おそらく、こんなサイエンス・カフェは世界で始めてだったのではないでしょうか。演台のパネルの後ろでは、ファシリテーターのボランティアの方々とたくさんの小学生がフィンランドの科学教育の実践授業として一所懸命落ち葉と格闘している前で、その父母の方を中心にフィンランドの科学教育について講演を聞いたり、質疑応答をするというなかなかユニークな企画が実現されました。札幌発、世界初のカフェだったと思います。
サイエンス・カフェ札幌第3回は「サンタのふるさとの科学教育」ということで、CoSTEPスタッフでもある池田文人さんが学力世界一のフィンランドの科学教育の実情をお話してくださいました。
フィンランドという国は北欧の小さな国ということくらいしか知りませんでしたが、先頃
OECDが行った学習到達度調査(PISA)で、総合読解力、情報の取出し、解釈で世界1位、熟考・評価で世界第4位、数学的リテラシーで大4位、科学的リテラシーで第3位と、学力ショックを与えた国として有名になりました。
今回のカフェはそのフィンランドの科学教育を報告しながら、小学生にフィンランドの科学教育を体験してもらうという企画ですので、親子での参加者を募集しました。立ち上がりはそれほどでもなかったのですが、
北海道新聞に情報が掲載されるやいなや、なんと100組近くの申し込みがあり、募集した20人に対してとんでもない倍率の抽選になってしまいました。はずれた方々には、たいへん申し訳ないと思いますが、なぜかスタッフおよびボランティアのファシリテーターの方々が大変に燃えており、この企画は今後も定期的に継続していってもいいのではないかという声も出ております。具体的なことはまだ何も決まっておりませんが、今回抽選にはずれた方々も今後に期待していいかもしれません。
さて、肝腎のカフェですが、意外なことに結果に対する意見が分かれております。パネルの前で、講演を実行していた部隊は後ろで熱心に枯葉と格闘する子ども達のパワーに押されて、しばしばストーリーの流れに乗り損なったり、波に乗れなかったりと苦労の割にはなかなか達成感が得られなかったという不完全燃焼状態だったのかもしれません。
しかし、その後ろで盛り上がっていた小学生とファシリテーターの皆さんは、今までに味わったことのないおもしろい授業と、それに盛り上がる小学生から次々と繰り出されるオリジナリティあふれるアイディアの数々にたじたじになりながらも、激しく一緒に盛り上がっていたとの感想を聞きました。ただ、さすがに小学校低学年生の一部には2時間のワークショップはちょっと長すぎたようで「もう飽きた」という子も出たようですが、4年生以上のグループではまったく予想もできない展開も巻き起こり、つきあっていたファシリテーターの皆さんが、このままで終わるのは惜しいという気分でノリノリだったようです。
小学生のワークショップとその前で行われているお話を聞いている我々(親でもない)観客が感じていたのは、小学生の発するものすごい熱気と、その前で彼らが実践しているフィンランドの教育に思いをはせながら話を聞いている父母達のなんとも知れぬ不思議な調和(あるいは不調和)というものでした。
私が感じたのはフィンランドというのは壮大な田舎なのだという感覚です。教育はきわめて実践的で実学的であり、子ども達にはどんな状況にでも対応できる情報処理能力を身につけさせようとしているようにあ思えました。
しかし、そんなことは関係なく子ども達とそれを指導する若いファシリテーター達の盛り上がりが本日の収穫だったと思います。ファシリテーターの話では、親がいないわけでもなく、さりとて参観日のように何もせずに子ども達の授業を眺めるというわけでもないという不思議な状況の中で、子ども達には適度な緊張感と盛り上がりがあり、親御さん達にも適度な安心感と興奮が感じられたる状況が、ある意味で不思議な成功を生んだのではないかという声も聞かれました。
うまくいくと、ここCoSTEPからスピンアウトして、小学生と親たちにサイエンスの実習を教える新しい場を作ろうという動きが出てくるかもしれません。いずれにしても、今日のカフェはあきらかに我々が知っているカフェとは全然違う新しいものが生まれた記念の日になったと思います。
まったく、何が起こるかわからないサイエンス・カフェからは目が離せません。
追記:
感心していながら、書き忘れたことがあります。ひとつは、2回目の時に苦言を述べた会場の音響です。私はあまり知識がないので、何がどのように工夫されたのかはあまり理解しておりませんが、ガラス張りのロビーという音響的にはかなり劣悪な環境にもかかわらず、会場のどこの場所にいても、講師や司会の声さらには会場からの質問の声などがきわめてクリアにマイクからスピーカーへと伝えられていました。それだけでも、かなりストレスがなくなります。
それからもうひとつは、会場が明るかったこと。前回はパワーポイントを液晶プロジェクターで投影するという制約から、会場の光を落とし気味にしたのですが、書店のロビーということでどうしてもかなり明るいままになっていました。そこへ、それほどパワーのないプロジェクターという組み合わせだったので、そちらの可視性も悪くどっちつかず(会場とスクリーン)の中途半端な明るさに、なんとも言えぬ落ち着かなさを感じました。それに引き換え、今回は子ども達のワークショップを並行させて行うという制約もあってか会場はフル照明のままで、講師の方もパワーポイントは使わずポスターをめくりながらという「ローテク」プレゼンテーションだったのですが、会場が明るいこととそのある種「素朴な」プレゼンがテーマである北欧フィンランドの教育にマッチして、なかなかいい雰囲気でした。
サイエンス・カフェの場合はお客さんも参加者であり主役の構成員ですから、会場が明るいということは、実はかなり大事なことではないかと感じた次第です。
追記2:
これを読んでおられる方の大部分は、私がCoSTEPのスタッフの一員であることをご存じだと思います。さらに、昨日はカフェのあとに一部のメンバーの方々と反省会あるいは打ち上げで飲食をともにしておりますので、この報告はあくまでもそうした人間のバイアスがかかっているものであることをご承知おきください。提灯記事あるいは「大本営発表」を書いているつもりはありませんが、ライターが完全な客観的1にいる第三者ではありませんので、その辺を勘案した上で読んでいただけると幸いです。
追記3:
こちらにワークショップでファシリテーターをされた方の、内側からみたワークショップの紹介があります。是非、ご覧ください。
追記4:
この時の様子が、FM三角山放送で放送されましたが、
ポッドキャスティングでも配信されています。その感想が
「ポッドキャスティングでサイエンス・カフェを聞く」がこちらにあります。