 朝もやの中を散歩でもしたら、最高ですね。
# by stochinai | 2006-05-19 16:12 | 札幌・北海道 | Comments(2)
 オンラインで誰でもが自由に最新の論文を無料でアクセスできる学術専門誌で、質量ともに超高額の有料専門誌におとらないPlosBiologyの最新号におもしろい論文が載っています。

 PlosBiolgyというくらいですから、生物学の論文が載る雑誌に、まったく生物学とは関係のない「オープンアクセスになっている論文は、そうではない論文よりも引用される頻度が上がる」ということを示している論文が出ているのです。

 Citation Advantage of Open Access Articles というその論文はもちろん、世界中の誰でもが自分のコンピューターから全文を読むことができますし、pdfファイルも無料でダウンロードできますので、是非とも読んでみてください。原著を読むのはちょっとつらいということでしたら、同じ号にOpen Access Increases Citation Rate という編集者による解説記事があります。

 オープンアクセスというのは、とりあえず(ネット上で)無料公開することと理解しても良いと思うのですが、オープンアクセス論文と非オープン論文のどちらが、他の研究者により引用されやすいかということを科学的に証明するのはなかなか難しいので、どちらかというと両方のスタイルの支持者が自分の好きな論文発表方法が優れているのだと勝手に主張してきたというのがこれまでの経緯です。

 ところが非常に権威のある雑誌のPNASにおもしろいシステムがあります。PNASでは、基本的には購読者(あるいは購読機関サイト)しか全文を読むことはできないのですが、ところどころに青い色が付いているOPEN ACCESS ARTICLEというものがあります。これは著者が投稿する時に$1000払うことで、出版とともにオープンアクセスできるようになるというオプションを選んだ論文です。ただし、PNASは偉い雑誌なので、オープンアクセスになっていない論文も半年後からは誰でもが自由に読めるようになります。

 Citation Advantage of Open Access Articles の著者であるGunther Eysenbachさんは、この制度に目をつけてPNASでオープンアクセスになっている論文とそうではない論文が、どのくらい引用されるかを比較したのです。同じ雑誌の中にある論文の比較は、かなり客観的なものだ考えられますから、この結果は重要です。
OA articles compared to non-OA articles remained twice as likely to be cited (odds ratio = 2.1 [1.5–2.9]) in the first 4–10 mo after publication (April 2005), with the odds ratio increasing to 2.9 (1.5–5.5) 10–16 mo after publication (October 2005).

 つまり、オープンアクセス論文は印刷後の最初の4-10ヶ月で非オープンアクセス論文の2.1倍引用されるだけではなく、この雑誌は印刷後6ヶ月からはすべての論文がオープンアクセスになるにもかかわらず、10-16ヶ月後でも2.6倍も引用され続けるという結果です。

 いちおう、PNASに載る論文の学問的レベルは査読制度によってある程度以上に保たれていることを考えると、この引用頻度の差は最初の6ヶ月の間オープンアクセスにしたかそうではなかったかによると結論しても良いと思われます。

 自然科学研究者の論文は、インパクトファクターという魔物によって支配されていて、ポストや研究費を獲得する際に隠然たる力を持っているという現実があります。インパクトファクターというのは雑誌が印刷されてから2年以内にどのくらい論文が他の人に引用されたかということを元にはじき出している数字なので、今回の論文の「インパクト」は大きいものだと思います。

 この論文では、オープンアクセスを雑誌のサイトではなく、個人のサイトや機関リポジトリで行った場合にはどうかということにも言及していますが、効果がないわけではなさそうとは言えるものの、やはり雑誌に載った段階でオープンになっていることの効果には遠く及ばないとも解析しています。

 私としては個人のサイトで論文を公開したり、機関リポジトリで公開するということはいわゆるロングテイル効果や、あるいは個々人の研究をを個人レベルあるいは機関(大学)でとらえ直すということに価値があると思っていますので、この論文で言っているように出版直後の引用の改善に役立つというような視点はちがうのではないかと思っていました。

 そういう意味でも、この論文は、オープンアクセスについてなんとなく思っていたことを「科学的に証明」してくれたという点でとても力づけられる解析をしてくれたと思います。

 やはり、科学論文は無料で世界中の人に公開されるべきなのです。しかし、それでは出版社が損をして雑誌が出せなくなるというのなら、出版社なしでそれを可能にする道を模索すべきです。

 そして、それを実現しているのがこの論文の載っているPlosJournalsなのです。答は出たと思いませんか。

【追記】
 そうなんです。こういうしくみは悪くはないのですが、その周辺で生活している人の収入を確保しておかないと、このしくみ自体を維持することが難しくなります。というわけで、マルセルさんの「どうやって御飯を食べるのか?」を読んで、またみんなで考えましょう!
# by stochinai | 2006-05-18 22:16 | 科学一般 | Comments(9)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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