5号館を出て

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 この世の中で起こったことを完璧に記述することができるとすれば、完璧に記述されたことは「事実」と言えるのだと思います。しかし、「完璧に記述する」などということは明らかに不可能なことですから、100%の事実をすべて記述するなどということはできません。

 それにもかかわらず、人は本当のことを知りたいと思いますし、いろいろな言い分があった場合にはどちらが「本当に近い」のかを知りたいのだと思います。人生のいろいろな局面においては、どちらが本当でもかまわない場合もたくさんありますから、どちらがより本当らしいのかを争わなければならないのは、主に利害関係が生じた時です。

 今、世の中を騒がせている二つの「どっちが本当だ」を争う事態は、日本における一連のホテル・マンション耐震強度偽装事件と、韓国のクローンES細胞スキャンダルではないでしょうか。

 いずれの場合にも、スキャンダルが発覚した時点で、我々のようなほとんどの無関係者は誰がウソをついているのか、本当のことはどのあたりなのかを「なんとなく感じている」と思います。

 ところが、当事者達の言うことが我々がなんとなく感じていたこととが異なっていて、「そのようなことはありません」と主張する人が出てくるものですから話が混乱します。

 当事者の中には、私達が想像していたとおり、私はウソをついていましたし、とんでもない裏切り行為をしていました、と認める人も出てきたりするのですが、多くの場合そういう人は事件の中でも役割としては「小者」で、もちろん罪を罰せられたとしたらその人達だって一生を棒に振る可能性があるのですが、我々がなんとなく一番悪いのはこいつじゃないかとか、あるいは本当に悪いヤツはまだ出てきていない陰にいるんじゃないかと思っている人達は、最後の最後まで徹底的にしらを切り通すことが多いように思われます。政治家がからんだ「事件」などはだいたいがそうしていつの間にか飽きられて忘れられていくことが多いと思います。

 クローンES細胞スキャンダルでは、ファン・ウソク教授およびひょっとするとその陰で彼の研究を国家的プロジェクトにまで仕立てようとしていた政府関係者がそれで、耐震強度偽装事件に関しては最年長の総研の内河さんおよびひょっとするとその陰で彼らの挙動を見て見ぬ振りをしていたかもしれぬ官僚や行政・立法関係者がそういう疑惑の人達と言えると思います。

 ファン教授は「ヒトクローン胚から作ったES細胞は確かにあった」と主張しています。実は私もその件については事実なのではないかと「信じて」います。しかし、さまざまの事故が重なり、たくさんのクローンが失われてしまったことも、また事実なのでしょう。であるにもかかわらず、クローン胚からES細胞ができたという事実にウソはないのだから、ウソのデータを集めて論文を発表することも許されるだろうというのが彼の本心のように見えます。同じ科学者として、彼の気持ちはわからないでもないのですが、彼は今度は倫理的問題をきちんとクリアした上でもう一度たくさんのクローン胚由来のES細胞を作ってから論文を書くべきでした。

 理論的に大丈夫なのだから論文を書いても大丈夫ということにはならないという倫理観を、学生時代からきちんとたたき込まれていたならばこんな事態にならなかったかもしれません。そういう意味では、日本でも科学者の倫理教育はようやく猪についたばかりですから、日本の研究者にもかなり危ない精神構造の人はたくさんいるような気がします。明日は我が国の話だと思いました。

 翻って耐震強度偽造事件では、某ヘアーデザイナーという方がブログや日記で当事者も驚くような大量の「裏情報」を流しているといいます。(ここではあえて、リンクは張らないでおきます。)私もおそらくこのきっこさんというヘアーデザイナーの持っている情報のかなりの部分は信憑性の高いものだと信じています。しかし、いくらそれが限りなく真実に近いものであったとしても、しらを切り通している黒幕やさらにその陰にいる人間に「恐れ入りました」と誤らせることができるものにないのならば、それはやはり無いのと同じということになります。

 たとえ情報として「本当のこと」を握っていたとしても、それが当事者達に有無を言わせないほどの証拠と一緒につきつけられなければ意味がありません。技術や工学に関しての倫理教育もようやく大学レベルで始まったばかりですから、その教育を受けた人達が現場に出ていくまではまだ数年から十数年かかると思います。あるいは、そのくらい時間が経っても技術者倫理が徹底した世の中になるかどうかは未知です。

 ならば、いずれの場合も何かをした人達に対しても適切に処罰するシステムが、今必要だと思います。科学的な検証を重ねて、ここにある不正に関してはきちんと証明した上で、適切に処罰することが必要です。手に入る限りの情報を第3者の手によって確認し、専門家の手によって解析し、利害関係者といえどもそれを事実として認めざるを得ない証拠と一緒に提出して追求すること。科学も検察もその点においてはまったく同じだと思います。

 今ここでそれがそれができなければ、この手のスキャンダルはまだまだ続くことでしょう。

#本日のエントリーは諸条件により、ソースへのアクセスが不十分であることをあらかじめお断りしておきます。
# by stochinai | 2005-12-19 22:29 | つぶやき | Comments(4)
 夕方のテレビでフジコ・ヘミングさんとそのお母さんがどんなに偉かったかというような番組をやっていました。

 私は途中から見た上に、別のことをやりながら時折ちらちらと見ていただけなので、内容についてはあまり正確に把握していないことを最初にお断りした上で、感想などを書かせていただきます。

 フジコさんは、最近では毎年のように日本でコンサートを開いていて、熱烈なファンもかなりの数がいるのだと思っていましたが、いわゆるポピュラー演奏家という人ではないようにも感じています。

 私はクラシック音楽に関して、何かを言えるほどの知識も経験も持ち合わせていないのですが、番組の中で流れた彼女の「亡き王女のためのパヴァーヌ」を聞いて、様々な演奏家の演奏によって慣らされてきた耳には、ちょっと不思議に聞こえる独特なその表現方法(メロディーラインをつなぐ時に方言のようなものを感じました)になんだか良くわからないまま「惹かれる」ものがあったのは、自分としても不思議な経験でした。

 注意散漫ながらも見聞きした番組の中で語られていたのは、彼女とその母の信じられないほどの「あきらめない姿勢」でした。母はその子を信じて黙々と仕送りを続けた存在として描かれていたようですが、フジコさんのあの強さはどこからわき出てくるのか、ちょっと考えてしまいました。

 もちろん音楽を表現する自分に対する限りない自信はすごいと思いましたが、それが何度も何度も現実によって打ち砕かれるにもかかわらず、その度ごとに想像を絶する短時間で次のアクションを起こして行くそのパワーの源泉がどこにあるのかについては、やはり謎がそのまま残ったような気がします。

 ただ、彼女が打ちのめされる度に、ドイツ、ウィーン、フィンランド、日本(国名は記憶がはっきりしませんのでいい加減かもしれません)などをいとも易々と移動して歩いたといういうことに、その秘密の一端があったのかもしれないと思っています。

 これもはっきりしませんが、番組の中で彼女の言葉として「私は世界に人が憎いと同じように、世界の人が好きだ」というようなことを言っていたと思いますが、この言葉は彼女が国境とういうものをあたかも町内会のような小さなものとしてしか見ていない、世界市民としてのスケールの大きさを感じさせるものです。「どんな国の人も同じなのよ」と言い切るすごさには参りました。

 彼女のような、ある意味で癖のある表現をする音楽家が生きていこうとする時に、それを支持してくれる人の数は少ないのだと思います。同じように、多数派にはなれない考えの持ち主が生きていくためにはその母集団は町内ではとても無理でしょうし、都道府県や国というサイズでも無理な場合には、世界を相手にすることでようやく生きる場を見つけられることもあるのではないでしょうか。

 「世界で認められる」ということは、逆に言うと「それほどポピュラーではない」という意味なのかも知れません。しかし、まず世界で受け入れられることによって日本国内でも受け入れられて生き易くなるのだとしたら、日本にこだわってがんばるより先に世界でやってみるという選択もあるのか、などとぼんやりと考えさせられた番組でした。

 それにしても、たばこスパスパのフジコさんはとても迫力のあるすごいおばさんでした。本人には怒られると思いますが、そんな姿を見てちょっとファンになりました。
# by stochinai | 2005-12-18 23:39 | つぶやき | Comments(3)
 札幌は昼頃から大雪です。なんとか自転車で大学にたどり着くことはできましたが、この調子で降り続くとおそらく帰りは自転車は無理でしょう。

 今朝まではなんとか見えていた夏の忘れ物の風車も、この雪で完全に雪の下になっているはずです。春まで、ゆっくりとおやすみなさい(^^)。
夏の忘れ物と5号館の地図_c0025115_14355170.jpg

 地図会社の昭文社がおもしろいサービスを始めたようです。ブログ記事に地図表示できるサービス「chizumado(ちず窓)」というものなのですが、おもしろそうなので早速登録してみました。

 それで作った理学部5号館を表示する画像をここに貼ってみます。うまく表示されるでしょうか。
理学部5号館

 どうやらうまく貼れたみたいですね。この仕掛けによって、昭文社の地図サイトからブログエントリーに飛ぶこともできるようですので、工夫次第でおもしろいことができるのかもしれません。

 ブログを利用してマップ作りをしようなどという方には特にお薦めです。
# by stochinai | 2005-12-17 14:40 | つぶやき | Comments(1)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


by stochinai