2006年 03月 07日
研究者にとっての機関リポジトリ
先週の金曜日に、付属図書館講演会「学術情報流通の世界的動向と大学」などという大げさな場で講演してしまいました。内容は昨年、動物学会に関連シンポジウムとして開催されたSPARC/JAPAN連続セミナ-「電子ジャ-ナル時代の学術情報流通を考える」で発表した「インターネット時代の研究者と論文 - アクセス、投稿、公開 -」とほとんど同じで良いとのことだったのですが、さすがに半年もたつとインターネットの世界はかなり様変わりしているもので、さすがにそのままではまずいと、いろいろと手直しをしたのものの、やはり準備不足は否めず、正直に言って話題提供者としてはちょっと不完全燃焼でした。
聞きにいらしてくれた方のほとんどは、道内外の図書館関係の方だったようですが、私にとっては非常に重要なお二人が聞きに来られ、その感想を書き残してくださったことが大きな収穫になりました。
お二人とは、CoSTEPのライターNさんと、おそらく北大でも屈指の実践的情報技術をお持ちの数学科のNさんです。CoSTEPのNさんはそのものズバリ北海道大学の機関リポジトリの愛称であるHUSCAPというタイトルのエントリーを書いてくださっていますし、数学のNさんは研究者から見た機関リポジトリというエントリーを書いてくださいました。
CoSTEPのNさんはサイエンス・コミュニケーターとして大学の研究者の活動を市民に伝えようと考えておられると思いますし、数学のNさんは研究者としていかに情報発信をしていくかということを常に考え、また先端的に実行もなさっている方です。幸いなことに私はお二人ともと知り合うことができて、いろいろと教わっていることも多いのですが、そう言えばしばらく前に、このお二人にはどこかで会っていただいて、意見交換をしてもらわなくてはいけないと思っていたことを思い出しました。いずれ機会を設けたいと思います。
当日おふたりは接近遭遇しているのですが、私が紹介する機会を逸してしまいましたので、おそらくはまだ未知の方同士だと思います。しかし、この時期に同じ北大の中でコミュニケーションについて考え行動しているわけですから、遅かれ早かれ会うことになるものとは思っています。また、それは北大や科学コミュニケーションにとっても有意義なことです。
世界的にみると徐々に広がりつつある機関リポジトリですが、日本ではまだ千葉大と北大それに早稲田大くらいしか動き出しておらず、動き出しているところでもまだまだ微力です。北大のHUSCAPでも現時点までに収録されている文献は、いわゆる原著論文が223件、その他の論文が33件、教育用資料が26件とあまりにも少ないのです。最近になって一括登録を開始した紀要等の文献数が2399件あるのですが、それにしてもいわゆる文献倉庫としてはほとんどゼロに近い値で、寂しいものです。
ところが、この程度の収録数ではリポジトリがそれほど利用されないのではないかという予想を大きく裏切り、累積アクセス数はすでに50万を軽く突破しています。また、ダウンロードされた文献に関しても多いものでは、月に数10から数100のオーダーに達しており、かつての論文別刷の配布のことを考えたら驚くべき頻度で利用されているということになります。
これはやはり、無料で論文がダウンロードできるというメリットが認められた結果ではないかと思われます。リポジトリに収録された多くの原著論文は、ジャーナルのサイトからはpdfファイルをダウンロードすることができますが、あくまでもそれは有料での契約を前提としたものです。Googleなどで論文のタイトルを発見しても、アブストラクトくらいしか見せてくれない有料のジャーナルサイトにある論文が参照されるチャンスは、リポジトリに無料で公開されていることで何100倍にもなることが推測されます。
私自身の経験からしても、たった3件しか登録していない論文のひとつが8月だけでなんと66回もダウンロードされているというデータを見せていただいて驚愕してしまいました。
論文を見てもらえるということは科学者にとっては非常に嬉しいことです。さらには、それを引用して論文が書かれるチャンスも大きくなることは間違いありません。被引用回数を基準にランキングを決めるインパクト・ファクターでは出版後たった2年間しかカウントしてくれませんが、Google Scholarなどでは、半永久的に引用回数を蓄積してくれます。
実例を示しますと、Google Scholarで半年前には21本の論文に引用されていた私の1985年の論文が、半年経った今は22本の論文に引用されていることがわかりました。インパクトファクターでは決して評価されない時間をかけた(ロングテールの)貢献が評価できる時代になってきたのだと思います。
そういう意味で、無料でインターネットで各種のソフトが利用できるスタイル(OAI-PMHというのだそうです)で検索可能な状態で半永久的に公開されるということは、実は我々の想像を越えた有用性と、論文の正当な評価を得る道なのだと確信し始めているところです。
HUSCAPを利用することは実は科学者にとっては、世界への情報公開というサービスになるばかりではなく、自信の業績評価にとって今までにない公平性を獲得する手段なのかもしれません。特に我々のように、時代の波に乗って爆発的に売れるなどということのない地味な研究をやっている人間でも、何10年何100年かけると必ず自分の研究を必要としてくれる人に出会えるチャンスを保証してくれる、タイムマシンなのかもしれません。
聞きにいらしてくれた方のほとんどは、道内外の図書館関係の方だったようですが、私にとっては非常に重要なお二人が聞きに来られ、その感想を書き残してくださったことが大きな収穫になりました。
お二人とは、CoSTEPのライターNさんと、おそらく北大でも屈指の実践的情報技術をお持ちの数学科のNさんです。CoSTEPのNさんはそのものズバリ北海道大学の機関リポジトリの愛称であるHUSCAPというタイトルのエントリーを書いてくださっていますし、数学のNさんは研究者から見た機関リポジトリというエントリーを書いてくださいました。
CoSTEPのNさんはサイエンス・コミュニケーターとして大学の研究者の活動を市民に伝えようと考えておられると思いますし、数学のNさんは研究者としていかに情報発信をしていくかということを常に考え、また先端的に実行もなさっている方です。幸いなことに私はお二人ともと知り合うことができて、いろいろと教わっていることも多いのですが、そう言えばしばらく前に、このお二人にはどこかで会っていただいて、意見交換をしてもらわなくてはいけないと思っていたことを思い出しました。いずれ機会を設けたいと思います。
当日おふたりは接近遭遇しているのですが、私が紹介する機会を逸してしまいましたので、おそらくはまだ未知の方同士だと思います。しかし、この時期に同じ北大の中でコミュニケーションについて考え行動しているわけですから、遅かれ早かれ会うことになるものとは思っています。また、それは北大や科学コミュニケーションにとっても有意義なことです。
世界的にみると徐々に広がりつつある機関リポジトリですが、日本ではまだ千葉大と北大それに早稲田大くらいしか動き出しておらず、動き出しているところでもまだまだ微力です。北大のHUSCAPでも現時点までに収録されている文献は、いわゆる原著論文が223件、その他の論文が33件、教育用資料が26件とあまりにも少ないのです。最近になって一括登録を開始した紀要等の文献数が2399件あるのですが、それにしてもいわゆる文献倉庫としてはほとんどゼロに近い値で、寂しいものです。
ところが、この程度の収録数ではリポジトリがそれほど利用されないのではないかという予想を大きく裏切り、累積アクセス数はすでに50万を軽く突破しています。また、ダウンロードされた文献に関しても多いものでは、月に数10から数100のオーダーに達しており、かつての論文別刷の配布のことを考えたら驚くべき頻度で利用されているということになります。
これはやはり、無料で論文がダウンロードできるというメリットが認められた結果ではないかと思われます。リポジトリに収録された多くの原著論文は、ジャーナルのサイトからはpdfファイルをダウンロードすることができますが、あくまでもそれは有料での契約を前提としたものです。Googleなどで論文のタイトルを発見しても、アブストラクトくらいしか見せてくれない有料のジャーナルサイトにある論文が参照されるチャンスは、リポジトリに無料で公開されていることで何100倍にもなることが推測されます。
私自身の経験からしても、たった3件しか登録していない論文のひとつが8月だけでなんと66回もダウンロードされているというデータを見せていただいて驚愕してしまいました。
論文を見てもらえるということは科学者にとっては非常に嬉しいことです。さらには、それを引用して論文が書かれるチャンスも大きくなることは間違いありません。被引用回数を基準にランキングを決めるインパクト・ファクターでは出版後たった2年間しかカウントしてくれませんが、Google Scholarなどでは、半永久的に引用回数を蓄積してくれます。
実例を示しますと、Google Scholarで半年前には21本の論文に引用されていた私の1985年の論文が、半年経った今は22本の論文に引用されていることがわかりました。インパクトファクターでは決して評価されない時間をかけた(ロングテールの)貢献が評価できる時代になってきたのだと思います。
そういう意味で、無料でインターネットで各種のソフトが利用できるスタイル(OAI-PMHというのだそうです)で検索可能な状態で半永久的に公開されるということは、実は我々の想像を越えた有用性と、論文の正当な評価を得る道なのだと確信し始めているところです。
HUSCAPを利用することは実は科学者にとっては、世界への情報公開というサービスになるばかりではなく、自信の業績評価にとって今までにない公平性を獲得する手段なのかもしれません。特に我々のように、時代の波に乗って爆発的に売れるなどということのない地味な研究をやっている人間でも、何10年何100年かけると必ず自分の研究を必要としてくれる人に出会えるチャンスを保証してくれる、タイムマシンなのかもしれません。
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by stochinai
| 2006-03-07 22:56
| 大学・高等教育
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