5号館を出て

shinka3.exblog.jp
ブログトップ | ログイン
 いよいよ歳も押し迫ってきました。

 遅れに遅れたのですが、年明けまで持ち越すこともできないので、書評を書きました。インターネット新聞JANJANに載る前に、こちらで発表します。

-----------------------

『食べものと農業はおカネだけでは測れない』書評

 農業の危機を我々のいのちの危機と認識しよう

-----------------------

 力作である。日本における食糧政策の歴史と、我々が置かれている食べ物を巡る状況が良く整理されている。読み終わってみると、自ずと我々のとるべき道が見えてくる。ただし、政府や巨大資本も同じ意見を持つかどうかは保証の限りではない。

 タイトルを見るだけで、おおよその内容が推測できる本ではあるが、9ページという比較的長めのプロローグがとても良く書かれていて、ある意味でこの本のすべてがその中に凝縮されている。そのため、プロローグを読むことで、敢えてこの本を買って読まなくても良いと思う人と、本を手に入れてより詳しくその解析と提案を読んでみたいと思う人に分かれるのではないかと思った。

 私は後者であった。

 本というものは、普通は書店へ出かけて手に取り、装丁を鑑賞し、前書きと後書きを中心にパラパラと拾い読みした後に、購入するかどうかを決める。しかし、今はネット時代。わざわざ書店に赴かなくても気に入った本を見つけることができれば、購入したいという人も多いと思う。

 そこでちょっと思ったのだが、こういうプロローグは全文をネットで公開してみてはどうだろう。それを読むだけで満足して買わないと言う人もいるだろうが、そういう人は書店でこの本を手にしても買わないだろう。逆に、ネット上でそのプロローグに出会い、購入してくれる人も多いのではないだろうか。すでに詳しい目次は公開されているのだが、目次では著者の文体などは伝わってこないので、購入の決め手にはなりにくいだろう。商売を離れても、著者の主張が世界に公開される意義も大きい。

 農業研究者である著者は「人間は他の生き物(のいのちの産物)を食べることによって、自らのいのちを継続してきた」という生物学的視点を見失わない。ヒトの命の危険に直結する高病原性トリインフルエンザ、BSE(狂牛病)、O-157、抗生物質耐性菌問題などが次々と起こっている現状を、科学技術による食べものの人工改造によって、食べもの自体が危険なものになるという人類未曾有の「食の危機・第三ステージ」に入ったと、著者は警告する。

 そうした状況を引き起こしたのが、農産物の商品化、グローバリゼーション、大規模農業などであり、それをを推進してきた日本のそして世界の農業政策の歴史を振り返り、絶望する前にその状態から脱するために我々にもできることがまだあることも教えてくれる。

 その解決策として、現代市民社会を農村市民社会へと再構築するという提案を、我々は受け入れることができるだろうか。さらには、それを受け入れる政府を、そして世界を作ることができるのだろうか。問いかけの意味は重い。
# by stochinai | 2004-12-29 00:00 | つぶやき | Comments(0)
 昨日の今日に、新潟ではまた比較的大きな地震があったようです。魚沼市で震度5弱 新潟中越地震の余震。雪も降っているようですし、ようやく今日から再開された上越新幹線も2時間ほど停止したとのこと、本当にお気の毒でなりません。

 ついつい長年の癖で、今日は「御用納め」と言ってしまいそうになるのですが、公務員ではなくなったので、今日は「仕事納め」です。

 大学内でも、そのことをあまり気にしていらっしゃらない方が多いみたいで、私は気を付けて「教員」と名乗るようにしているのですが、まだまだ自分のことを「教官」と呼ぶ方も多い周辺です。

 何か今年つぶやき忘れたことがあったような気がするのですが、授業料のことだったかもしれません。

 国立大授業料、1万5千円目安に値上げへ調整というニュースはちょっと前に流れましたが、大学内で話題になるふうもありません。国立大学の授業料値上げを文科省が押しつけを読んでもわかるのですが、授業料は別に値上げすることを強制されているわけではないのです。

 文科省としては、皆さんは法人化したのですから、授業料を上げるのも自由、上げないのも自由、さらには下げたっていいんですよ、とおっしゃっているようです。ただし、文科省が標準と定める授業料の値上げをしようがしまいが、来年度から大学へ配分する運営交付金は値上げ分相当を減額するとのことです。

 なるほど、それはうまい手です。しかし、一般社会では通用しない論理ではあります。たとえば、サラリーマンもやっている兼業農家で給料を下げるので、作っている作物を値上げして、その穴埋めをしなさいと言っているのと同じです。作物の値段は消費者の欲求との兼ね合いで決まりますから、自分の都合で値上げすると却って売り上げが落ちる可能性があるのです。

 国立大学の授業料はどうでしょう。これだけ強気で隔年くらいに上げ続けているということは、まだまだ値段を上げても売れると見ているということですね。ほんとうでしょうか。

 それはさておき、我が北海道大学は大学院生も含めると1万5000人以上の学生がおりますので、その数に標準値上げ分の授業料をかけ合わせると2億円以上です。別に授業料を値上げしなくてもいいんですけど、それだと2億円の配分が減りますよ、と言われて「それでもいい」と言えるかどうかを試されているのだと思います。

 もちろん、もっと値上げしても良いのです。文科省としては10%くらいは高くしてもいいと言っているようですので、例えば5万円値上げしてみましょう。そうすると、北大では7-8億円の増収になります。受験生が減るでしょうか。質の高い教育をする自信と名声があるならば、減らないと思います。それがないならば、やはりできない相談です。

 理想はさておき、このような状況に置かれて横並びを美徳とする日本人が取るべき行動はただひとつだと思います。全国の国立大学が横並びで、一斉に授業料を値上げする可能性がもっとも高いことが予想されます。

 しかし、これが法人化して最初に独自性が試されるチャンスだととらえるならば、安易に横並びにすべきではありません。

 値上げをしないか、値上げ幅を圧縮するか、あるいは標準額以上に大幅値上げをするか。いずれにしても、文科省とは独自に自分たちの高等教育に対する姿勢を示す良い機会だと思うのですが、首脳部はどう動くでしょう。

 そうでした。大学の中枢におられる方々は、そんなことを考えることより、次の学長選挙のことで大忙しなんですよね。
# by stochinai | 2004-12-28 00:00 | つぶやき | Comments(0)

大地震

 今年は(日本で)地震が多いのかな、とか思っていたら、とてつもない巨大地震がインドネシアのスマトラ島沖で勃発してしまいました。死者1万4千人超とのことです。

 マグニチュード9というエネルギーは、想像することすらできませんが、遥かアフリカまで津波が押し寄せ、ソマリアやケニアでも死者がでているという話を聞くと、なんとなく恐ろしさはわかります。

 遠いところの地震による津波被害というと、我々の年代ならすぐにチリ地震津波というものを思い出します。

 チリ地震津波についてというページを見てみると、1960年に起こったチリ沿岸の地震は、モーメントマグニチュードが9.5と今回よりも大きいことがわかりますし、そのページにある図をみるとスマトラとアフリカが意外と近いことと、太平洋を軽々と越えてに日本に大被害を及ぼしたそのすごさが想像できます。

 ちょうど、年末年始の旅行シーズンですから、津波が襲った日本人お気に入りのリゾート地(タイのプーケット島、ピピ島、カオラック島周辺)やモルディブ、スリランカなどには、たくさんの日本人ツアー客もいたようです。

 日本だと、小さな地震でも数分以内に津波情報が出されますが、今回の地域ではそのようなことはなかったに違いありません。

 それより何より、明るくなってビーチに出ていたらたとえ警報が放送されたとしても見聞きすることもできなかったでしょう。

 こんな時こそ、日本の海外協力が必要とされるのではないでしょうか。

 まず、イラクのサマワにいる自衛隊を全員、被災地へ派遣してはどうでしょう。少なくとも、サマワにいるより役にも立つし感謝もされると思います。

 つぎに、日本の地震ごの緊急警報システムを世界中に技術提供しましょう。

 ODAでも何でもいいですが、あるいはリーズナブルな値段ならお金を取っても良いでしょうが、日本にいる我々だけが地震と津波の警報システムに守られているというは、世界平和から見るとなんとも落ち着かないものを感じます。

 アメリカが動き出さないと日本は動けないのでしょうか。

 サマワから兵を引くことができないというのなら、次の派遣部隊を前倒しして被災地へ派遣してください。世界平和への貢献というのは、そういうことだと思います。
# by stochinai | 2004-12-27 00:00 | つぶやき | Comments(0)

日の光今朝や鰯のかしらより            蕪村


by stochinai