5号館を出て

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理系音痴が動かす国

 昨日の毎日新聞理系白書に「理系音痴」が動かす国という、元村有希子さんの署名記事が載っています。

 悲しくも恐ろしい言葉「21世紀の今も、年4兆円近い科学技術予算を左右するのは『科学音痴』を公言する政治家たちだ」というのは、日本の現状のことです。

 この20年くらいをかけて、政府は理系の大学院生を大量に増やして、彼らの受け皿を作らなかったことを、かねがね不審に思っていたのですが、特に考えがあってやっているわけではなく、単に「音痴」なだけなのかもしれません。つまり、理系の大学院を出るということが、ひとりひとりの人生にどのような意味を持つのかがわかっていないのでしょう。職がないなら別のことやれば良い、と簡単に思っているのだと思います。しかし、大学院だけではなくポスドクを何年もやって、40歳くらいになった人間に「職がなかったら、別のことやれ」って、簡単に言って欲しくないですよね。

 そんな中、米100俵の総理に対し、総合科学技術会議で先月、有識者議員の一人が次のような進言をしたそうです。

 「科学技術振興には社会の理解が不可欠で、それには合言葉が有効だ。例えばケネディ元大統領は『人類を月に送る』、クリントン氏は『ヒトゲノム解読』を掲げた」そうです。ここはひとつ日本でもやりませんか、ということを言いたかったのだと思います。
 
 ところが、「あのスローガン好きの首相が、このアドバイスには関心を示さなかった」と書いてあります。やっぱり。 

 このエピソードを読んで、日本政府が考えている科学技術振興というのは、科学を振興させたいということではなく、科学技術振興を「何か」に利用したいだけなのだということを確信しました。彼らにとっての科学とは、経済発展という目的のための手段のひとつにすぎず、別の方法で目的に達成されるなら、それで良いということだと思います。

 首相が出てきたついでに、前から気になっていたことをひとつ。首相は、「やればできる」という言葉がお好きのようですが、この言葉ほど落ちこぼれた人間を傷つけるものはないということをわかって欲しいと思っています。

 もちろん、やればできると思って努力することは貴重なことなのですが、やってもできないことがあると知ることは、もっと意味があることだと思います。

 今の若者達は、首相をはじめとした方々の刷り込みにより「自分だって、やればできる」と思っている人が多いようですし、事実そのように言う学生も多いです。

 そして、最悪なことに「やればできると思っている」にもかかわらず、決してやろうとしないので、「やってもできない」という境地に到達できないのです。

 いつまでたっても、「やればできる」というおまじないを頭の中で繰り返しながら、トライをしないままに年を取っていきますので、かなりの年齢になっても「自分はやればできるのだけれども、やる気が起こらないのでやっていないだけだ」という不思議な思考を持ち続けている若者がかなり見受けられます。

 北大の保健管理センター精神衛生相談室カウンセラーの市川啓子さんが書いたただよう学生の心(4)の中に、このことが鋭く指摘されています。「カウンセリングなどを通して若者の無気力に向き合った時に感じるのが、彼らのなかにある何ともいえない『万能感』の存在です」が、まさにこれだと思います。以下に、市川さんの言葉を転載させて頂きますが、さすがにプロの解釈はすごいと脱帽です。

 「人間は、幼いある時期に『幼児的万能感』を持つといわれています。自分の望むものは与えられるという感覚です。しかし、成長に伴ってさまざまな葛藤や挫折にぶつかり、現実は自分の思うどおりにはいかないという体験を積み重ねるようになります。そのことを通じて現実を検討する力や、等身大の自分を認識できるようになるといわれていますが、思春期以降もこの「幼児的万能感」から抜け出すことができない若者が増加しているのではないかという見方があります。」

 というわけで、首相にお願いがあります。これからは「やればできる」から、「やればできるかどうか、まずはやってみよう」と叫んでもらいたいと思います。よろしく、お願いします。
# by stochinai | 2004-11-18 17:29 | 科学一般 | Comments(0)

お客さん

 今日は、カリフォルニアのアーバイン(Irvine)からお客さんが来たので、歓迎会をしています。

 お客さんは、日本人なのですが東北大を出て、広島でポスドク(博士を持っている非常勤研究員)をした後、カリフォルニアでポスドクをやっている人です。

 東北大での大学院生時代に、カエルの再生研究をやっていたので知り合いになった人なのですが、アメリカで研究者として働くには時々国外に出て(日本に戻って)、ビザの更新をしなければならないということで、東京のアメリカ大使館に出頭するついでに北海道にも寄ってくれたというわけです。

 セミナーをお願いして、主に今やっている再生研究の話をしてもらいました。ついでに、つい最近カリフォルニアで住民投票の結果、賛成多数で成立した「再生研究推進」の話もしてくれました。シュワルツネガー州知事の下、先頃亡くなったスーパーマン・クリストファー・リーブや、パーキンソン病で苦しむマイケル・J・フォックスの話などが出てくると、「さすがアメリカ」という気がします。 

 アメリカには日本から行っているポスドクの人がたくさんいるのですが、そういう人たちが集まると、必ず最後はどうやって日本に帰ったら良いかの話になるそうです。

 日本政府の大学院生・ポスドク大量生産政策の結果、優秀なポスドクの人がたくさん海外に出ているのですが、向こうでたくさんの業績を上げたとしても、なかなか日本で定職に就くことのできない人が多いという現状があります。

 非常に優秀な彼ら・彼女らをこのまま、外国流民にしてしまっては国家的大損害です。せっかく育った彼らをなんとかして日本に呼び戻して、きちんとしたポジションを与えることは、日本の将来にとっても非常に重要なことであると思いますので、政府にはそこのところをしっかりと把握した上で、長い目で見たしっかりとした政策の立案をお願いしたいと思います。

 内閣や国会議員の継続年数以内の政策しか出てこないような、今の政策立案システムでは国の将来を担うであろう、若手研究者の未来を切り開くことはとても難しいと思います。

 そこで、政府だけにまかせておかず、全国の大学関係者においても、自分たちが育てた、最良の頭脳である彼らを日本に呼び戻し、次世代の研究および研究者養成に携わるべきポジションを与えるよう声を上げて頂きたいと思います。

 微力ながら、私も頑張りたいと思います。

 逆に、そのような境遇に置かれたポスドクの皆さんにも、声を挙げて頂きたいと思います。

 黙っていても、国は動いてくれないものです。一緒に頑張りましょう。
# by stochinai | 2004-11-17 17:43 | 生物学 | Comments(0)

もう殺し合いはやめよう

 さすがに準備不足で、ゼミは満足のいくものにはなりませんでした。朝から集まって頂いた皆さんには、改めておわびを申し上げます。論文は良かったんですけど、紹介者がダメでした。すみません。

 さて、あと数日でファッルージャの戦いも終わると、アメリカは発表しているようです。個人的にはアメリカが負けて痛い目を見るべきだと思わなくもないのですが、ともかく一日も早く銃火が収まって欲しいので、そんなことは言っていられません。

 おそらく、数千人の兵士と市民が殺されたことと思います。すぐにやめろと言っても、今のアメリカ軍にそのようなことができないことはわかります。ともかく、アメリカが勝とうがどうしようがかまいません。一刻も早く戦闘が終結して欲しいと思います。

 そんな中、またしても嫌なニュースが飛び込んできました。非武装・無抵抗のイラク人負傷者、米兵が射殺です。戦場ですから、そのようなことは起こり得ることだと思います。そういう意味では、どうしてこれが大ニュースで、戦闘の中で殺されたたくさんの子ども達のことはニュースにならないのでしょう。

 たまたまカメラがとらえてしまったから、「残酷」だというのでしょうか。傷を負って動けない人間を射殺するのが残酷で、元気な兵士を何十人も撃ち殺すのは残酷ではないということなのでしょうか。

 抵抗しない人間を殺すと犯罪で、抵抗している人間はひとりでも多く殺すと勲章だという戦場の「ルール」を我々が受け入れなければならない義務はありません。。

 殺人に、良い殺人と悪い殺人があるはずがありません。どちらも犯罪です。また、無抵抗の人間を殺したのが犯罪だという論理は、現場の兵士には通じないと思います。その兵士だって、ついさっき隣にいた戦友が銃弾に倒れたことが原因で、怒りに狂っていたということも考えられます。それを犯罪者呼ばわりするアメリカ軍の偽善的な態度も、非常に不快です。「米軍は16日、戦争犯罪の疑いがあるとして捜査を始めた」などと書くマスコミも不快です。

 ルールのない無差別殺戮が行われている戦場に兵士を送り込んで、人道的な殺人をしろなどとは、なんたる命令でしょう。人道的な殺人とは、どんなことを指すのですか。

 先日の、捕虜収容所での虐待事件も起こるべくして起こったものだと思います。虐待をした兵士が悪いといって「裁判」にかけたようですが、精神がおかしくなるようなところに送り込まれた人間が、異常な行動をとったからと言って裁判にかけると言っている人間の方がよほど狂っていると思います。

 若くて(おそらく高等教育などはそれほど受けていないであろうと思われる)貧乏な兵士を大量に送り込んで、その人間達に老練な倫理学者のような行動を取れ、と言っていることの喜劇(悲劇)性がわからないとしたら、やはりブッシュ一派とそれを支持している各国の首脳は、ヒトラーや金正日となんら変わらない血に飢えた狂人と断言せざるを得ません。

 そして同じ思想を持つ連中が、かつて戦場で起こった虐殺は、聖戦であったし、正当防衛であったし、あなた方がいうほどたくさんの人を殺したわけではないと、戦争のあと何十年もたってから言うものなのだという歴史の事実が目の前で行われている現実を見ていると、ほんとうにつらくなります。

 主義主張はいくらでもほざいてください。ともかく、殺人は醜悪で不快です。すぐにやめてください。

 高遠さんも言っているように、イラクで人質を取っては殺す外国から集まってきている「義勇兵」も、勝手に人の国の体制を「民主化」しようとして虐殺を繰り返しているアメリカ軍も、どっちも人殺しはやめてください。

 あなた達は、心底バカです。
# by stochinai | 2004-11-16 17:43 | つぶやき | Comments(0)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


by stochinai