2005年 12月 19日
本当のことと証明できること
この世の中で起こったことを完璧に記述することができるとすれば、完璧に記述されたことは「事実」と言えるのだと思います。しかし、「完璧に記述する」などということは明らかに不可能なことですから、100%の事実をすべて記述するなどということはできません。
それにもかかわらず、人は本当のことを知りたいと思いますし、いろいろな言い分があった場合にはどちらが「本当に近い」のかを知りたいのだと思います。人生のいろいろな局面においては、どちらが本当でもかまわない場合もたくさんありますから、どちらがより本当らしいのかを争わなければならないのは、主に利害関係が生じた時です。
今、世の中を騒がせている二つの「どっちが本当だ」を争う事態は、日本における一連のホテル・マンション耐震強度偽装事件と、韓国のクローンES細胞スキャンダルではないでしょうか。
いずれの場合にも、スキャンダルが発覚した時点で、我々のようなほとんどの無関係者は誰がウソをついているのか、本当のことはどのあたりなのかを「なんとなく感じている」と思います。
ところが、当事者達の言うことが我々がなんとなく感じていたこととが異なっていて、「そのようなことはありません」と主張する人が出てくるものですから話が混乱します。
当事者の中には、私達が想像していたとおり、私はウソをついていましたし、とんでもない裏切り行為をしていました、と認める人も出てきたりするのですが、多くの場合そういう人は事件の中でも役割としては「小者」で、もちろん罪を罰せられたとしたらその人達だって一生を棒に振る可能性があるのですが、我々がなんとなく一番悪いのはこいつじゃないかとか、あるいは本当に悪いヤツはまだ出てきていない陰にいるんじゃないかと思っている人達は、最後の最後まで徹底的にしらを切り通すことが多いように思われます。政治家がからんだ「事件」などはだいたいがそうしていつの間にか飽きられて忘れられていくことが多いと思います。
クローンES細胞スキャンダルでは、ファン・ウソク教授およびひょっとするとその陰で彼の研究を国家的プロジェクトにまで仕立てようとしていた政府関係者がそれで、耐震強度偽装事件に関しては最年長の総研の内河さんおよびひょっとするとその陰で彼らの挙動を見て見ぬ振りをしていたかもしれぬ官僚や行政・立法関係者がそういう疑惑の人達と言えると思います。
ファン教授は「ヒトクローン胚から作ったES細胞は確かにあった」と主張しています。実は私もその件については事実なのではないかと「信じて」います。しかし、さまざまの事故が重なり、たくさんのクローンが失われてしまったことも、また事実なのでしょう。であるにもかかわらず、クローン胚からES細胞ができたという事実にウソはないのだから、ウソのデータを集めて論文を発表することも許されるだろうというのが彼の本心のように見えます。同じ科学者として、彼の気持ちはわからないでもないのですが、彼は今度は倫理的問題をきちんとクリアした上でもう一度たくさんのクローン胚由来のES細胞を作ってから論文を書くべきでした。
理論的に大丈夫なのだから論文を書いても大丈夫ということにはならないという倫理観を、学生時代からきちんとたたき込まれていたならばこんな事態にならなかったかもしれません。そういう意味では、日本でも科学者の倫理教育はようやく猪についたばかりですから、日本の研究者にもかなり危ない精神構造の人はたくさんいるような気がします。明日は我が国の話だと思いました。
翻って耐震強度偽造事件では、某ヘアーデザイナーという方がブログや日記で当事者も驚くような大量の「裏情報」を流しているといいます。(ここではあえて、リンクは張らないでおきます。)私もおそらくこのきっこさんというヘアーデザイナーの持っている情報のかなりの部分は信憑性の高いものだと信じています。しかし、いくらそれが限りなく真実に近いものであったとしても、しらを切り通している黒幕やさらにその陰にいる人間に「恐れ入りました」と誤らせることができるものにないのならば、それはやはり無いのと同じということになります。
たとえ情報として「本当のこと」を握っていたとしても、それが当事者達に有無を言わせないほどの証拠と一緒につきつけられなければ意味がありません。技術や工学に関しての倫理教育もようやく大学レベルで始まったばかりですから、その教育を受けた人達が現場に出ていくまではまだ数年から十数年かかると思います。あるいは、そのくらい時間が経っても技術者倫理が徹底した世の中になるかどうかは未知です。
ならば、いずれの場合も何かをした人達に対しても適切に処罰するシステムが、今必要だと思います。科学的な検証を重ねて、ここにある不正に関してはきちんと証明した上で、適切に処罰することが必要です。手に入る限りの情報を第3者の手によって確認し、専門家の手によって解析し、利害関係者といえどもそれを事実として認めざるを得ない証拠と一緒に提出して追求すること。科学も検察もその点においてはまったく同じだと思います。
今ここでそれがそれができなければ、この手のスキャンダルはまだまだ続くことでしょう。
#本日のエントリーは諸条件により、ソースへのアクセスが不十分であることをあらかじめお断りしておきます。
それにもかかわらず、人は本当のことを知りたいと思いますし、いろいろな言い分があった場合にはどちらが「本当に近い」のかを知りたいのだと思います。人生のいろいろな局面においては、どちらが本当でもかまわない場合もたくさんありますから、どちらがより本当らしいのかを争わなければならないのは、主に利害関係が生じた時です。
今、世の中を騒がせている二つの「どっちが本当だ」を争う事態は、日本における一連のホテル・マンション耐震強度偽装事件と、韓国のクローンES細胞スキャンダルではないでしょうか。
いずれの場合にも、スキャンダルが発覚した時点で、我々のようなほとんどの無関係者は誰がウソをついているのか、本当のことはどのあたりなのかを「なんとなく感じている」と思います。
ところが、当事者達の言うことが我々がなんとなく感じていたこととが異なっていて、「そのようなことはありません」と主張する人が出てくるものですから話が混乱します。
当事者の中には、私達が想像していたとおり、私はウソをついていましたし、とんでもない裏切り行為をしていました、と認める人も出てきたりするのですが、多くの場合そういう人は事件の中でも役割としては「小者」で、もちろん罪を罰せられたとしたらその人達だって一生を棒に振る可能性があるのですが、我々がなんとなく一番悪いのはこいつじゃないかとか、あるいは本当に悪いヤツはまだ出てきていない陰にいるんじゃないかと思っている人達は、最後の最後まで徹底的にしらを切り通すことが多いように思われます。政治家がからんだ「事件」などはだいたいがそうしていつの間にか飽きられて忘れられていくことが多いと思います。
クローンES細胞スキャンダルでは、ファン・ウソク教授およびひょっとするとその陰で彼の研究を国家的プロジェクトにまで仕立てようとしていた政府関係者がそれで、耐震強度偽装事件に関しては最年長の総研の内河さんおよびひょっとするとその陰で彼らの挙動を見て見ぬ振りをしていたかもしれぬ官僚や行政・立法関係者がそういう疑惑の人達と言えると思います。
ファン教授は「ヒトクローン胚から作ったES細胞は確かにあった」と主張しています。実は私もその件については事実なのではないかと「信じて」います。しかし、さまざまの事故が重なり、たくさんのクローンが失われてしまったことも、また事実なのでしょう。であるにもかかわらず、クローン胚からES細胞ができたという事実にウソはないのだから、ウソのデータを集めて論文を発表することも許されるだろうというのが彼の本心のように見えます。同じ科学者として、彼の気持ちはわからないでもないのですが、彼は今度は倫理的問題をきちんとクリアした上でもう一度たくさんのクローン胚由来のES細胞を作ってから論文を書くべきでした。
理論的に大丈夫なのだから論文を書いても大丈夫ということにはならないという倫理観を、学生時代からきちんとたたき込まれていたならばこんな事態にならなかったかもしれません。そういう意味では、日本でも科学者の倫理教育はようやく猪についたばかりですから、日本の研究者にもかなり危ない精神構造の人はたくさんいるような気がします。明日は我が国の話だと思いました。
翻って耐震強度偽造事件では、某ヘアーデザイナーという方がブログや日記で当事者も驚くような大量の「裏情報」を流しているといいます。(ここではあえて、リンクは張らないでおきます。)私もおそらくこのきっこさんというヘアーデザイナーの持っている情報のかなりの部分は信憑性の高いものだと信じています。しかし、いくらそれが限りなく真実に近いものであったとしても、しらを切り通している黒幕やさらにその陰にいる人間に「恐れ入りました」と誤らせることができるものにないのならば、それはやはり無いのと同じということになります。
たとえ情報として「本当のこと」を握っていたとしても、それが当事者達に有無を言わせないほどの証拠と一緒につきつけられなければ意味がありません。技術や工学に関しての倫理教育もようやく大学レベルで始まったばかりですから、その教育を受けた人達が現場に出ていくまではまだ数年から十数年かかると思います。あるいは、そのくらい時間が経っても技術者倫理が徹底した世の中になるかどうかは未知です。
ならば、いずれの場合も何かをした人達に対しても適切に処罰するシステムが、今必要だと思います。科学的な検証を重ねて、ここにある不正に関してはきちんと証明した上で、適切に処罰することが必要です。手に入る限りの情報を第3者の手によって確認し、専門家の手によって解析し、利害関係者といえどもそれを事実として認めざるを得ない証拠と一緒に提出して追求すること。科学も検察もその点においてはまったく同じだと思います。
今ここでそれがそれができなければ、この手のスキャンダルはまだまだ続くことでしょう。
#本日のエントリーは諸条件により、ソースへのアクセスが不十分であることをあらかじめお断りしておきます。
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by stochinai
| 2005-12-19 22:29
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