5号館を出て

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学力低下と愛国心

 あまりにもアホらしいのでほったらかしておこうと思ったのですが、天下の読売新聞の社説に問題があるのに指摘しないというのも、国民の義務放棄という気がしますので、書きます。というより、だんだんと腹が立ってきたというのが本音です。

 1月5日付・読売社説です。「[『戦後』を超えて]「『ゆとり教育』の“呪縛”断ち切れ…基本法に新たな針路」」というタイトルのものですが、完全に論理が破綻していると思います。

 まず、全体のロジックですが、学力低下がはっきりしたというのが起承転結の起です。そして結となる、その対処法が教育基本法の改正で、特に「愛国心」を「教育の目標」に書くと、学力低下(や学校の「荒れ」、少年非行:これは前を承けずにいきなり出てくる)に、「じわじわと効能が表れる」のだと主張しています。

 学力低下問題を入り口にしながら、その解決策に愛国心の育成を持ってくるなどという論理展開は、オカルト以外のなにものでもないと思います。

 まあ、気持ちはわからないでもないです。教育関係の問題ならば、出発点はなんでも良かったのでしょう。それが今は、たまたま学力低下の問題が大きな話題になっているので、自分が普段から主張したかった教育基本法の改正に結びつけたかっただけなのだと思います。

 論理のねじ曲げ方、をもう少し見てみましょう。

 「学力低下がはっきりした → ゆとり教育は間違いだった → 文科省が反省して、改善を図ろうとしている」と、ここまでは問題はないと思います。しかしそこでいきなり、学力向上などはどうでも良くて「今必要なのは、戦後六十年で教育が失ったものを取り戻すべく、まず「ゆとり教育」の四半世紀と決別することである」と高々と宣言してしまうのです。

 戦後60年で失ったものは愛国心だというのでしょうが、学力が低下したので国を愛する心を植え付けなければならないなどという「論理」は、足に泥が付いたので顔を洗いましょう、と言っているのと同じようなトンチンカンだと思います。著者の方の日本語および論理の学力が、低下しています。子ども達を責められません。

 問題はこのようにきちんとものごとを論理立てて展開することのできない人が、日本の知性を代表すると考えられる新聞社の中枢におられるというこの状況のほうだと思います。そして、それが印刷されてしまうことをチェックできない新聞社の体制も大問題だと思います。

 自分の主張したい愛国心教育を、学力低下問題から導入するなどという姑息な手段をおとりにならずに、なぜ国を愛することが大事なのかを素直に主張なさればよろしいかと思います。ストレートに主張して人を説得することができないのであれば、社説などはお書きにならないほうがよろしいと思われます。
# by stochinai | 2005-01-07 23:47 | 教育 | Comments(3)
 palagaさんという方から、つぶやきの記事(2004年12月30日の「犯人逮捕」)を引用させてもらいましたという、丁寧なメールを頂きました。「トラックバックの代わりにメールを送らさせていただきました」ということで、私のつぶやきはブログ仕様になっておりませんので、引用する時にはとても不便なのです。すみません。現在、ブログ修行中なので、そのうちにはなんとかなるかもしれません。

 palagaさんの記事は、番外編:奈良県の幼女誘拐殺害事件をどう考えるかというもので、性犯罪者の再犯可能性とその処遇について、現在の報道やワイドショーの中でメーガン法導入の動き,さらには薬物去勢などの導入について、かなり一方的な流れができつつあることに警鐘を鳴らしているものです。

 私が犯人逮捕直後に書いた文章にも、逮捕というニュースに興奮していたとは言え、やや安易なところがあったかもしれません。再掲してみます。

> 少なくとも変態的犯罪の前科を持っている人間は、定期的に監視するくらいのことをやっても良いと思われます。

 ここのところは、言葉足らずだったかもしれません。その後に「もちろん人権的な問題がありますので、その人の社会復帰を妨げるほど過剰になってはいけない」とは書いているのですが、「監視する」という言葉のニュアンスは受け取る人によってずいぶん違うかもしれません。

 しかし、現実問題として警察は前科者どころか政治的な「要注意人物」などに関しても、かなり詳細な(つまり、人権侵害が疑われるほどの)なデータを持っているらしく、右翼・左翼事件に関しては我々には驚くような事件の犯人が次々と検挙され、ニュースになってからびっくりするということが良くあります。

 つまり、警察がその気になれば、誰にも知られずにいろいろな人を監視を続けることができるデータはすでに持っているということが推測されます。

 もちろん過去に性関連犯罪を起こして、しかも有罪になっている人間のデータならば100%保存されていますから、その人たちの現住所を調べ今回の事件が起こった地域と重ね合わせるということは、絶対にやっていたと確信します。12月31日の極東ブログさんの記事奈良小1女児殺害事件、容疑者逮捕雑感でも、「後から考えると、容疑者には前歴があり、この手の犯罪は再犯を繰り返すということから、警察では早々に目ぼしを付けていたと思われるし、昨日の逮捕劇も年内決着を図るという政治面があっただろうと思う」という指摘には説得力があると思いました。

 つまり、今回の犯人は事件が起こってからそれほど遅くない時期に特定されており、逮捕はそれほど難しいことではなかったと思われます。しかし、今回の事件のようなケースでは、犯罪が起こってしまった後では遅すぎるということも、また事実なのです。

 ただし、メーガン法のように住民に前科者の犯歴を公開するなどという乱暴なことは、服役を終えて釈放されたものを再度(しかもリンチに近い方法で)罰することになり、明らかに法の精神に反することになると思います。そんなことをするくらいならば釈放しなければ済むことです。

 性犯罪というものは、精神的に問題がある人間が起こすものだと私には思えますので、そうであるならば刑期を終えて釈放された人間に対しては、保釈期間のように定期的にカウンセラーのような役割を持った人に面会を強制するというような手段はとれないものかと思います。つまり、一生を保釈期間にしてしまうのです。性犯罪というものは、そのくらい罪深いものではないでしょうか。

 私が前に書いたように、今回の犯人は逮捕されたがっていたようにも思われますし、場合によっては大阪の小学校児童殺傷事件を起こした琢磨のように死刑願望があるのかもしれません。

 そんな人間を相談相手もいない状態でほったらかしておいたとしたら、再犯を推奨していたようなものですから、単に釈放するのではなく親身になって相談相手になってあげるカウンセラーを用意してあげることこそ正しい処置ではないでしょうか。

 前にも書きましたが、事件が起こった後に犯人を逮捕するだけではなく、犯罪が起こることを防止するためにも、警察という組織を使ってはどうかというのが私の感じていることなのです。
# by stochinai | 2005-01-06 22:27 | つぶやき | Comments(0)

それでも選挙をやるの

 なぜかあまり大きなニュースにはなっていないので、あまり大した問題ではないのかとも疑ってしまいますが、バグダッド州知事、銃撃され死亡というのは、とんでもなく重大な事件なのではないでしょうか。

 知事と言えば、地方の最高権力者で、国で言えば大統領と同じような地位の人だと思います。ニュースでも「バグダッド州は18州の中で首都を抱える最重要州。昨年6月の主権移譲後、殺害された高官としては最高ランクになる」と言っていながら、ほとんど続報がないのはどうしたことでしょう。

 詳しく報道してしまうと、そんな中で今月の30日にイラク国民議会選挙などができるわけがないと、誰もが思ってしまうので報道を規制しているのでしょうか。

 この事件の直前にもイラク国防相、選挙延期の可能性言及というニュースがありました。国防大臣がエジプトの外務大臣に選挙のボイコットを表明しているスンニ派の説得を要請するために、カイロに行っていたようです。国防相は「スンニ派が説得を受け入れれば、選挙の延期も考慮する」と言っていたのですが、その後に知事の射殺事件が起こったと思われます。

 ニュースが少ない中で、イラク暫定政府の大統領の発言が報道されています。イラク選挙「国連が実施の判断」 大統領、延期論に理解ということです。さすがに、自分では延期するとは言えないのか、「実施可能かどうかの見極めは国連に責任と義務がある」と述べたとのことです。

 アメリカは昨年暮れに基地内の食堂で起きた爆破事件で13人もの米兵を一度に失った後でも、全国18州のうち17州で選挙の実施は可能と発表するなど、どうしても選挙をやろうと構えています。

 この状況で、もし選挙ができないということになると、アメリカのもっとも嫌悪する「テロに屈した」ことになってしまうので、選挙をやりたいという気持ちはわかります。

 しかし、ここは冷静になって欲しいところです。テロを恐れる多くの国民は、いくらアメリカや政府が守ってくれるといっても自爆攻撃の核になるであろうことが確実な投票所に出かけるでしょうか。誰も選挙に行かないで選挙が成立してしまったとしたら、ますます新しい政府の権威は落ちてしまうことでしょう。

 民主主義の選挙であることを示すのであれば、大統領がいみじくも発言したように、「多くの住民が投票できない事態となれば、選挙は成功したことにならない」のです。

 民主主義というものは、誰でもが投票する権利を持って、それを行使することで成立するものです。となれば、基本的にはテロリストであろうが、何派であろうが投票所に入ることを止められないはずで、冷静に考えるとテロを誘発するチャンスでさえあると思えます。

 しかし、今のイラクの大統領はアメリカがやろうとしている選挙を「できない」とは言える立場にないのでしょう。「国連に責任と義務がある」という言い方は、偉そうに聞こえますが、国連に「選挙は不可能である」と宣言してもらいたくて泣きついたセリフだと読めるのではないでしょうか。

 こんな時、我が総理大臣が親友に向かって「ジョージ、今は選挙は無理だよ。ちょっと延期しようぜ」とでも言ってくれると、国際的に男が上がるんでしょうけどねえ。
# by stochinai | 2005-01-05 20:42 | つぶやき | Comments(1)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


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